第379話「とんでもないモノが送られて来る!受け取り拒否って、わけにはいかないな!」

まめまめしく働き、リオネルと仲間達の信頼を勝ち取ったジャン。


命じられて、探索し、周囲の状況を報告するのが、ジャンの主な仕事。


特にこれから赴く町村の様子を探る事が多い。


しかし、町村の住民から不審がられる心配は殆どなかった。


何故なら、妖精のピクシーたるジャンの姿は常人には見えないからだ。


身体の発光もジャンの任意。

なので、相当の術者でなければ、

識別するのはほぼ不可能である。


一緒に旅をするうち……

召喚されるケルベロス達従士やテイムされたアスプ達とは違い、

異界へ還したり、収納の腕輪へ「搬入」されず、

旅の道中も、町や村に泊まる際も、

ジャンはそのままリオネルに付き従うようになった。


孤独だったジャンの気持ちを思いやった、リオネルの処置である。

ジャン自身も、すぐそばを飛んだり、肩に止まったりするくらい、リオネルを慕う。


さてさて!

迷宮都市フォルミーカまで、残すところ、後10km。

リオネルが、アクィラ王国の風景を楽しみなから進んだので、

のんびりした旅となっていた。


先行したジャンの報告を受けたリオネルは、とある村で宿泊する事を決めた。


村近くの『岩だらけの原野』に、『火竜』と呼ばれるドラゴン、

ファイアドレイクが棲むという話を聞いたのだ。


一緒に先行させたケルベロス達からも、

「原野に個体の存在らしき気配はある」という報告を受けた。

具体的な原野の場所も分かった。


しかし、仲間達に、いきなり原野……

『現場』に足を踏む入れる事はさせなかったし、

リオネル自身もすぐに赴く事はしなかった。


もしもファイアドレイクを刺激して、怒りだし、暴走したら困ると考えたのである。

暴走して、付近の住民に迷惑をかけたら、リオネルの責任となってしまう。


ファイアドレイクが、人間に害を為していたら、討伐も考える。

だが、無害であれば、敢えて戦う必要はないとも考えた。


リオネルは高貴なる水界王アリトンから、『凍竜』と呼ばれるドラゴン、

フロストドレイクを、従士として与えられている。


なので、ファイアドレイクがどのような個体なのか、興味はある。


まずは状況を確認してから。


最寄りの村へ入り、ジャンを飛ばし、人々の話を聞きに行かせ、

自らもさりげなく聞き込みを行う。


結果、次の事が分かった。


ファイアドレイクは、300年以上の長きに亘り、原野へ棲んでいる。


これまで、原野へ赴き、愚かにもファイアドレイクへ戦いを挑んだ者は、数百人。

全て返り討ちに遭い、死亡しいるとの事。


しかし、ファイアドレイクの性格は、基本的に温厚。

こちらから仕掛けなければ、戦う事はないらしい。


原野から出て、人里を襲う事もないという。


それゆえ、アクィラ王国も騎士隊や軍を派遣せず、放置しているようだ。


放置の理由も推測出来る


もしも討伐を試みるなら、大軍で攻撃し、甚大な被害を覚悟しなければならない。

名目やメリットがなく、無謀な戦いをする理由はないのだ。


好奇心はある。

ひと目、ファイアドレイクを見たいとリオネルは思う。


しかし、リオネルの放つ魔力で、ファイアドレイクを刺激したらまずい。


戦ってみたいとは思うが、害為さぬ者へ戦いを仕掛ける理由もない。


リオネルはファイアドレイクをスルーし、フォルミーカへ向かうと決めた。


その日は、宿でアクィラ王国の料理を満喫。

眠りについたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


翌朝、ぐっすり眠ったリオネルは、心地よく起床。


朝食を摂ると、宿を出て、旅を再開した。

肩に、ジャンが座っていて、話しかけて来る。


『今日も良い天気だね、リオネル様』


『ああ、だな!』


ジャンの言う通り、天気は今日も快晴。


空には千切れ雲がいくつか。


さわやかな風が頬を撫でるのが心地よい。


ジャンを肩に座らせたリオネルは村道を歩き、街道へ入る。


しばらくすると、ひと気がなくなる。

いつものように、ケルベロス達を呼び出そうとした、その時。


!!!!!!!!!


リオネルは、いきなり、違和感を覚えた。


これは、自分も行使する魔法だから分かる。


そう!

何者かが、転移魔法を使う気配だ。


この場へ!!

とんでもないモノが送られて来る!!


受け取り拒否って、わけにはいかないな!


「ふっ」と不敵に笑うリオネルは、ジャンへ言う。


『ジャン! ヤバイ気配だ! 俺から絶対に離れるな! しっかりつかまってろ!』


『う、うん!! リオネル様!!』


肩に座っていたジャンは、そのままの姿勢で、リオネルの肩をしっかりと掴む。


目の前の空間が歪み、徐々に送られてくるモノが実体化して来る。


でかい!

体長は30m、体高は10mくらいあるかもしれない。


とかげ、または蛇に似た巨大な体躯。

生半可な刃を通さないくらい硬い皮膚やうろこでおおわれており、体色はどすぐろい赤。

『凍竜』フロストドレイクを見たリオネルには、この同種の正体がすぐに分かった。


こいつは……『火竜』!!!

ファイアドレイク!!!!!


でも、どうして?

誰が? 何故?

コイツをここへ、街道へ転移させた!!??


ぐはあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!


身構えながら、つらつら考えるリオネルへ向かい、ファイアドレイクは凄まじい咆哮を放ったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る