第458話「いやあ、でもちょっち長いな。 ……再考するか」

地下深き迷宮とは思えない、フォルミーカ迷宮地下121階層。


天井の高さは100m以上もあり、探索する『フロア』は、

地上の自然環境と全く変わらない、雄大な空間が広がっている。


その地下121階層にて、出現した異形の巨人フォモールは、

30体の内、ケルベロス達により、あっという間に25体が倒された……


残りは5体。

リオネルの指示通り、主の自分が倒す分を、仲間達は残してくれたのだ。


大きく頷いたリオネルは、50mの高さからゆっくりと原野へ降下した。


同胞を次々と葬られ、たった5体となったフォモールどもは、

目の前に降りて来たリオネルを見てとても驚き、大きく咆哮し、威嚇した。


同胞を殺された腹いせに、人間のお前を喰らう!


これまで喰らった人間同様、ぐじゃぐじゃに引きちぎり、

苦しめながら、喰い殺してやる!


念話で心を読まずとも、フォモールどもからは、

殺気がこもったそんな波動が伝わって来る。


「ふう」と息を吐いたリオネル。


目の前のフォモールは、全てが身長3m強。

体重は300㎏を超えているだろう。

たくましい人間の身体に獣頭がついている。

山羊、馬、牛など様々だ。


しかし、フォモールは魔法を使えない。

稀に上位種として変異体として、様々な能力を持つ魔眼を備える者が現れるという。


だが、目の前の個体5体からは、特異な力を何も感じない。


ならば、臆する要因は何もない。


リオネルが原野の真上、宙に浮いていた時、考え決めたが、

『試したい事がある』のと、『身体の鍛錬』も兼ね、フォモールとの戦いは格闘で行く事にした。


格闘では、これまでにオーガキング、狼男ワーウルフなどを、

楽勝、圧勝で倒している。


フォモールの能力は、オーガキングと同等か、10%増しくらいで計算していた。


当然、基本となるのは師モーリス直伝、不死者アンデッドに絶大な威力を誇る破邪聖煌拳はじゃせいこうけんだ。


目の前でリオネルを睨み、唸り、威嚇するフォモール5体。


念話でリオネルは淡々と告げる。


『おい、てめえら、良うく聞け』


軽く息を吐くリオネル。


『……人間の冒険者を散々喰らい、餌としたお前らには、俺のかてになって貰う。成長する為の経験値となって貰うぞ』


瞬間!


立っていたリオネルの身体が、「ぶれた」ようになり消える。


転移魔法ではない。


超人的な身体能力を使い、超高速でダッシュし、動いたのだ。


そんなリオネルの神速の動きを、緩慢なフォモールが捉えられるわけがない。


どががっ!


ぎゃ!


リオネルの拳が、隙だらけな、一番右側のフォモールの脇腹へ、

吸い込まれるように、深々と叩き込まれた。


一見、破邪聖煌拳はじゃせいこうけんの単なる突きである。


しかし!


ごおおおおおおおおおおおおっ!!!!!


短い悲鳴と同時に何と何と何と!

拳を喰らったフォモールの身体が、

リオネルの魔法で生み出された凄まじい炎と一体になり、激しく燃え上がる。


そう! 今居るここは岩だらけの原野。

密林までは十分な距離があり、延焼する心配はない。


そして!

身長3m強のフォモールはあっという間に炭化。

粉々に崩れ落ち、絶対に復活出来ない『単なる塵』と化したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


1体目のフォモールを拳で炎上させ倒したリオネル。


2体目のフォモールへ繰り出されたのは、

風をまとった破邪聖煌拳はじゃせいこうけんの蹴りだ。


フォモールの胴へ打ち込まれた蹴りは、まるでかまいたち。

鋭い刃物のように、あっさりと肉体を切断する。


しゅばばっっっっ!!!!!


そしてまっぷたつにされた、フォモールの肉体は血をまき散らしながら、地へ伏し、

やはり塵となってしまった。


リオネルは、次々と、フォモールを屠って行く……


3体目は、風をまとった『かまいたち』の拳で、まっぷたつにされ、

あっさりと塵になった。


4体目は、炎の蹴りでガンガン燃え盛り、

最後の5体目は、二度目となる炎の拳できっちり締めた。


倒されたフォモールは、いずれも即、塵になったのはいうまでもない。


結局、リオネルは、5分かからず、5体のフォモールを倒していた。


5体のフォモールは炎で燃え上がり、『かまいたち』たる風により切り裂かれた。

加えて、不死者アンデッド化出来ないよう、死骸は塵となった。


……もう思い当たった方も居るやもしれない。


リオネルは、破邪聖煌拳はじゃせいこうけんの格闘技へ、

火、風の属性攻撃魔法、貫通撃、葬送魔法、3つの魔法をMIXして加える事を成功、

『新たな技』としたのだ。


常日頃からいろいろと考え「これは良かれ」と思えば……

習得した既存魔法の改良を考案。

ためらいなく試し、成功したら、臨機応変に使う。


ダメならまた違う方法を試し、チャレンジする。


まさにトライアルアンドエラー。


これまで何度もリオネルが行って来た事だ。


既存の枠や経験にとらわれ過ぎないリオネルの長所だ。


望む結果が出て、リオネルは微笑む。


よし、上手く行った。

とりあえず成功、課題はクリアだ。


この技は破壊力は抜群だし、いちいち、葬送魔法を行使して、

散乱した死骸を始末して回らずに済む!


組み合わせのパターンも、もっとありそうだし、応用もききそうだ。


この技の名前はどうしよう。


う~んと、そうだな。


破邪聖煌魔導真拳はじゃせいこうまどうしんけんとでも名付けておくか!


いやあ、でも、ちょっち長いな。

……再考するか。


と、そこへ仲間達が、駆け寄って来る。


あるじよ、見事な手際だ! 我々が倒したフォモールどものは死骸は、ファイアドレイク、ジズが倒した分も、パーフェクトに始末しておいた』


『おう! 兄貴の言う通り、跡形もなく、全て燃やしておいたぜ!』


進み出たケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟は、


『さあ、主、ぐずぐずせず、先へ行くぞ!』


『ああ、俺達がばっちり、露払いをしてやるぜ!』


と言い、


『!!!!!!』


『!!!!!!』


ファイアドレイク、ジズも出発を促したのである。

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