第401話「いやいや、骨董好きな女子が、ひょこっと、来るかもしれないし」

モテ期だと散々いじられたリオネルであったが……


いじった妖精ピクシーのジャンとともに『踊り場』から、

巨大で長い階段を降り、遂にフォルミーカの地下街へ降り立った。


「おお、すっげえ人!」


ジャンに注意されたのに、リオネルは再びおのぼりさんのように、

きょろきょろしてしまった。


殆ど人が居らず、がらんとした踊り場とは全く違い、

地下街は多くの人々で満ちていたからだ。


また、踊り場から見て、事前に分かってはいたが……

地下街には、大中小数多の通りがあり、見上げるような高く大きい建物も建ち並んでいた。

地上の街とは比べ物にならないスケールである。


「カオス……だなあ」


補足しよう。

カオスとは混沌を意味する。

無秩序で、さまざまな要素が入り乱れ、一貫性が見出せない、

ごちゃごちゃした状況を表す。


リオネルの言う通り、目の前の光景はまさにカオスであった。


老若男女問わず、様々な年齢、そして様々な種族の人々が居る。

人間族以外にも、エルフと呼ばれるアールヴ族、

ドワーフと呼ばれるドヴェルグ族も目に付く。


革鎧を着た冒険者らしき者が圧倒的に多いが、正装したアクィラ王国の騎士、

法衣を着た司祭、仕事着姿の商人、作業着姿の職人、ブリオー姿の一般市民、

そして人相と目つきが悪い愚連隊風の男も居た。


ジャンはリオネル同様、地下街を見ていた。


リオネルの肩に座ったまま、指をさす。


『あの金貨の絵の看板を出してる派手な店は何? リオネル様』


『ああ、あれはカジノだ。持っているお金を儲けようと、人間が賭け事をする店だ』


『じゃあ、あのピンク色の看板の店は? お酒のグラスと可愛い人間の女の子が描いてあるよ』


『あれは多分……お金を払って、女の子と酒を飲む店だ』


リオネルはそう言いながら、どちらの店も見ようとしない……


『ふううん。どちらの店も、どんどん客が入って行くけど……リオネル様は、全く興味ナッシングって感じだね』


『ああ、両方ともあまり興味はないなあ』


『何で何で何で? リオネル様は結構お金も持ってるし、賭け事しても強そうだし、可愛い女の子と居るとすっごく楽しいのに、何で遊ばないのさ!』


『おいおい、ジャン。お前、そういうのを、堕落へ誘う悪魔のささやきって言うんだぞ』


『失礼な! 可愛いピクシーのおいらを、よりによって悪魔呼ばわりしてさ!』


『ああ、ごめん』


『もう! リオネル様は18歳。人間で言えば青春って奴だろ? 一番遊びたい盛りだろ! 何で遊ばないんだよ!』


『ええっと……そう言われても、……困ったなあ』


『おいら、忠告するよ! さっきのモテ期もそうだけど……リオネル様はもっと青春を! いや! 人生をエンジョイしないとだめだよ!』


不満そうに頬をふくらませたジャンに、リオネルは説教されてしまったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


地下街の雑踏をジャンとともに歩くリオネル。


相変わらず、人、人、人である。


やがて……

リオネルは、一軒の店を見つけ、興味深そうに視線を向けた。


築数十年も経った木造の、古い家屋の店である。

家屋に似合った古ぼけた木製の看板がかかっていた。

『魔道具店 クピディタース』と書いてある。


「ふ~ん。欲望って名前の店か。ストレートな店名だな」


そしてリオネルは、店に貼ってある張り紙も気になった。


達筆な文字で、


※宝物、骨とう品、武器防具、アイテム他販売。

※迷宮発掘の宝物、骨とう品、武器防具、アイテム他高価買い取り。

※呪われた商品も買い取り可。


え?

呪われた商品も買い取りOK?


リオネルは、破邪霊鎧の習得効果で、発動せずとも呪いの類は一切無効である。

万が一、呪われても破邪霊鎧を発動すれば、更なる解呪の効果が見込めるから、

リスクは殆どない。


それに『試してみたい事』もある。


『ジャン、面白そうじゃないか、ここに入ろう』


頷いたリオネルが入店を告げれば、ジャンはあからさまに不満顔となる。


営業中……と木札がかかってはいるが、

ジャンが見ても、店内は薄暗く、音もせずシーンとしている。


感じる気配からしても、多分、偏屈な老齢の店主が、

たったひとり店番をしているだけと推測出来る。


『え~! ここお? こんな店、女の子なんか絶対居ないよお。気配さえも感じないよお!』


しかし、リオネルは笑顔で微笑む。


『いやいや、そんな事ないぞ。マニアックで骨董好きな可愛い女子が、ひょこっと、来るかもしれないし』


『来ない! 300%! 絶対! 絶対に来ないって!』


すったもんだしたが……

結局、リオネルとジャンは、店へ入る事に。


当然、ジャンはといえば、むくれている。


『もう! リオネル様って、人生の無駄遣いばっかしてる!』


『まあまあ……』


と、ぷんぷんするジャンをなだめながら、

リオネルは薄暗い店内へ入って行ったのである。

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