第476話「これも自分で立てた課題のひとつ、楽しみにしていた実戦訓練だ」

猛毒と瘴気の蛇竜、不死と怖れられたヒュドラを倒したリオネル。

完全に汚染された沼地も、地の最上級精霊ティエラから授かった加護で浄化。

あっさりと本来の姿へ戻した。


沼地の浄化後……

リオネルは引き続き、フォルミーカ迷宮地下122階層を探索する。


先行し、盾役、攻撃役、斥候役、そして勢子役を臨機応変に務めるのは、

魔獣兄弟ケルベロス、オルトロス、


火の精霊サラマンダーに擬態した火竜ファイアドレイク、


そして、やっと広い空間で本領を発揮出来ると張り切る、


1mの鷹に擬態した鳥の王ジズの4体だ。


リオネルは、相変わらず、シーフ職スキルを駆使し、


『隠形』『忍び足』で、すっ、すっ、すっ、と空気の如く進む。


約15分ほど歩いただろうか。


リオネルの索敵……魔導光球、魔力感知ともに反応があった。


『おお! ヒュドラの次は大巨人だ! それも複数かよ! やったぜ!』


思わず念話で叫ぶリオネル。


ほぼ同時にケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟も敵の出現を告げて来る。


あるじよ! 敵を発見! 北の大巨人ヨートゥンが5体だ! 主、指示を頼むぞ!』


『おう! 主! でかぶつの脳キン野郎が5体だぜ!』 


『!!!!!』


『!!!!!』


ファイアドレイク、ジズも思念伝達で、

これくらいなら俺達へ任せろ! と告げている。


補足しよう。

ヨートゥンとは、荒々しく破壊的な大自然の力を象徴し、『霜の巨人』とも呼ばれる。

原初の巨人ユミルの子孫であり、一時は、大地を埋め尽くすというほど繁栄した。


だが、北の大神一派がユミルを殺し、その死骸から世界をつくった際、

ユミルから溢れ出した血液の大洪水で、そのほとんどが死滅してしまったという神話がある。


その神話では、唯一、ベルゲルミルというヨートゥンとその妻だけが生き残り、

それが現在のヨートゥンたちの祖先になったと伝えられる。


彼らは巨人の国ヨートゥンヘイムへ移住。

神々に抵抗する凶悪な勢力として反撃の機会をうかがっているという。


ちなみに大神の母親もヨートゥンであり、

魔神とうたわれるロキもヨートゥンの血を継いでいる。


ヨートゥンヘイムへ移住したヨートゥンの子孫達が、

系統的には同じ流れをくむトロルとともに、

流れ流れてこのフォルミーカ迷宮へ来たのだろうと推測される。


だが……真偽のほどは定かではない。


ただフォルミーカ迷宮のヨートゥンは、魔法や火を吐くなど特殊攻撃はないものの、

底知れぬ膂力、頑健な肉体を誇り、

ヒュドラほどではないが、再生能力も持つ強敵である。


さてさて!

周囲を見渡し、ぱぱぱぱぱぱぱ!と考えたリオネル。


仲間達へ作戦を告げる。


『今回も、巨人フォモール、ノーマルタイプドラゴンと同じく、おびきだし作戦で行く。火炎攻撃をしたら、この周辺一帯が延焼するからな。ヨートゥンの奴らを、今度は南方に見える岩まじりの砂漠へおびき出せるか?』


相変わらず、冷静沈着且つ的確なリオネルの指示と問いに対し、仲間達は、


『うむ! お安い御用だ!』


『はははは! ノープロブレム! ちょろいぜ!』


『!!!!!』


『!!!!!』


全員、問題なし!


と戻して来た。


アスプ達20体もフォローしよう!


と告げて来たのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リオネルの指示に従い、仲間達は大巨人ヨートゥンを挑発した。


ヨートゥンは、神と人間に敵意を持つと言われ、とても凶暴な性格である。


しかし、魔獣兄弟の弟オルトロスが告げた通り、


一部の者を除いては、

良く言えばシンプルで真っすぐな思考、

悪く言えば、知性が劣ったでかぶつの脳キン野郎なのだ。


それゆえ、簡単に挑発に乗った。


灰色狼風に擬態した魔獣兄弟ケルベロス、オルトロス、

火の精霊サラマンダーに擬態した火竜ファイアドレイク、

1mの鷹に擬態した鳥の王ジズ、

そして、コブラ蛇のような魔獣アスプ達20体……


仲間達は、身長15mに達するヨートゥン5体を挑発し、

リオネルが指示をした南方に見える岩まじりの砂漠へ、巧みに誘い込んで行く。


よし!

上手くやってくれてるな!


飛翔フライト!』


飛翔魔法の言霊を詠唱したリオネルは、聖なる風に包まれ、宙に浮き上がる。


再生能力対策は、さっきの対ヒュドラ戦を応用するとして、

ヨートゥンのパワーに対抗しつつ、頑健な肉体を撃ち抜けるか。


これも自分で立てた課題のひとつ、楽しみにしていた実戦訓練だ。


さて……どう戦うか。


微笑んだリオネルは大きく頷くと、南方に見える岩まじりの砂漠上空へ、

一気に飛翔したのである。

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