第374話「リオネルの索敵に『何か』を捕捉したのだ」

遥か遠くまで延びるアクィラ王国の街道をリオネルは、ゆっくりと歩いている。

目指す迷宮都市フォルミーカはここから約60kmだ。


しばし歩き、街道には、ひと気がなくなる。


なので、リオネルは、一旦歩みを止めた。


ケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟、

そして鳥の王ジズを召喚。


各自、当然本体ではなく、擬態した仮初の姿である。


ケルベロスは体長2mの灰色狼風、オルトロスは同じく体長2mの漆黒の狼風、

そしてジズは体長1mくらいの鷹。


3者に、斥候役を任せ、先行させる。


『行け! ケル! オル! ジズ!』


魔獣兄弟は、大地を軽快に駆け、鳥の王はあっという間に大空の高みへ、


この斥候は、以前も行った事がある。


単に状況確認、報告のみでなく、

リオネル指示の下、3者の息を合わせる訓練の意味もあるのだ。


『頼むぞ、お前達』


更に念話で各自を励ますリオネル。


当然リオネル自身も、索敵……魔力感知を張り巡らせた。


接近や待ち伏せしている者が居れば、もれなく捕捉可能となる。


リオネルと戦友達に気付かれず、害を為すのは勿論、

近づく事さえ不可能だ。


「これで良しと」


リオネルは、再び歩き始めた。


今日も快晴。


見上げる空は雲ひとつなく、真っ青だ。


吹く風は、さわやかに頬をなでる。


自然に足取りも軽くなった。


数km歩く。


3者から、ランダムに報告が入るが、異常はない。

リオネルの索敵……魔力感知も同様に異常なし。


また、ケルベロス達は、互いに上手く連携をとっているようで何よりだ。


さてさて!

リオネルが前方右わきを見やれば、『空き地』がある。


街道沿いには、旅人が休憩したり、キャンプ可能な、

草を刈り取り、均した『空き地』が各国によって設けられていた。


但し、周囲は森林、原野など未開の地が多い。

魔物や獣、そして人間の賊に襲われる場合もある。

身の安全は、自身で確保しなければならない。


リオネルは、これまで散々『空き地』を利用している。

以前、人間の賊、魔物などに何度も襲われた事がある。

当然、難なく撃退したが。


やはりというか、空き地は……無人だった。


「ちょうどいい。お茶でも飲んで、ひと休憩するか」


独り言ちたリオネル。


念話で、ケルベロス、オルトロス、ジズへ呼びかける。

普段は目立たないように抑えていた魔力を敢えて、強く発する。


『お~い! お前達、発する魔力で、俺が居る位置は分かるだろ? 戻って来てくれ。ちょっち休憩しよう』


すると、即、反応がある。


『うむ、了解だ』

『分かったあ!』

『きええん!』


『よし、各自、警戒を解くな。気を付けて戻って来いよ』


リオネルはそう言い、空地へ入って行ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


空地へ入ったリオネルは、いつもの癖で、

誰もが何気なく行動する人間の性であろうか、片隅へ行く……


改めて念の為、周囲の索敵を行う。


背後の森林に危険は感じない。


先ほど決めた通り、ゆったりしたいと思ったので、

リオネルは湯を沸かし、好物の紅茶を飲む事にする。


背負っていたバッグを下したリオネル。


続いて、収納の腕輪から魔導防水シートを出して敷き、続いて大樽、魔導コンロ、やかん、ポット、紅茶の茶葉入れ、マグカップを出した。


湯はすぐ沸いた。


茶葉をポットへ入れ、湯を注ぎ、しばし待つ。


この間に、魔導コンロ、茶葉入れを仕舞う。


マグカップを温めていた湯を捨て、ポットからお茶を入れる。


やかんのお湯でポットを洗った後、やかんとポットを腕輪へ仕舞う。

搬出、搬入で出し入れ自由だから楽なものである。


その時、索敵に反応があった。

第三者ではなく、身内の反応である。


結構遠くまで行っていたらしい。


ケルベロス、オルトロスが背後の森から現れ、

ジズは、北の空から降下して来た。


3者は、リオネルの周囲に陣取る。


リオネルは収納の腕輪から、大皿を3つ出し、更に各皿へ巨大な肉塊をのせた。

各町村の市場で買い求めて、戦友達にふるまう為、

ストックしてある牛、豚などの肉である。


『お疲れ! さあ、食べてくれ!』


対して、ケルベロス達は、大いに喜び、肉塊を食べ始めた。


その様子を見て微笑んだリオネル。

自分用にと、皿をひとつ出し、焼き菓子をいくつか出した。


ワレバットで購入した故郷であるソヴァール王国の菓子、

そして、レ・ワイズの街で購入したアクィラ王国の菓子である。


香り高き紅茶を飲みながら、食べ比べてみようと考えたのだ。


リオネルは、まず紅茶をひと口含む。

そして、故国ソヴァール王国の菓子をかじる。


更にアクィラ王国の菓子もかじる。


「両方とも美味い! でも、アクィラ王国の菓子は、ソヴァール王国の菓子とは全然違うな」


と、唸ったその時。


!!!!!


南の方から、反応があった。


リオネルの索敵に『何か』を捕捉したのだ。


ケルベロス達も、南の空をにらんでいる。


しかし!

その『何か』には、全く殺気、悪意がない。


更にリオネルには、感じた事のある『気配』だった。


なので……

リオネルは、ケルベロス達へ、素知らぬようにふるまう事を命じた。


当然、リオネルも。


やがて、リオネル達が休憩している空地へ、

輝く光の塊が現れたのである。

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