第430話「まずまずって、何言ってるの?」

時間に余裕が出来たリオネルは、ここまで集めて来た『宝箱』の整理をしようと決めた。


地下70階層まで来たリオネル。


迷宮といえばお約束の宝箱。

述べていなかったが……このフォルミーカ迷宮において、

リオネルは回収していなかったわけではない。


そもそも……

迷宮において出現する宝箱は千差万別。


最も多いのは、各部屋に固定、または放置されたもの。

大抵は施錠され、罠も仕掛けられており、中に金品、アイテム、武具防具などが収納されている。


収納物の所有権は存在せず、宝箱を開けた者が獲得する事が出来る。

というのが、この世界の迷宮ルールである。


不可思議なのは、罠を解除し、解錠して、宝箱が空っぽになっても、

いつのまにか、別の中身が収納されている事象だ。


収納するのが何者なのか、いつ収納するのか、誰も知らない……


次に多いのが、魔物が所持している宝箱だ。

出現した魔物を倒すと、ランダムに現れる。

こちらも大抵は施錠され、罠も仕掛けられており、

中に金品、アイテム、武具防具などが収納されている。


他にも、「いきなり現れる宝箱」

「大きなイベントが起こると現れる宝箱」などいくつもの出現パターンがある。


また宝箱の中身のクオリティは階層の深さに比例するとも言われる。

つまり浅い層では安価でロースペックなもの。

深い層の方が高価でハイスペックなものが入っている傾向があるのだ。


話を戻そう。


リオネルは、現れた宝箱全てを回収はしていない。

まず浅い層……地下30階層までは完全にスルー。

31階層から、回収を始めた。


しかし……

宝箱を見つけても、浅い層と同じく、またケンする場合も多い。


生体ほどではないが、静物からも波動が発せられている。

リオネルは、宝箱を開けずとも、入っている収納物が安価か、高価か、

ロースペックか、ハイスペックかを、見抜けるようになっていたのだ。


収納物が、時間と手間をかけるに値しないと思えば、あっさりとスルーしたのである。


反面、どうしても欲しいと思えば、罠を解除した上で解錠。

宝箱の中身をゲットした。


また……

固定されていない宝箱の場合で、次の敵が迫っていたり等々、

時間がなかった場合、罠と鍵はそのままで、宝箱ごと収納の腕輪へ放り込んだりもした。


さてさて!


リオネルが居る小ホールへ、他の冒険者が現れる気配はない。

大丈夫、作業をしてもOKだ。


罠と鍵がかかったまま、腕輪へ放り込んだ宝箱を、リオネルは一気に出した。

その数50個。


その50個をリオネルは罠の危険度によって3つに分ける。

罠解除に時間がかかるAグループ。

罠解除にそこそこ時間がかかるBグループ。

罠解除が簡単なCグループ。


Aグループは15個、Bグループは20個。

これらを魔法のロープで縛りひとくくりにし、目印をつけ、収納の腕輪へ戻す。


まずは残りのCグループ15個の宝箱を開けるべく、

リオネルは、作業を始めたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


結局リオネルは、Cグループ15個、Bグループは20個の罠を解除し解錠。

都合35個の宝箱を開け、中身をゲットした。


リオネルが見込んだ通り、入っていたのは結構な金額の現金、金塊、銀塊、

エリクサーなどのレアポーション、ミスリル製の高級な武器防具……であった。


作業終了後……リオネルはゲットした金品、アイテム、武具防具などは勿論、

開けた宝箱もそのまま収納の腕輪へ戻しておく。


魔道具店クピディタースの店長で元冒険者ボトヴィッド・エウレニウスが言っていた。


空の宝箱は需要がある。

モノによっては、良い小遣い稼ぎになると。

高く買ってくれる人が居るかもしれない。


難度の高い罠のAグループは、場所と時間を変え、じっくりと作業しよう。


そして、宝箱の収集は、今のスタンスで続けよう。

フロア調査しか、依頼を受けていない分、魔物の討伐とお宝ゲットで稼いでやろう。


ここで妖精ピクシーのジャンが近づいて来る。

リオネルが作業中は、しばし離れた場所で、焼き菓子を食べながら紅茶を楽しんでいたのだ。


『リオネル様、作業は終わったかい? い~っぱいお宝ゲットしたみたいだな? すっげえよ!』


『ああ、まずまずかな』


『まずまずって、何言ってるの?……今回の探索だけでさ、リオネル様は一生遊んで暮らせるくらい稼ぐんじゃない?』


『いや、結構稼げると思うけど、一生遊んで暮らすは大げさだ。そこまでの金額には行かないだろ。まあ、どう暮らすかにもよるけどさ』


『あはは、リオネル様はどう思うか分からないけど……おいらはさ、ぜいたくしなくても構わない』


『へえ、そうか』


『ああ! こうやって美味しい焼き菓子を食べて、香りの良い紅茶を飲んで、そして、ここは迷宮だから叶わないけどさ。可愛い女子と楽しくおしゃべりする毎日なら、それがおいらのぜいたくな暮らし。超が付く大満足だよ』


地下深き迷宮で、ジャンとこういう他愛のない話をするのは気晴らしになるし、

結構楽しい。


『ああ、ジャンの言う通りかもしれないな』


リオネルは、柔らかく微笑み……

心安らかに、就寝したのである。

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