第432話「明日は魔獣兄弟と一緒に、おいらも勢子をやってやるよ」

銅製を計100体、ミスリル製を計100体ゲット。


先に確保した岩石製、鋼鉄製の200体を合わせ、

リオネルは、計400体のゴーレム軍団を作り上げた。


という事で、時刻は午後5時。


ず~っと、ゴーレム捕獲を続けていたリオネルは、地下80階層へ到達していた。

この地下71階層から80階層までは、まともなバトルをしていない。


少し早いけれど、本日の営業は終わり……だな。


ふと……

冒険者デビューした際、受諾した『薬草、鉱石採取』を思い出す。

王都近郊の草原で、スライムを倒しながら、薬草を採取したっけ……

時間的なリミットなし、無期限の仕事なので、現在も受諾したままだ。


ゴーレム400体の捕獲は、鉱石採取の一種かな?

報奨金は……貰えないよな?


ふっと、笑みが浮かぶ。


そういえば……リオネルの心に、

いつまでも変わらない、美しく優しい笑顔が浮かんで来る。


懐かしい……


自分の初恋の女性、冒険者ギルド王都支部の職員ナタリー・モニエさんは、

今も、元気に暮らしているだろうか?


ナタリーは初めて好きになった年上の……大人の女子だった。


ワレバットへ旅立つ自分を、先輩同僚後輩のギルド有志女子達とともに、

送別会を催してくれ、楽しく、送って貰った……


彼女は自分との邂逅を、交流を、

「『生きる励み』にしてくれた」と身内のブレーズからは聞いた。


甘酸っぱい……破れた初恋の記憶とともに……

送別会のひと時、『生きる励み』……

心に刻んだ、一生忘れられない想い出となった。


さてさて!

先の約束通り、リオネルは、この地下80階層で、

魔獣ケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟と合流。

『小ホール』へ入った。


ケルベロス、オルトロスは機嫌が良い。


あるじよ、ゴーレム捕獲はとても順調だったようだな。我ら兄弟も、リザードマン、バジリスク、コカトリスを思う存分倒したぞ』


『おお、兄貴の言う通りさ。俺達は攻撃無しで、ず~っと勢子役オンリーだったからな。ああ、念の為、仲間にしているアスプの同胞だけはスルーしておいたぞ』


魔獣兄弟はそう言うと、『じゃあ行って来る!」と、

『巡回』へ出かけて行った。

小ホールでキャンプするリオネルを守る為、また接近する冒険者を報せる為だ。


対して、リオネルはいつもの通りキャンプの支度をしながら、


『ああ、上手く行ったよ! 本当にサンキュー! ふたりとも、お疲れ様!』


と、去って行く魔獣兄弟の背へ、念話で『ねぎらい』の言葉を送っていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


キャンプの支度を終えたリオネル。

続いて夕食の支度も終わらせる。


ここで巡回に出ていた、ケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟を戻らせた


山猫亭の弁当が続いたので、今夜は趣きを変え、

魔導コンロを使い、パンのおかずにウインナー、スクランブルエッグを作り、

コンソメスープを温めた。

大量に作っておいたポテトサラダも、こぶし大を出しておく。


ケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟には大肉塊を与え、

ジャンには、お約束の焼き菓子と紅茶を。


さくさくっと、食事をしたリオネル。

ケルベロス、オルトロスは、再び巡回へ。


残ったリオネルはジャンを伴い、明日の予習を行う。


フォルミーカ支部製迷宮の地図を広げる。


地下80階層……

人間が未踏と言われる目指す地下300階層へ1/4を過ぎた事となる。


まだまだ遠いな。

先は……長い。


明日降りる地下81階層は……

疑似生命体の領域か!


ゴーレムは、今日捕獲した銅製、ミスリル製に加え、銀製、水晶製が加わる。

また、ガーゴイルも出現する。


再び、改めて補足しよう。

ガーゴイルとは、元々、建築物に魔除けを兼ねた雨どいとして造られた彫像である。


その彫像が活動するものがリビングスタチューとも呼ばれ、

魔法や憑依により、疑似生命体化したものである。


リビングスタチュー、ガーゴイルは膂力が強いのは勿論の事、

造形された対象の能力を持つ事も多い。

例えば、造形がドラゴン、グリフォンならば、そこそこの速度で飛行し、爪と牙で襲って来るという。


また、目の前に現れた悪魔型ならば、低位の魔法を行使する場合もあるのだ。


素材が岩石や金属などで造形されている為、通常の剣ではダメージが与えにくい。


ガーゴイルは、ゴーレム同様、痛覚が無い。


なので、痛みを感じて臆する事がない。


冒険者にとっては、強敵の部類に入る。


英雄の迷宮では、ガーゴイルは、人外等の憑依ではなく、

ゴーレムと同じ原理で動いていた。


このフォルミーカ迷宮においてはどうだろうか?


英雄の迷宮では全て倒し、破壊してしまったが……

もしも同じ仕組みならば、捕獲したゴーレム同様、ガーゴイルを仲間にしても良いかもしれない。


当然、銅製、ミスリル製、銀製、水晶製ゴーレムの捕獲は必須だ。


『リオネル様。この先から10フロアは、もう毒とか、石化とか、そういう敵は居ないんだろ?』


『ああ、居ないよ、ジャン。ゴーレムとガーゴイルのみだ』


『じゃあ、楽勝だ! ガーゴイルの飛行攻撃だけ気を付けりゃいい! 明日は魔獣兄弟と一緒に、おいらも勢子をやってやるよ』


リオネルから話を聞いて、張り切ったジャンはVサインをし、

勢子役を買って出たのである。

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