第375話「お前のような礼儀知らずは、もとに戻しておくか?」

やがて、リオネル達が休憩している空地へ、

輝く光の塊が現れた。


ぶんぶんぶん!と、うるさい音を立てて、飛び回る。

光もまばゆく、点滅している。

まるで、何かをアピールするように。


しかし!

リオネル達は、何も居ないかのようにふるまい、ペースを変えない。

いわば、華麗にスルー。


リオネルは、ひたすら菓子をほおばり、紅茶を飲む。

ケルベロス、オルトロス、ジズは、ひたすら肉を食べている。


すると、光の塊は、抗議するかの如く、

更にぶんぶんぶん!と大きな音を立て、飛び回った。


だが!

リオネル達は、泰然自若。

完全に無視。


こうなると遂に!

という感じで、光の塊は……切れた!


『何だよ! 何だよ! 何だよお! みんなして、おいらの事を無視しやがってえ!』


『………………』


『おいら、腹減ってるんだ! おい人間! お前が食ってる菓子をよこせ!』


ここで、初めて言葉を発したのは、リオネルではなかった。

何と何と!

ケルベロスである。


『黙れ! 礼儀を知らぬ者に対し、まともに相手をする必要はない!』


『へ? 礼儀を知らぬ者?』


『そうだ! 菓子をねだる前に! 貴様は、先に言うべき言葉があろう!』


『え? おいらが先に言うべき言葉? 何それ?』


『馬鹿者! 貴様は、我が主に助けて貰ったピクシーのジャンであろうが!』


『うわ! でっかい犬に何で分かるの?』


『でっかい犬ではない! お前には我が、分からぬのか!』


ケルベロスは身体をぶるっと震わせた。

凄まじい魔力が発せられる。


『愚か者め! 我は魔獣ケルベロスだ!』


『ケルベロス!!?? ひ、ひえええええっっっ!!??』


光の塊……ピクシーのジャンは驚愕。


さすがに、ピクシー達妖精も、

魔獣ケルベロスの恐ろしさをしっかりと認識していた。


びゅっと音を立て、天高く飛んで行ってしまった。


『ふっ、仕方がない奴だ』


苦笑するケルベロス。


そんな兄に、弟オルトロスは問う。


『しかし、兄貴。何だろうな、あいつは?』


『うむ、恩も礼儀も知らない、どこかのはぐれ妖精か何かであろう』


『はぐれ妖精ねえ。さすがによ、礼も言わず、いきなり腹減ったというのはねえよなあ』


『ああ、閉じ込められていたのも、大かたあの性格が原因かもしれん』


『………………』


魔獣兄弟の会話を聞いているのか、いないのか、ジズは無言で黙々と肉を食べる。


そしてリオネルも、


『恩に着せようとも思わないし、自由になったんだから、あいつも喜んでるんじゃないか。悪ささえしなければ、全然OKさ、放っておこうよ』


と苦笑したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ジャンという闖入者はあったが……

リオネル達は、旅を続ける。


再び、ケルベロス、オルトロス、ジズを先行、斥候をさせながら進む。


すると!

リオネルへ接近する気配がある。


ピクシーのジャンである。


当然ながら、ケルベロス、オルトロス、ジズもジャンの気配を捕捉。


リオネルへ知らせて来た。


相変わらず殺意、悪意はない気配だ。


リオネルは心配無用と返事を戻し、そのまま歩き続けた。


ジャンはリオネルの傍らへ降下。


大声でまくしたてる。


『おい! 人間! 何だって、ケルベロスなんか連れてるんだよお! びっくりしたじゃないかあ!』


ケルベロス達が居ない隙を狙い、ジャンは、リオネルの下へ来たようである。


しかし、リオネルはスルー。


無言で返す。


『………………』


『おい! 人間! おいらを無視するな!』


『………………』


『ばあか!』


『………………』


『くそったれえ!』


『………………』


『陰キャ!』


『………………』


『チキンやろう!』


『………………』


『間抜けえ!』


信じられないようなジャンの悪口雑言の雨嵐。


大声で叫びながら、ジャンはリオネルの周囲をぶんぶん飛び回った。


放っておこうとは言った。


しかし、ジャンの言動は、あまりにも目に余る。


ここで、ようやくリオネルは言葉を発する。


『お前さ……ケルベロスの言葉を忘れたのか?』


『な、なにぃ!』


『行儀も口も、とんでもなく悪いお前には、良いものを見せてやろう』


『良いもの?』


『これさ!』


リオネルが収納の腕輪から「搬出」したのは、ジャンが閉じ込められていた宝箱であった。


ジャンが脱出した後、リオネルが金貨1枚で購入したのだ。


『ひえ! そ、それは!?』


『お前のような礼儀知らずは、もとに戻しておくか?』


リオネルは、特異スキル『フリーズハイ』レベル補正プラス40を行使。


動けなくなり、地面へ落ちたジャンを捕まえた。


宝箱を開けて、ぽいっと入れる。

すぐにふたを、かぽっと閉めた。


動けなくなったうえ、閉じ込められたジャンは、宝箱のふたごしに大声で叫ぶ。


『や、や、やめろ! やめてくれ! ここを出してくれ!』


『反省したか? じゃあ、何か言ってみろ』


『あ、ああ! た、助けてくれて! あ、ありがとう! それと、ごめんなさあいっ!』


ここまで来て、やっとジャンはお礼を言い、無礼を謝罪した。


『よし!』


リオネルは宝箱のふたを開け、右手でジャンを優しくつかんで、持ち上げる。


宝箱を収納の腕輪へ戻し、ジャンをつかんだまま、

入れ替わりに左手へ焼き菓子の包みを出したリオネル。


『そろそろ、拘束は解ける。腹減ってんだろ? 好きなだけ食べろよ』


と言い、柔らかく微笑んだのである。

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