第391話「ブ、ブレンダ!! あ、あんた!? ど、どうしたの!!」

「さあ、戻りましょう。ダニエラさんに玄関、閉められちゃいますよ」


納得出来ないという表情のブレンダに対し、

リオネルは、柔らかく微笑んだ。


屈託のないリオネルの笑顔。


男達がどうして怯え、逃げ出したのか……原因が不明。

不思議に思い、訝し気な表情をしていたブレンダも、

「ぷっ」と面白そうにふき出した。


「うふ! もう! 最高!」


そして、ブレンダはにっこり笑うと、リオネルへ駆け寄り、がっしと腕を取り、

そのまま、ぴったり組んでしまった。


「ありがとうございます! リオネルさん! 私を助けてくれて! すっごく嬉しい!!」


ブレンダに密着され、困惑するリオネル。

腕が、ブレンダの胸にあたっている?


「あ、あの~」


「さあ、戻りましょう! リオネルさん、ウチまで私をしっかりと守ってね♡」


腕を組んだまま、ぐいっと引っ張るブレンダ。


「あの~、この状態」


「なあに?」


「ブレンダさんの、お知り合いの方々に誤解されません?」


「いいの、いいの、全然構わない! ノープロブレム!」


「ええっと……」


「さあさあ! 歩いて!」


更に強引に引っ張り、ぱっと見、熱々カップルのリオネルとブレンダは、

歩き出した。


ピクシーのジャンが慌ててついて行き、リオネルは、収納の腕輪へ『搬入』した。


そんなこんなで、しばらく歩くと……

やはり、リオネルの懸念は当たった。


山猫亭への帰路を急ぐリオネルとブレンダへ、

知り合い?の男達から、続々と、問い合わせ?の声がかかったのである。


「お、おいおいっ! ブ、ブレンダ! 何だい、その男は!」


「くっつきすぎだぞ! ちっくしょう!」


「まさか! 年下の彼氏かあ!」


「くそ! 俺達には全然、なびかないのに!」


「超男嫌いじゃなかったのかよ!」


「ブレンダ越えぇ! そびえる高山みたいな、ブレンダの絶壁が! 遂に越えられたあ!」


しかし、ブレンダは無言で華麗にスルー。

男達の声を完全に無視した。


一方、リオネルへは、怨嗟の声が充満する。


「「「「「くそお!! リア充!! 大爆発しろ!!」」」」」

「「「「「月夜の晩ばかりだと思うなっ!!」」」」」


ますます困惑するリオネル。


「あのブレンダさん」


「なあに? リオネルさん」


「いや、距離、凄く近いっすよ」


「近い? うふふ、わざと近くしてるの! リオネルさんに、ぴったり、くっついてるの!」


「ええっと……それに何か俺、ブレンダさんの知り合いの方々に凄く恨みをかってますけど」


ジト目でリオネルは言うが、ブレンダは笑い飛ばす。


「あははははははははははは! ドント・ウォリー! 気にしない! 気にしないっ!」


「いや、心配するな、気にしないって……凄く心配するし、気にします」


「まあ、良いじゃない、細かい事は。それより、リオネルさんは、とんでもなく底が知れない男の子よね!」


「いや、とんでもなく底がしれないって……俺がとんでもなく……不気味みたいですよ」


「そうじゃないって! 私は、ほめているんだよお!」


満面の笑みを浮かべ、ブレンダはそう言うと、柔らかな胸をぐいぐいと、

リオネルへ押し付けたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


午後8時45分過ぎ……

リオネルとブレンダは山猫亭へ戻った。


腕を組んで、リオネルと密着したまま、ブレンダは叫ぶ。


「母さん! 母さん! ただいまあ!」


愛娘の大きな声に驚き、厨房のカーテンをかきわけ、母のダニエラが顔を出す。


「もう! 何だい、ブレンダ! 夜なのに大声出して! 手伝いもせず出かけちゃって!」


不満そうに言い放つダニエラだが、

嬉しそうにリオネルと腕を組むブレンダを見て、仰天する。


帰路に声をかけて来た男達同様、母ダニエラも愛娘ブレンダを、

理想が高すぎる、男嫌いな女子と見ていたのだ。


実際ブレンダの男を見る目は厳しい。

武術をたしなむ自分よりも遥かに強く、かつ誠実で優しく、

偉ぶらない控えめな男子が望み。

更に健康で、イケメンならば◎


でも、世間にそんな男子はなかなか居ない。


それゆえ、ブレンダは、生まれてから21年間。彼氏が出来た事はないのだ。


「ブ、ブレンダ!! あ、あんた!? ど、どうしたの!!」


「うふふふふふ! リオネルさんに、助けて貰っちゃったあ!」


「た、た、助けて貰ったあ!? リオネルさんにい!?」


「うんっ!!」


嬉しそうに頷くブレンダ。

その間も、ブレンダはリオネルに密着したままである。


「と、とりあえず! 玄関を閉めてから、食堂で話を聞くよ!」


驚き戸惑うダニエラは、少し早めに山猫亭の玄関を閉めた。


そして、リオネルに密着するブレンダを、

ふたり一緒に食堂へ連れて行ったのである。


………そんなこんなで、帰宅してから30分後。


ようやく離れたリオネルとブレンダは、椅子に座り、

帰路の顛末を詳しく話していた。


冒険者ギルドへ行った帰路、大勢の男達に待ち伏せされ、絡まれた事。


リオネルが、あっさり追い払ってしまった事。


ブレンダは身を乗り出して言う。


「母さん! さすがに20人相手じゃ、怖かった! 本当に危ないと思ったわ。私の事、どこかへさらって行くつもりだったみたいだし」


「えええ!!?? に、に、20人!!?? お前をさらって行くつもりだった!!?? そ、そ、それは危機一髪だったねえ……リオネルさん、娘を助けて頂き、感謝致します。ありがとうございました!」


「私も改めてお礼を言うわ! ありがとう! リオネルさん!」


ダニエラとブレンダがお礼を言えば、リオネルは微笑む。


「いえいえ、当たり前の事をしただけ、お安い御用ですよ」


「それで、リオネルさん、そいつら、どうやって追っ払ったの?」


「でしょ? 母さんも気になるわよね! リオネルさんったら、教えてくれないのよ!」


「気になるわ。教えてくださいな!」


やはり行き着くところは、母娘とも同じ。


ここで、何か言わないとおさまりがつかない雰囲気だ。


「ええっと、そこまでおっしゃるのなら、仕方がありません。実は」


「実は?」

「何?」


「はい、暴力沙汰はまずいと思い、魔力で脅し、敵を追い払う威圧のスキルを使いました」


「へえええ! 魔力で脅し、敵を追い払う威圧のスキルねえ! そんなのがあるんだあ!」

「わお! 成る程! 便利ねえ!」


さすがに夢魔法で、地獄の白昼夢を見せたとまでは言えない。


リオネルは嘘を言わない形で無難に答え、

ダニエラとブレンダに納得して貰ったのである。

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