第433話「たったひとりで、ここまで来て、この先も行くと言うお前は、本当に凄いぞ!」

リオネルから話を聞いて、張り切ったジャンはVサインをし、

勢子役を買って出た。


すると、ケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟も、ガーゴイルのみの討伐と、

ゴーレムの勢子を務める事を確約してくれた。


これで万全。

明日は、ゴーレム軍団の充実を目指そう。


と、リオネルが張り切った時。


張り巡らされた索敵……魔力感知に反応があった。


巡回中のケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟も『接近者』を報せて来る。


何と!

リオネルがまだ足を踏み入れていない81階層に現れたのだ。

人数は10名ほど。

数人がかりで、何かを運んでいるのが分かる。


もう少ししたら、80階層へ上がって来るだろう。


何だ?

……冒険者クランみたいだけど、この気配は人間族じゃないぞ。

ええっと、これは……妖精族の末裔、ドワーフことドヴェルグ族かあ。


エルフことアールヴ族もそうだけど、ドヴェルグ族ともあまり話した事がないなあ。


補足しよう。

ドワーフことドヴェルグ族は、北の神に仕えた妖精の末裔である。

一説によれば、巨人にたかった虫が神により知性と肉体を与えられ、

それが妖精に進化したとも言われている。


身長は150㎝から160㎝と小柄。

がっちりした筋肉質の体格で、性格は頑固。

ひげを伸ばす者が多い。

土中、洞窟等を好み、鉱脈、金属に詳しく、鍛冶の技術に秀でている。


排他的な部分もあり、進んで人間族とは交流しないが、

打ち解ければ、好意的になってくれる。

また自ら人間社会へ出て、生活したり冒険者になる者も居る。


ちなみにエルフことアールヴ族とドワーフことドヴェルグ族は、

犬猿の仲なのはあまりにも有名だ。


良い機会かもしれない。

悪意の念は全く感じないし、機会があれば、彼らと話してみよう。


果たして……

約1時間後にドヴェルグ族のクランは、地下80階層に現れた。


リオネルがキャンプする『小ホール』へ近づいて来る。


ケルベロス、オルトロスは『巡回中』で『小ホール』には居ない。

ジャンの姿は見えないし、もし存在を指摘されても、ボトヴィッドの時みたいに、

曖昧に答えれば良い。


さてさて!

いつドヴェルグ達が来ても、スタンバイOK!


リオネルは『小ホール』で、キャンプの支度をした傍らで、敷物を広げ、

ちょこんと座っていた。


やがて……

ドヴェルグ達が現れた!


3人がかりで銀製のゴーレムを1体運んでいた。

後の7人は『護衛役』だ。


たったひとりで居るリオネルを見て、ドヴェルグ達はぎょっとする。


「「「「「「「「「!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」


こんな深い階層で、ひとり『ぼっち』で居るのは、凄く奇異に映るのだ。


しかし、リオネルの柔らかい笑顔は、ドヴェルグ達の排他心、警戒心を大いにやわらげ、すぐに打ち解けさせたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


約1時間後……


リオネルは、ドヴェルグ達10人の冒険者と完全に打ち解け、仲良くなった。

そしてゴーレムを倒し、回収する事情を聞いたのである。


ここに居る10人は、全員がランクBのランカー冒険者。


地下81階層から銀製のゴーレムを運んだ事からも分かる通り、

ドヴェルグ達が迷宮へ入った主な目的は、鍛冶に使う素材探しであるらしい。


多大な時間を使い苦労して鉱脈を探しあてて掘り出し、

手間をかけ精製して金属のインゴットを作るよりも……

魔物が跋扈し危険ではあるが、地下迷宮へ潜り、

『歩くインゴットである金属製ゴーレム』を倒し、

地上へ運び出すのが手っ取り早く、効率的だ!と、

彼らの族長が判断し、命じたそうだ。


もともとドヴェルグ達は、人数も100人以上からなる、とても大きなクランであったという。


でも、現在この場に居るのはたったの10人。

リオネルは、他の90人はどうしたのか聞いてみた。


ドヴェルグ達は笑顔で教えてくれた。


クラン100人のうち50人はランクCの中級冒険者。

魔物が強くなる深層へは行けない。


それゆえ、リオネルが岩石製、鋼鉄製のゴーレムを捕獲した、

まずは100人で、地下41階層から50階層で主に活動。

結果、大量の『鋼鉄のインゴット』を得てミッションは大成功。

ランクCの50人は意気揚々、引き上げたという。


残ったこの場に居る10人を含む50人はといえば、ランクB冒険者。

先ほど、リオネルが踏破した地下71階層から80階層で、

これまた大量の『銅のインゴット』『ミスリルのインゴット』を得て、

40人は、ほくほく顔で、地上へ戻ったそうだ。

ちなみに毒、石化対策は、彼らが独自に調合した魔法ポーションで、

行い、ほぼ完璧に防いだという。


そして最終的に残った10人は、

銀製、水晶製のゴーレムを求め、先ほどまで探索活動を続けていたのだ。

明日も探索活動を続け、頃合いを見て引き上げると笑う。


本当はもっともっと深層へ赴き、

黄金製のゴーレム、ダイヤモンド製のゴーレム、

更にオリハルコン製のゴーレムもゲットしてみたいと彼らは言う。


しかし、黄金製、ダイヤモンド製、オリハルコン製のゴーレムが出現するのは、

人間族が踏破したという地下150階層よりもはるかに先。

200階層以降だという。


種族として、単純に深い地下には潜れる。

むしろドヴェルグ族にとって、地下世界は適した環境だといえよう。


だが、迷宮だと話は別。

比例して強くなる魔物には到底太刀打ち出来ないと、

彼らは苦笑した。


「たったひとりで、ここまで来て、この先も行くと言うお前は、本当に凄いぞ!」


それだからこそ、単身でこの地下80階層まで来たリオネルをリスペクト、

初対面で、人間でも、好意的に接してくれたのである。

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