第494話「嘘をついてイエスと言っても、俺には分かる。お前達の魔力波動にゆらぎが生じるからだ」

仲間へ指示を出した俺は、勢いよく、大地を蹴り、走り出した。


しかし、『対象者達』に気付かれてはいけない。


リオネルは、いつものようにシーフ職スキルを駆使し、素早く走りながらも『隠形』『忍び足』で、すっ、すっ、すっ、と空気の如く進む。


約500mの距離まで近づくと、そこから一気には行かず、慎重に進む。


気配を完全に消し、木陰からそ~っとのぞいてみた。


フォルミーカ迷宮の深層に棲むアールヴの魔法使い、

イェレミアスに酷似した魔力を発する対象者達が一体、何をしていたか……


ある樹木数本に上り、黙々と収穫作業をしていたのだ。


そう、例の『食用となる柑橘類果実』をもいで、

各自が持つ魔道具らしきかごへ入れていたのである。


かごに、たくさん入れても、あふれないところを見ると、

空間魔法を付呪エンチャントしているらしい。


これで点と線がつながった。

対象者達が、古代遺跡に収穫物を持ち込んだ可能性が出て来たのである。


「やはりかあ……」


対象者は計4体、まだリオネルには気付いていない。


ただただ淡々と収穫作業を行っていた。


そしてリオネルが納得した通り、

イェレミアスに酷似した魔力を発する対象者の『正体』だが、

彼らは生身の人間ではなかった。


よ~く見覚えがある姿が、その中の2体にあったのだ。


容姿は身長2m弱くらい、男性の姿をした人間そっくりな人形だ。


人形の年齢は、リオネルと同じくらいの10代後半という雰囲気の少年仕様である。


リオネルの記憶が甦って来る。


……フォルミーカの迷宮に棲むアールヴからプレゼントされたゴーレム。

人間に近い姿をした自動人形オートマタと言った方が妥当。


ゴーレムは、頑丈で軽いミスリル製で、名をアートス。

会話が出来るから、話し相手になれるし、そこそこの戦闘能力もある。


そう!

作業をしている少年タイプのゴーレムは、

魔道具店クピディタース、店主ボトヴィッドの下で……

20年以上起動しなかったのを、

リオネルが再起動させた『アートス』にそっくりなゴーレムだった。


少年タイプのゴーレムは2体。


他にも少年より少し小柄な、同じ年齢くらいの少女タイプの2体も居る。


……都合4体。


これで全ての点と線がつながった。


さあて……彼ら彼女と、どう接触するのか、考えどころだな。


リオネルは、ぱぱぱぱぱぱぱぱ!と考える。


すぐに答えは出た。


こういう時は、小細工は禁物。


ストレート且つシンプルに行った方がベスト。


「おうい! 君達!」


木陰に隠れたまま、リオネルが声を張り上げると、

少年少女タイプのゴーレム4体は、一斉にこちらを見たのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


少年タイプ2体のうち、1体がリーダーのようだ。


リオネルが姿を隠す木陰へ話しかけて来る。


「人間か? 何者だ? 我々に何の用だ?」


感情がない無機質で、抑揚のない声。

ボトヴィッドの相棒、ゴーレムのアートスに良く似ている。


「俺は人間族の冒険者、リオネル・ロートレックだ」


「リオネル・ロートレック……全く知らない」


少年ゴーレムから、全く知らないと言われ、苦笑するリオネル。


更に少年ゴーレムは言う。


「声からすると、だいぶ若いな。リオネル・ロートレックよ、姿を……見せるが良い」


姿を見せろと言われても、リオネルはきっぱりと言う。


「断る。姿を見せて、いきなり攻撃魔法を撃たれてはかなわん」


「そんな事はしない」


「分かった。お前の言葉を信じてやりたいが、俺は用心深い。それより聞きたい事がある」


「何? 聞きたい事だと?」


「ああ、お前達の放つ魔力波動は、俺が知る術者に良く似ている。もしも関係あるなら、イエスと言ってくれ」


「関係あるなら、イエスだと?」


「ああ、俺は頼まれて、その術者あてに預かりものをしている」


「頼まれて、その術者あてに、預かり……もの」


「ああ、そうだ。ただし、嘘をついてイエスと言っても、俺には分かる。お前達の魔力波動にゆらぎが生じるからだ」


高位の念話を習得したリオネルには読心の技がある。

心がないゴーレムの読心は不可能だが、偽りの言葉を発した場合、

魔力波動にゆらぎが生じる。


リオネルの言葉を聞いても、少年ゴーレムは反応しない。


無言である。


「………………」


「では、言おう。その術者の名は、イェレミアスだ」


リオネルがそう言うと、少年ゴーレムは無言のまま、わずかに反応を見せる。


魔力波動が、ゆらいだのだ。

嘘云々ではない。


イェレミアスという名を聞き、正直に反応したのである。


「………………」


「どうだ? 答えは?」


尋ねるリオネルに対し、少年ゴーレムは答える。


「………………イエスだ」


頷くリオネル。


「分かった……嘘は言っていないようだ」


「当然だ……」


と言い切る少年ゴーレムだが、いきなり!

放つ魔力が強力となる。


そして、


「リオネル・ロートレックとやら! 私への届け物を、どこの誰に頼まれたのだ?」


今までと全く違う口調で、リオネルへ問いかけていたのである。

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