第393話「優秀だが、徹底した合理主義者。とても計算高いとの評判だ」

リオネルは、ダニエラ、ブレンダとともに、

食堂でまかない料理の朝食を摂った後、


「お粗末さまでした。じゃあ、とりあえず俺はこれで。冒険者ギルドへ行きますから。申し訳ありませんが、後片付けはお手伝い出来ません」


と告げた。


対して、ダニエラ、ブレンダは、感謝かつ感心しきり、


「大丈夫よ、リオネルさん! お客さんに、ここまで手伝って貰えたら、充分すぎるくらいよ。後片付けは、私とブレンダでやるから! それより本当に美味しかったわ」


「うん! 後片付けは任せて! 母さんの言う通り! 凄く美味しかった! 両方ともプロの料理人が作ったみたい!」


「喜んで頂き、嬉しいです。じゃあ、失礼します。一旦部屋へ戻ってから、出かけますね」


「昨夜から、いろいろ、ありがとうございます」


「うふふ、素敵♡ リオネルさんは、何でも出来るのね♡」


という母娘の声を受け、リオネルは一礼し、泊まっている1号室、自分の部屋へ。


収納の腕輪から、ピクシーのジャンを搬出。


続いて、焼き菓子を出し、『朝食』として与えた。

水筒から、紅茶も。


朝食を終えたジャンを肩に座らせ、リオネルは、出かける。


カウンターには、ブレンダが陣取って、手を振り、見送ってくれた。


「行って来ます、ブレンダさん」


「行ってらっしゃい、リオネルさん。気をつけてね。なるべく早く戻って来て♡」


まるで、新婚の妻のように見送るブレンダ。


少し、こそばゆく感じながら、リオネルは山猫亭を出た。


肩に座ったジャンが、念話で話しかけて来る。


『リオネル様』


『何だい、ジャン』


『あのブレンダって、娘。可愛いし、優しいし、強いし、良い子じゃない』


『ま、まあな』


『で、あの子を嫁にするの?』


いきなりの、『ど』が付く直球。


思わずリオネルは吹き出す。


『ぶっ!』


『何? その反応?』


『嫁って……俺、ブレンダさんと会ったばかりだし、まだ18歳だし、結婚自体、全く考えてないよ』


『ふ~ん。そうなの? じゃあさ、彼女にする?』


『いや、彼女もないよ』


『え~、何で?』


『俺はソヴァール王国人で異邦人。ブレンダさんは、助けた俺を、単に興味本位で面白がってるだけだろ』


リオネルが言えば、ジャンはジト目で見つめて来る。


そして、しみじみと言う。


『ふ~ん。……リオネル様は、凄い魔法使いなのに、女心おんなごころを全然分かってないねえ』


『何だよ、それ。はああ……』


ジャンにいじられ、どっと疲れ、大きくため息を吐いたリオネル。


しばし、通りを歩いてから、一旦立ち止まり、

ぱん!と軽く両頬を叩き、気合を入れる。


ようやく、迷宮都市フォルミーカへ来たんだ!

今の俺は、恋愛よりも、迷宮へ潜り、修行だ!


リオネルは、うんと、頷き、再び歩き出したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


昨夜、下見に赴いたので、迷う事はない。

リオネルは、速足、約3分強で、冒険者ギルドへ到着した。


本館の1階へ入る。


現在の時刻は、午前8時30分過ぎ。


ラッシュのピークは過ぎたとはいえ……

業務カウンターには、大勢の冒険者が良い条件の依頼を求め並んでいた。


自分も冒険者デビューしたての頃、

故国ソヴァール王国王都オルドルの支部にて、業務カウンターに並んでいた。


とても、懐かしいと感じる。


初恋の人、ナタリーは元気で暮らしているだろうか。


ジャンに「いじられた」せいか、ふと思い出してしまった。


苦笑したリオネルは、受付へ行く。

時間帯が違うせいか、昨夜会った職員とは、別の職員が対応してくれた。


「昨夜、訪問の申し入れをしたリオネル・ロートレックです」


リオネルが、ランクAの所属登録証を提示すると……


「はい、ランクAの、リオネル・ロートレック様。承っております。ギルドマスターがお会いします」


と、笑顔で告げて来た。


「ありがとうございます」


一礼したリオネル。


「しばし、この場で、お待ちください。秘書がお迎えに参ります」


「分かりました」


冒険者ギルドフォルミーカ支部のギルドマスターは、

フォルミーカの町長、グレーゲル・ブラードの実弟アウグスト。


ワレバットの冒険者ギルド総本部の資料に記載されていた。


アクィラ王国から、自治を認められた迷宮都市フォルミーカにおいて、

町長のグレーゲルは、貴族領主並みの権勢を誇っているらしい。


その権勢を支えているのは、町の税収である。


町の税収確保にひと役買っているのが、ギルドフォルミーカ支部のギルドマスター、

アウグスト・ブラード……


ワレバットで、サブマスター、ブレーズ・シャリエの副官ゴーチエ・バラデュールに対し、アウグスト・ブラードさんはと、人物評を尋ねた事がある。


ゴーチェは、「他国のギルドマスターだし、悪口は言いたくないが……」


と、断った上で、


「フォルミーカ支部のマスター、アウグスト・ブラードは、優秀だが、徹底した合理主義者。とても計算高いとの評判だ。それが本当ならば、俺は信頼して、背中を任せたくはないね」


と苦笑していた。


人間、相性もあるし、いろいろな見方もある。

鵜呑みには出来ないが、ゴーチェの意見は参考にしておこう。


リオネルは、そう思い、アウグストの秘書を待ったのである。

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