第368話「リオネルはもう完全にコツをつかんでいる」

アリトンの詠唱とともに、アガムの湖面が10mほど盛り上がり、大きな波となり、

『見えない敵』へと向かって行った。


見事だ!

と、リオネルは見とれていた。


だが、その波を見たアリトンは、ふっと軽く笑う。


『まだまだ序の口。こんなものは、ほんの小手調べじゃ』


『これでほんの小手調べですか』


『うむ! リオネルよ! もっともっとわらわが手本を見せようぞ』


『はい!』


『うむ! 水が千変万化し、どう変わるのか、いくつも見せてやろう。そのさまをしかと、なんじの心に刻んでおけ。なんじが水の技法を発動する際のイメージとするのじゃ』


『了解です!』


『ふむ、再び声に出し、詠唱しよう……聖なる水よ、我が敵を押し戻せ!』


アリトンが『言霊』を詠唱すると、今度は、

先ほどの3倍!

何と! 高さ30mの巨大な波が発生し、押し寄せて行く。


『次じゃ! ……聖なる水よ、我が敵を押し戻せ!』


更に次は、高さこそ20mほどであるが、激しいしぶきをあげながら、複数の波が、『見えない敵』へ、おそいかかるどう猛なものであった。


『最後は、こうじゃ! ……聖なる水よ、我が敵を押し戻せ!』


そして更に更に! 水が高さ100mにもなる巨大な竜巻となり、『見えない敵』を天高く巻き上げる凄まじさだ。


アリトンが繰り出す水の千変万化。


しかし、「まだまだ」と言いたいのか、アリトンはふっと笑う。


『リオネルよ』


『はい』


『今、なんじへ見せたのは、千変万化たる水のほんの一部じゃ。だが、そなたなら、己の心の中で、いくつものバリエーションを楽に生成出来るであろう』


『はい! どんどん試してみたいです!』


『うむ、その意気じゃ! 臆することなく、挑むがよい!』


『はい!』 


リオネルの「はきはき」した返事を聞き、アリトンは嬉しそうに笑った。


同じく笑顔を戻したリオネルは、体内魔力を高めると、

……聖なる水よ、我が敵を押し戻せ!と心で念じた。


すると、アリトンが見せた、 高さ30mの巨大な波、高さ20mで激しいしぶきをあげながら、複数の波が、襲いかかる波、そして高さ100mにもなる巨大な水の竜巻をたやすく生み出してしまう。


更にリオネルは、他にも様々なバリエーションの大、中、小の波を生成してみせた。


こうなると、アリトンそして配下のウンディーネ、マイムは大いに喜ぶ。

ふたりの『教官』は、意見が一致、情意投合した。


『マイム、リオネルを次の段階へ進ませても良かろうて!』


『はい! アリトン様』


こうしてリオネルは、出された課題を完璧にクリア。

次のステップへ進む事となったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『リオネル、ここまでは文句なく合格じゃ』

『そうね! アリトン様のおっしゃる通りだわ』


アリトンとマイムから太鼓判を押されたリオネル。

ふたりへ、深く一礼する。


『ありがとうございます』


教官役は、完全にアリトンへバトンタッチしたらしい。


『リオネルよ。次はこれまで習得した水の魔法を応用し、攻防に使うのじゃ』


『水の魔法を応用し、攻防に……ですか?』


『うむ! まず攻防の攻だが、リオネルが習得済みの水弾を応用してみせい!』


『水弾を……ですか。ああ、成る程!』


水の攻撃魔法『水弾』は、水を魔力で、鋼鉄のように硬質化し、撃ち出す魔法である。


『おお、すぐに察したか!』


『はい! 先ほど合格を頂いた敵を押し流す技法に、水弾を加えれば宜しいですね』


リオネルのひらめきはビンゴ!

正解だったようだ。


『うむ! リオネルよ! その通りじゃ! 早速試してみせい!』


『はい!』


呼吸法で体内魔力を上げると……


リオネルは、高さ30mの巨大な波、高さ20mで激しいしぶきをあげながら、複数の波が、襲いかかる波、そして高さ100mにもなる巨大な水の竜巻を生成。


水弾の魔法と同様、全てを硬質化し、『見えない敵』へぶつけた。

まともに当たったら、敵は大ダメージを受けたはずだ。


『うむ! これなら数多の敵と対する際、役に立とう』


『はい!』


『うむ! 次は攻防の防じゃ! こちらも自身を運ぶ技法へ、水壁を応用すれば良い』


水の防御魔法『水壁』は、術者の前に硬質化した水の壁を生成。

敵の攻撃をやわらげ、防ぐ魔法である。


リオネルはもう完全にコツをつかんでいる。


『はい! ……聖なる水よ、敵より守る壁となりつつ、我を運べ!』


すると!


リオネルが立つ場所から、少し前の位置の水が、勢いよくせりあがった。

高さ10mほどの強固な水壁となり、守るがごとく、前にそびえ立つ。


同時にリオネルの足元から、小さなさざ波が起こった。

さざ波は、湖面に立つリオネルの身体を、水壁ごと、すい~っと、運ぶ。


加えて、リオネルは前面だけの壁を四方に張り巡らせたり、そのまま速度を変え、

中速、高速で走らせたりもした。


ここでマイムが『はい!』と、手を挙げて提案。


強い波や水流の中でも、リオネルがダメージを受けぬよう、

円滑に泳ぎ、進めるように訓練しようと。


これらの課題もリオネルは楽々とクリア。


水の加護を完全にものとし、ダメージどころか、

大嵐に近い水面、水中、大渦巻でもびくともしなかった。

すいすいすいと、しなやかな魚のように泳いだのである。


最高に上機嫌となったアリトンは、

リオネルに極大攻撃魔法『大渦巻』『絶対零度』を伝授したのである。

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