第373話「いよいよアクィラ王国へ来たか。何か感無量だなあ……」

リオネルは、呼吸法を使い、体内魔力をあげると、

ピクシーのジャンが閉じ込められた宝箱を開けるべく、じっと見つめた。


久々に宝箱の解錠か。

どうせ、フォルミーカ迷宮へ潜れば、宝箱の作業は行うんだ。


よし!

これも修行の一環。


頑張るぞ!


リオネルは記憶をたぐる。


ワレバットの冒険者ギルド総本部のシーフ講座で訓練し、

英雄の迷宮で、カミーユとともに実践を積んだ。


カミーユ……あいつ、元気にしてるかな?


ふっと微笑んだリオネル。


さあ……宝箱を開けるまでの『手順』はと。


まず……

宝箱に仕掛けられている罠の有無、施錠されている鍵の仕様を見極める。


次に罠があった場合、発動させずに解除。


施錠されている鍵をピックなどの道具を使い解錠、開放し、中身を得る……

だったな。


でも、俺は魔法使い。

魔法使いならではの方法を使うぞ。


見極めティサーン』で罠の有無と種類を見極め、

解錠アンロッキング』『開放オープン』の魔法を使い、一連の作業を行う。


よし!

心で念じて行こう。


最初に……


見極めティサーン


すぐに、内なる声がリオネルへ告げる。


……罠は、仕掛けられてありません。


次に宝箱の鍵を解錠。


これが一番難しいか。


リオネルは精神を集中させ、宝箱を凝視する。


解錠アンロッキング!』


そんなリオネルの様子を見て、老齢の店主は「にやにや」している。


「おい、少年。迷ってるのか? じろじろ見てよ。そんなにこの宝箱が気に入ったのかい?」


「……………………」


対して、リオネルは無言を貫く。

店主の言葉は一切届いていなかった。


ただひたすら、宝箱を見つめ、解錠に集中している。


時間が過ぎて行く。

1分……3分……そして5分。


さすがに店主は痺れを切らす。


「おい、少年! 冷やかしなら他でやってくれ!」


焦れた店主が叫んだ瞬間である。


かちゃり!

と、宝箱から小さな小さな音がした。


遂に!


鍵が……解錠されたのだ!


店主は、解錠の音があまりにも小さかったので全く気付いていない。


こうなればこっちのモノ。


開放オープン


リオネルが念じれば、宝箱はパカン!

と開いた。


同時に、ひゅ!

と音を立て、光の塊が放たれ、天高く飛んで行った。

そして、いずこともなく消えてしまう。


この光の塊が多分、ピクシーのジャンなのだろう。


おいおい、助けてあげた礼も無しか?

まあ、良いけど。


苦笑したリオネル。


一方、店主はいきなり宝箱が空き、びっくり。


思わず中を覗き込む。

やはりというか、中は空っぽ。

何も入っていなかった。


「ちっ! やっぱ、空かよ!」


ピクシーの姿は、人間には見えないと言われる。

それゆえなのか、飛んで行った光の塊は、店主には見えてなかったらしい。


リオネルも素知らぬふりで応える。


「みたいですね」


「ふん! じゃあ、少年! 金貨1枚でいいぜ! どうせ売れ残りだ!」


金貨100枚から1枚へ、超が付く大幅値下げ!

というか、元々どこかの冒険者から格安で買ったに違いない。


宝箱は呪われてもいないし、魔法で施錠可能。


閉じ込められていたジャンはどこかへ行ってしまったが、

何かの役に立つかもしれない。


店主には時間と手間も取らせたし。

宝箱を開ける練習にもなった。


「じゃあ、それ頂きます」


「毎度ありい!」


という事で、リオネルは空の宝箱を金貨1枚で購入したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


市場を後にしたリオネルは、ひと気のない路地で、宝箱を収納の腕輪へ搬入。

仕舞うと、レ・ワイズの街を更に探索。


商店では、食料品、資材の買い物を行う。

購入したものは全てひと気のない路地で、収納の腕輪へ搬入してしまう。


愛用の魔導懐中時計を見れば、午後1時過ぎ。


そろそろ……

国境を越え、アクィラ王国へ行くか。


という事で、リオネルはレ・ワイズの北正門へ向かう。


この北正門を出てしばらく行けば、すぐアクィラ王国の国境であり、

兵士達が詰める大きな検問所がある。


その検問所で、冒険者ギルドの所属登録証を提示すれば、問題なく入国出来るはずだ。


北正門を出れば、少し先に検問所はあった。

所属登録証を提示すると、ランクAという記載に驚いたのか、

兵士からは、いくつか質門があった。


質問の内容は、隠すものではない。


目的地は?等、差し障りがないものだ。


「とりあえず、迷宮都市フォルミーカへ行く予定です」


リオネルが答えると、こわもての兵士は笑顔で頷き、入国を許可してくれた。


「お気を付けて」


「ありがとうございます」


リオネルは、兵士へ丁寧に一礼。

検問所を出た。


目の前にはまっすぐ街道が延びている。


「いよいよアクィラ王国へ来たか。何か感無量だなあ……」


そうは言いつつも、街道が延びる周囲の風景はそんなに変わらない。

針葉樹が少し多くなったくらいだ。


目指すフォルミーカはここから約60km。


転移魔法を使えば、瞬時に到達可能だが、味気なさすぎる。

急ぐ旅ではない。


リオネルは、大きく頷き、ゆっくりと歩き出したのである。

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