第457話「あっという間に残りは5体。 主が倒す分を仲間達は残してくれたのだ」

『よし! フォモールどもを原野へおびき寄せたら、好きな方法で各自が5体ずつ、倒してくれ! アスプ達は全員で5体だ。そして、残った5体を俺が倒す!』


対して仲間達は全員が、


『了解!』


と戻して来た。


リオネルはしばし、戦況を見守る。


ケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟は、フォモールどもを挑発した。


そこへ、ジズが傷ついた鷹を装い、ふらふらと力なく飛んだ。


挑発への怒り、餌になるであろう鳥の誘惑に負け、

フォモールどもは、魔獣兄弟とジズを捕まえようとする。


しかし、魔獣兄弟は身を翻し、ジズも「すいっ」とスルーした。


そのまま、リオネルの指示通り、東方にある原野へ向かう。


当然、フォモールどもも追いかける。


更にその背後から、こっそりと、

火の精霊サラマンダーに擬態したファイアドレイク、

魔獣アスプ20体が追いかける。


さあ!

俺も原野へ移動だ!


索敵……魔力感知に人間の気配はない。

秘する魔法の発動に問題はない。


よし!

先回りしてやれ!


呼吸法で体内魔力を練り上げたリオネル。


飛翔フライト!』


心で言霊を念じ、ぶわっ!! と宙に舞い上がる。


更に、空気界王オリエンスから風の加護を受けたリオネルの身体は、

巻き上がる一陣の風とともに、迷宮地下世界の上部へ向かい、放たれていた


迷宮に入る少し前から発動していなかったから、飛翔魔法の行使は久しぶりだ。


しかし、迷宮へ入る前、地上で散々基礎訓練を積んだせいか、

飛翔魔法の発動は円滑、スムーズである。


リオネルは、オリエンスに従う眷属シルフのリーアが告げた事を思い出す。


『そうよ! リオネル君の周囲を取り巻く聖なる風は、防御壁として敵の物理的な攻撃を大幅に和らげるのは勿論、心身の不調さえも是正する力を持っているわ』


真っ暗な迷宮で重く淀んでいたような大気も、この広大な地下世界121階層では、清々しい。


元々、迷宮のような閉所でも消える事無く、

加護には全く問題ないと言われた聖なる風……

 

だが、どこからともなく吹き込む地下121階層の風は、

リオネルの身体にまとう聖なる風を完全に復活させた。


風の力がますますみなぎるのをリオネル感じる。


リオネルは地上から約50mまで上昇。


空中に静止し、岩だらけな荒涼たる原野を見やった。


うっそうとした密林に視界をさえぎられるが……


逃げる魔獣兄弟、ふらふら飛ぶ鷹に擬態したジズ、

追いかけるフォモールども、

その背後からそっと追いかけるファイアドレイクとアスプ達の気配を捉えた。


よし!

各自の位置は全て特定した!


頷いたリオネルは、しゅ!と風を切り、原野までひとっ飛び。


あっという間に原野の真上50mの位置へ。


宙に浮いたまま、腕組みをしながら待つ。


……やがて、魔獣兄弟、ジズを追い、フォモールども30体全てが密林を抜け、

原野に現れた。


その後から、ファイアドレイク、アスプ達20体も現れる。


原野の真上、遥かな高みからリオネルが『大鷲の目』で見守る中……


魔獣兄弟ケルベロス、オルトロスが、身体をぶるぶるっと震わせ、

ひと回り大きくなった。

擬態した姿でパワー負けしないよう、少しギアを上げたようだ。


けがを装っていたジズも、何事もなかったかのように元気に飛び、

フォモールどもの頭上10mに位置した。


そして、追って来たサラマンダーに擬態したファイアドレイクも、

試運転だ! とばかりに燃え盛る火炎を天井へ吐いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


何もない岩だらけな荒涼たる原野に連れて来られ……


「まんまと、誘いだされた」と、ようやく気付き、

異形の巨人フォモールども30体は怒り狂う。

こん棒を振り回す者、拳を突き上げる者、足を踏み鳴らす者、様々である。


リオネルの仲間の本性を知らないせいか、臆する者は居ないようだ。


ここで補足しよう。

フォモールは、山羊、馬、牛等の頭を持つ獣面異形の巨人族であり、

丸太のようなこん棒、小山のような岩石を事もなげに扱う、人喰いの怪物だ。


基本的に魔法を使わず、ごく稀に魔眼を持つ者も現れる。

だが、肉体のパワーと頑健さを武器とする。


さてさて!

フォモールどもを原野へ誘い出した後、リオネルの指示はこうだ。


『よし! フォモールどもを原野へおびき寄せたら、好きな方法で各自が5体ずつ、倒してくれ! アスプ達は全員で5体だ。そして、残った5体を俺が倒す!』


真上に居るリオネルの気配を捉え、頃合いと見たのだろう。


うおおおおおおんん!!

うおおおおおおんん!!


ケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟が、威嚇の咆哮を放つ。

相手を麻痺させるほど、強力な咆哮ではなく、仲間達へ気合を入れる為の『号令』らしい。


まずは魔獣兄弟が飛びかかり、容赦なくフォモールへ牙を立て、爪で切り裂いて行く。


ジズは翼から風の刃を次々と放ち、フォモールをぶった斬って行く。


火の精霊サラマンダーに擬態したファイアドレイクは灼熱の火炎を吐き、容赦くなくフォモールを焼き殺して行く。


そしてアスプ達は、睡眠を誘引させ、前後不覚となったフォモールを、

猛毒の牙で屠って行く……


武器はこん棒と膂力だけのフォモールなど、

常人には怖ろしい強敵でも、今のリオネル達には単なる雑魚だ。


原野は阿鼻叫喚の地獄と化した。


あっという間に残りは5体。

主が倒す分を仲間達は残してくれたのだ。


大きく頷いたリオネルは、ゆっくりと原野へ降下したのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る