第390話「ははは、秘密です」

冒険者ギルドを出たリオネルとブレンダ。

今度は、ふたり並んで歩いて行く。


時刻は、午後8時過ぎ……

これから、ブレンダとダニエラ母娘の宿……山猫亭へ戻るのだ。


いつもの癖で、リオネルは索敵、魔力感知を最大にし、

ピクシーのジャンを斥候として、飛ばしている。


ここで、リオネルが『殺気』を捉えた。


ジャンからも念話で連絡が入る。


『リオネル様、ヤバイ奴らが、行く手で大勢待ち伏せてるよ』


『了解! 報告ありがとう ジャン』


ジャンへ礼を言ったリオネルは、ブレンダを伴い、注意しながら歩く。


と、そこへ、ばらばらばらと男達の集団が現れた。


人数は20人近い、全員革鎧姿の冒険者風だ。

リーダーらしき男は、身長2m体重100kgを超えていそうな巨漢である。


男達は全員、ブレンダを見つめていた。

目が「ぎらぎら」している。


どう見ても、顔見知りの『あいさつ』か、

『ナンパ』目的の男達という生易しい雰囲気ではない。


リオネルの索敵、魔力感知は、男達の邪な気配を完全に捉えていた。


さすがに人数が多いので、ブレンダからも、緊張の気配が伝わって来る。


男のひとりの声が、動物の能力習得で、

著しく聴覚が鋭くなったリオネルの耳へ入って来た。


「ねえ、兄貴。良い女でしょ?」


「ああ、お前の報告通り、結構良い女だ。隠れ家へさらって、思い切り楽しもうぜ」


どうやら、報告を入れた男が、ブレンダを見かけ、チェック。

リーダーへ、襲おうと持ち掛けたらしい。


その後どうするかは……

リーダーのセリフから、推して知るべしだ。


はい!

こいつら、どが付く悪党確定!


「ブレンダさん」


「な、なに?」


「念の為……あいつら、知り合いじゃ、ないですよね?」


淡々とした口調で問いかけるリオネル。


対して、ブレンダの口調は完全に動揺が感じられる。


「ち、違う! 全然違う! あんな奴ら、見た事がないよ!」


「成る程。そうっすか。じゃあ、通行の邪魔なんで排除しますね」


「え? えええ? リ、リオネルさん、は、排除って? ど、どうやって?」


「まあ、後ろで、身を守りながら、見ていてください」


リオネルはそう言い、「ずいっ」と前に出た。

相手は大勢だが、全く臆していない。


迷宮の魔物に比べれば、どうという事はない相手だ。


但し、けがをさせたら、過剰防衛を問われる可能性もある。

方法は考慮しなければならない。


「あんたがた、何か御用ですか? 俺達、通れないんですが」


淡々と告げるリオネルの言葉に、リーダー以外の男達が反応し、いきり立つ。


「てめ! くそがき!」

「彼氏気取りか! 引っ込んでろ!」

「ぶっ殺すぞ! ごら!」


最後にリーダーが、


「おい、がき! 女を置いて、どっかへ行っちまえ!」


と、吐き捨てるように告げた。


これで男達の目的が『ブレンダ』である事が、はっきりした。


多勢に無勢。


本当にヤバイ!

どうしよう!


ブレンダは心底不安になった。


武術の心得があるブレンダは、3,4人なら撃退出来る自信がある。


しかし、人数が多すぎる。


そんなブレンダの不安をよそに、


「はあ、そうですか。貴方達の希望には全くそえませんね」


呆れ顔で、肩をすくめたリオネル。


「じゃあ、代わりに俺から希望を出しましょう」


言葉と同時に、リオネルの瞳がぎん!と妖しく光る。


男達の心へ、不可思議な声が響いて来る。


『剣でまっぷたつか? 拳で粉々か? それとも地獄で悪魔に喰われるか?』


リオネルは、威圧と念話のスキルを同時発動。 

更に、亡きロランから伝授された『夢魔法』で、

剣で斬られ、拳で粉砕され、地獄に堕ち、悪魔に喰われる光景まで見せた。

いわゆる日中、目を覚ましたままで空想や想像を夢のように映像として見る、

『白昼夢』である。


否、既に夜だから、白昼夢とは違うのか。


全て、これまでに、リオネルが修行した成果を試した形である。

ちなみに夢魔法の白昼夢は、道中襲って来た山賊、おいはぎなどで試していた。


さてさて!


威圧、言葉による脅し、殺され、地獄に堕ちた光景、3つの精神攻撃により、

男達の心が恐怖で完全に染まった。


全員ペタンと、路面へ座り込んでしまう。


「ぎゃ~!」

「ひ、ひえ~!」

「た、助けてくれ~!」

「い、命だけはあ!」


同時にリオネルは、とんでもない速度で動き、

座り込んでいた100㎏超のリーダーの胸倉をぐいっとつかみ、

左の片手で軽々と、持ち上げていた。


「てめえら、二度はないぞ。改心して、明日すぐこのフォルミーカを出ろ! 今度、見かけたら……確実に潰す」


リオネルはそう言うと、パッと手を離した。

へなへなへなと、腰が抜けたように、力なく崩れ落ちるリーダー。


「さあ、行け! 消え失せろ!」


「「「「「!!!!!!!!」」」」」


リオネルのひと言で、声のない絶叫をあげた男達。

蜘蛛の子を散らすように、リーダー以下、全員が逃げ去っていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リオネルのひとにらみ。

そして、巨漢リーダーへの教育的指導。


ブレンダを拉致し、慰み者にしようと、通せんぼしていた20名近い悪漢どもは、

完全に怯え、散り散りになり、遁走してしまった。


あっという間の『撃退』に、ブレンダは呆然。


目をまん丸、口をぱくぱく。


「さあ、ブレンダさん。山猫亭へ戻りましょう」


「…………………」


「どうしました? もしかして固まってます?」


リオネルに問われ、ハッとするブレンダ。

ようやく我に返った。


「リ、リオネルさん………」


「はあ、何でしょう」


「な、何ですか!? い、今の!?」


「いや、あいつら、通行の邪魔なんで、排除しただけですが」


「ど、ど、ど、どうやって!?」


「ははは、秘密です」


曖昧に笑うリオネル。


「う~」


不可解さに唸るブレンダ。


「でも、説教して、びっしり釘を刺しましたから、あいつら、多分もう襲って来ません」


「むむむ……説教って」


「さあ、戻りましょう。ダニエラさんに玄関、閉められちゃいますよ」


納得出来ないという表情のブレンダに対し、

リオネルは、柔らかく微笑んだのである。

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