第477話「魔獣兄弟ケルベロス、オルトロスが、冥界の蒼き炎「獄炎波」を吐いた」

微笑んだリオネルは大きく頷くと、南方に見える岩まじりの砂漠上空へ、

一気に飛翔した。


火の精霊サラマンダーに擬態したファイアドレイク、

1mの鷹に擬態した鳥の王ジズより、上空の位置へ。


『大鷲の目』を使い、

おびきだされた大巨人ヨートゥン5体とその周囲に展開する仲間達を見守る。


リオネルと戦ううちに、仲間達も自身の役割を自覚し、適材適所に徹していた。


ヨートゥン5体は全て、憤怒の波動を発している。


その周囲を一定の距離を保ちながら、仲間達は勝手に攻撃を仕掛けない。


リオネルの指示を待っているのだ。


大きく頷いたリオネル。


状況を把握し、ぱぱぱぱぱぱぱ!と考え、念話で指示を出す。


『皆、おびきだしを良くやった! 地上部隊は一旦50m、ヨートゥンから距離を取れ! ファイアドレイク! ジズ! 仲間が一時撤退するまで、10秒待ち、上空から火炎と風の魔法でヨートゥンをかく乱しろ!』


リオネルの指示を聞き、魔獣兄弟ケルベロス、オルトロス、後詰のアスプ達20体も、ヨートゥンから50m後方へ、距離を取る。


『地上部隊』が、一旦50m、ヨートゥンから距離を取ったのを見届け、


ごおおおおおおおおおっっっっっっっっ!!!!!


火の精霊サラマンダーに擬態した火竜ファイアドレイクは灼熱の火炎を吐き、


「!!!!!!!!!!」


ヨートゥンがダメージを受け、ひるんだところを、1mの鷹に擬態した鳥の王ジズが、重い大気の塊たる風の魔法『風弾』を撃ち込む。


どしゅっ! どしゅっ! どしゅっ! どしゅっ! どしゅっ!


ファイアドレイク、ジズとも相当な威力の攻撃を放った。


しかし、リオネルの指示通り、あくまでも『かく乱』本気の攻撃ではない。


そして、ヨートゥンも、ファイアドレイク、ジズの攻撃を受けて、あまりダメージを負っていない。


傷が回復してしまうのだ。


ヒュドラまではいかないが、結構な再生能力である。


この攻撃は『かく乱』と同時に、ヨートゥンの耐久度を確かめる意図もあった。


次に動くようリオネルが指示を出したのは、後詰のアスプ達20体だ。


コブラ蛇に酷似した魔獣アスプは、飛行は不可能。

しかし、地を飛ぶように高速で走る。


また石造りの迷宮で遭遇し、捕獲したアスプ達だが、本来は砂漠のようなこの地でこそ本領を発揮するのだ。


『アスプ達! 睡眠誘因と毒牙でヨートゥンを攻撃しろ! 戦法は、ヒットアンドアウェイ!「一撃離脱」だ! 奴らには絶対に捕まるな!』


最後の注意にリオネルの『心配』が込められていた。

怪力のヨートゥンに捕まれば、アスプは容易に引き裂かれてしまうからだ。


そんなリオネルの優しい思いやりの波動を感じ、アスプ達は気合を入れ、奮い立つ。


アスプは常につがいで動き、パートナーを大事にする魔物である。

パートナーが倒されると、復讐に燃えるほど情が深い。


更に地味な後詰、牽制役が多いアスプ達は、あるじリオネルの為、

手柄を立てようと燃えていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ヨートゥンが、炎と風の魔法でかく乱されたところへ、

10組のつがいアスプ計20体が、襲いかかる。


リオネルの指示通り、ヒットアンドアウェイ!「一撃離脱」

蝶のように舞い蜂のように刺す!のスネークバージョンだ。


しかし、さすがはヨートゥン。

頑健な肉体を誇り、人間では即座に死へ至るアスプの猛毒でも、

多少ふらふらする程度。


しかし!

アスプ達の睡眠誘因がヨートゥン達を死への眠りに誘う。


ヨートゥンは全員が眠そうな顔つきとなっていた。


『よし! 良くやった! アスプ隊下がれ!』


リオネルの言いつけ通り、1体の犠牲者も出さず、アスプ達は撤退した。


『魔獣兄弟ケルベロス! オルトロス! お前達に1体ずつ計2体任せる! 残りの3体は俺が倒す!』


対して、


あるじ! ヨートゥンどもを! 弟とともに、冥界の炎、「獄炎波」で倒してやる!』


『おう! 兄貴の言う通り獄炎波で行くぜ!』


魔獣兄弟が使う獄炎波……ゲヘナの炎とも言われる特殊攻撃だ。


以前リオネルが数回見た、『蒼き炎』の事だ。


魔獣兄弟が不死者アンデッドなどを倒す際、まれに使う炎の息であり、

受けた敵は塵となり、あっさりと消失していた。


魔獣兄弟が、なぜ不死者アンデッドに絶対的な威力を持つ獄炎波を使うのか……


それは自分がヒュドラ戦の時、スキル『貫通撃!!』の魔力を込める『破魂貫通撃はこんかんつうげき』を、思い切り『極大レベル』で放ったのと同じ理屈かもしれない。


「獄炎波」は『破魂貫通撃はこんかんつうげき』のように、不死者が持つ再生能力を封じ込めると。


がっはああああああああああ!!!!!!!!


がっはああああああああああ!!!!!!!!


魔獣兄弟ケルベロス、オルトロスが、冥界の蒼き炎「獄炎波」を吐いた。


ぎゃあああああああああ!!!!!

ぎゃあああああああああ!!!!!


絶叫が砂漠に鳴り響いた。


と同時に!


ケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟は大きくジャ~ンプ!!!


「獄炎波」に焼かれるヨートゥンの急所、喉元を喰いちぎっていたのである。

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