第378話「だから! おいらだって、ケルベロス達と全く同じさ!」

リオネル一行の仲間となった妖精、ピクシーのジャン。

仲間になる際、リオネルへ誓った通り、言動は一変した。


小生意気、傲岸不遜だった態度は、完全に影を潜めた。


言葉遣いこそ、少々なれなれしいが、

リオネルに付き従い、まめまめしく働くようになったのである。


ジャンへ与えられた役割は、偵察と調査、そして伝令。


道中、ケルベロス、オルトロス、ジズとともに先行。

周囲の様子を探索し、異常があれば報告する。


また、ケルベロス達が入り込めない人間の住む町村へ入り、

姿が見えない特質を活かし、様子を調べ、リオネルへ報告。

リオネル達仲間と情報を共有する。


ともに旅をする仲間となった当初、ジャンはケルベロス達に負けじと、


『リオネル様! おいらも戦う!』


そう主張し、敵との戦闘に意欲を見せた。


対して、リオネルは、


『そうだ! 戦う姿勢、魂……つまりファイティングポーズ、ファイティングスピリットは必ず持ち続けろ』


とほめた上で、


『但し、己の能力、持ち味を活かすようにな……俺達は皆、心がけているぞ』


と、アドバイスした。


ジャンは、拍子抜けしたように言う。


『おいらの能力、持ち味を活かすように心がけるの?』


首を傾げ、怪訝な表情のジャン。


対して、リオネルは頷き告げる。


『ああ、そうだ。適材適所だな』


『適材適所?』


補足しよう。

適材適所とは、 その人の適性や能力に応じて、

それにふさわしい地位・仕事に就かせる事だ。


再び首を傾げるジャンへ、リオネルは言う。


『ああ、俺の個人的な意見だが、ジャン、お前は俊敏さ、軽快さに優れ、小回りが利く。普通の人間には姿が見えないから、戦闘よりも、斥候、調査、伝令に優れていると思う』


リオネルがそう言うと、

ジャンは少し考え込んだ後に、 


『分かった! リオネル様がそう言うのなら、おいらは斥候、調査、伝令に徹してみるよ』


こうして……

リオネルのアドバイスに従い、

ジャンは斥候、調査、伝令の任務を果たす事に。


そして、ケルベロス以下、仲間の誰の指示にも素直に従い、ひたむきに頑張り……


結果、仲間達とも、すぐに打ち解け、仲良く働くようになった。


そんなある日……ジャンは、リオネルの肩へ降りて座り、尋ねて来た。


『リオネル様、……おいら、襲って来る敵とは戦わなくて本当に構わないのかい?』


ジャンが仲間になってから、リオネル一行は、ゴブリン、オークなど数回魔物と戦った。

その際、ジャンは戦闘に参加しなかった。

というか、リオネルもだ。

ジャン、リオネルが戦う前、

主にケルベロスとオルトロスの魔獣兄弟、そしてジズが敵をあっさりと平らげてしまったのだ。


そしてリオネルの戦友は、まだアスプもゴーレムも居る。


はっきり言って、ピクシーのジャンは戦いには不向きだし、

参加したら、足手まといになるかもしれない。


しかし、ここで完全に否定したら、ジャンのやる気がそがれてしまう。


そう思ったリオネルは、言葉を選んだ。


『いや、そうじゃない。ジャンはさ、戦う順番が俺達仲間の中では後の方なんだよ』


『え? リオネル様。おいらの戦う順番が仲間の中では後の方なのかい?』


『ああ、全ての仲間が戦闘不能となった時、お前が出張り、仲間を守る為、戦うのさ』


リオネルがそう言うと、ジャンは不満そうな表情となった。


『いや、全ての仲間が戦闘不能になった時においらが戦うって、全然違うよ』


『全然違うのか?』


『ああ! 全く違う! 仲間になって、ケルベロス達と一緒に、命じられた仕事をやってみてさ、おいらにはよ~く分かった』


『へえ! ジャンには分かったのか? 何がだい?』


リオネルが尋ねると、


『うん! あるじのリオネル様を守る為には、全員皆、自分がたおれても、身を挺して戦うって……分かったんだ!』


きっぱりと言い放ったジャンの言葉を聞き……じ~んと来た。

リオネルは素直に嬉しかった。


『……………』


『だから! おいらだって、ケルベロス達と全く同じさ! リオネル様を守る為なら、盾となり、戦うよ!』


『ジャン……』


『確かにピクシーのおいらは、ケルベロス達に比べれば、身体はちっちゃいし、全然弱っちいよ』


『……………』


『だから、戦っても、時間稼ぎにしかならないかもしれない』


『……………』


『けど! 戦う! 身体を張って! 命を懸けて戦うよ! リオネル様には救って貰い、メシも食わせて貰った。そして! ぼっちのおいらを仲間にして貰った恩があるもの!』


真っすぐにリオネルを見つめ、けなげに決意を告げるジャン。


リオネルの心が温かくなる。


『ありがとう、ジャン。俺も主として、お前達を守る為、全力を尽くすよ』


人間と人外ではある。

だが、結んだ心の絆は固く強い。


旅を続けるリオネル達は、はっきりと実感していたのである。

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