第392話「ダニエラとブレンダは呆然。 驚愕して、目をまん丸に、口をポカン」

翌朝、午前4時……


リオネルと山猫亭の娘ブレンダの姿は、フォルミーカの市場にあった。

ふたりで、食材等の買い出しに来たのである。


肉、魚、野菜、果実、加工品等々、ソヴァール王国とは違う食材も多い。


ブレンダの説明を受けながら、

リオネルは興味津々という雰囲気で目を輝かせていた。


……実は、これには、わけがある。


リオネルが、「威圧のスキルを使った」と、『種明かし』をした後……

いろいろ「やりとりがあった」のだ。


感謝しきりの、ダニエラとブレンダから申し出があり、

「リオネルが頼んだ3日分の滞在を含め、『山猫亭10日分の宿泊費無料』を謝礼にしたい!」……と言われたのである。


だが、リオネルはそれを固辞。

先にお願いした通り、「アクィラ王国の料理を習いたい」と頼んだ。


しかし、口頭でお礼を言い、料理を教えるだけなど、

娘を愛するダニエラと、危機一髪のところを救われたブレンダは気が済まない。

納得かつ承知するわけがない。


「娘を助けてくれたお礼をちゃんとしたい!」

「助けて貰ったお礼をしたいわ!」

「いやいや、大した事はしてないですから」


などと、3人で、喧々諤々、何回かのやりとりの末、

ブレンダ護衛のお礼は、山猫亭7日分の宿泊費無料と、

ダニエラによるアクィラ王国料理の伝授となった。


結局リオネルは、3日間の宿泊費支払いのみで、

山猫亭に10日間滞在する事となったのである。


話がまとまったその後……

ブレンダは、襲って来た男達が、再び姿を見せる事を懸念。

引き続き、市場の買い出しの際の『護衛』をお願いし、

リオネルは、快諾した。


ブレンダが懸念する気持ちも理解出来るし、

あれだけ脅かしても、懲りない奴は居る。

万が一の場合もありうる。


そして、リオネル自身、市場と聞いて、どのような雰囲気で、

どういう食材があるのか、好奇心にかられたせいもある。


という事で、翌朝のこの時間、リオネルとブレンダは市場に居たのだ。


幸い、昨夜の男達の気配は全くなく、そんなこんなで、食材の調達は終了。


購入した食材を、ロバが牽く荷車に積み込み、リオネルとブレンダは出発、

帰途についた。


「ブレンダさん、市場に連れて来て頂き、ありがとうございます。おかげさまで、アクィラ王国料理の食材の勉強が出来ました」


「いえいえ! こっちこそ、ありがと! 食材の積み込みをやって貰っちゃって! あいつらとも会わなかったしね! リオネルさんに守って貰ったから、安心して買い物が出来たよ♡」


そして行きも帰りも、御者役も、リオネルが買って出た。

巧みな手綱さばきで、ロバを気持ちよく走らせる。


ブレンダは、感心しきりだ。


「リオネルさん、御者、本当に上手だね!」


「ええ、冒険者ギルドで習い覚え、その後、結構やりましたから」


しかし、このような事は序の口。

ブレンダは更に驚く事となったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


山猫亭へ戻ったリオネルとブレンダ。


リオネルは自分から申し出て……

荷車から食材を降ろし、厨房へ運んだ後……荷車から、ロバを外し、厩舎へ戻した。


減った飼い葉を足し、水をやりロバの世話をしてから、荷車を仕舞い、

手を洗ってから、山猫亭の厨房へ。


どこでもそうだが、朝の宿屋の厨房も、他事多忙たじたぼう

山猫亭の厨房は、猫の手も借りたいほど。


アンセルムの宿屋で仕事を手伝い、リオネルの所作は手慣れたもの。


かといって出しゃばらないリオネルは、下働き、雑用に徹し、

ダニエラとブレンダ母娘を大いに助けた。


お客で恩人なのに……

まるで勤勉な従業員のように良く働くリオネル。


「リオネルさん、もう充分よ。他のお客さんと一緒に朝食を摂って」

と恐縮したブレンダに言われた。

だが、自分が『まかない』を作り、母娘とともに、食べると申し入れをしたのである。


そして!

リオネルは、スキル『見よう見まね』を使わず、ダニエラの調理を見たのみで、

アクィラ王国料理へ、レッツ、チャレンジ。


軽快な包丁さばき。


とんとんとんとん! とんとんとんとん!


大きな鉄製フライパンも軽々と使う。


じゃじゃじゃっ! じゃじゃじゃっ!


じゅ~ううう! じゅ~ううう!


じゅわわわぁ! じゅわわわぁ!


「!!!???」

「………………」


ダニエラとブレンダは呆然。

驚愕して、目をまん丸に、口をポカン。


事前に、宿屋の手伝いをしていたと、聞いてはいたが……

リオネルの調理は、まさにプロ。

手際の良さ、堂に入った立ち居振る舞いは、ただ者ではなかったからだ。


……やがて、調理は終わり、料理は完成した。


「ええっと、アクィラ王国料理と俺の故国ソヴァール王国の料理、合わせて2品作りました。お口に合うかどうか、分かりませんが、朝飯にしましょう」


微笑んだリオネルは、ダニエラ、ブレンダとともに、

他の客が居なくなった食堂へまかない料理を運び、楽しく朝食を摂ったのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る