第364話「リオネルよ! ひとたび、なんじが命じれば」
声がした方向から、銀色の地に青い模様を配した、
独特のドレスを着込んだ色白で細身の女性が現れた。
地の最上級精霊ティエラは可憐で活発。
空気界王オリエンスは気高く凛然。
ふたりとも、美少女という趣きであった。
だが、この女性は端麗な顔立ちをした、
たおやかな大人の女性という雰囲気を醸し出している。
彼女が水界王アリトン……
あらゆる水の変遷を管理する存在で、水の精霊ウンディーネ達の支配者。
伝説と言われた高貴なる4界王のひとりが、
またもリオネルの前に姿を現したのである。
アリトンはまず、マイムを労わる。
『マイムよ、良くぞ、
対してマイムは、
『は! ありがたきお言葉!』
と恭しく一礼。
それを見たリオネルは、同じく恭しく一礼。
間を置き、顔を上げ、はきはきとあいさつする。
『初めまして! 水界王アリトン様! 冒険者のリオネル・ロートレックと申します!』
けして卑屈にならず、敬いながらも、穏やかに堂々と。
そんな気持ちで、リオネルはあいさつをした。
対してアリトンは涼やかな声で応える。
『うむ! そなたがリオネル・ロートレックか!
『はい! アリトン様におめにかかれ、とても光栄至極に存じます!』
『うむ! こちらこそじゃ! リオネルよ! そなたは今まで妾が知る
『いえ、自分は全然未熟者です。至らない部分を少しでも改善したいと、日々悪戦苦闘しております』
『ははははは! 地と風の加護を受け、強大な従士を使役しながらも、尊大ではなく、欲望に堕ちない。更にマイムから水の加護を受けても、あるのは慈しみと純粋な向上心! そなたに邂逅し、魂の絆を結んだ者達が、笑顔となり、生きる励みを得るのも納得じゃ!』
自分と邂逅し、魂の絆を結んだ者達が、笑顔となり、生きる励みを得る……
それこそが、立てた目標を達成し、自分の人生を全うするのと同じくらい、
リオネルが感じる歓び……
実家を追放され、ここまで旅をして来た中で、
リオネルが得た真理ともいえるものだ。
それゆえ、リオネルは、はっきりと言い切れる。
『はい! アリトン様! 自分とかかわった方々が生きる励みを持つ事がとても嬉しく感じます。凄くおこがましいですが、自分は彼ら彼女達の人生において、良き脇役になりたいと心から願っております!』
『うむ! リオネルよ! 妾には分かる! 己の人生を全うしようと願い、切磋琢磨しつつ、それ以上に他者を思いやり、良き脇役になろう! そう思う真摯な気持ちが、究極の隠しスキル『生きる励み』をそなたの心に生んだのじゃ!』
『究極の隠しスキル『生きる励み』……』
『うむ! 『生きる励み』は他のスキルと違い、意図的に発動、行使するものではない! そなたの自然な言葉、ふるまいこそが、生きる励みの発動、行使となっておるのじゃ!』
アリトンはそう言うと、柔らかく微笑んだのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
生きる励みの極意を伝えた後も、アリトンの話は更に続く。
『数多の者達へ夢と希望を与えしリオネルよ、
そう言うと、アリトンはにっこり笑い、
『それゆえ、なんじの旅を助け、なんじの人生を全うする後押しとして、水界王たる
『ありがとうございます! 嬉しいです!』
『うむ、そうか、そうか。リオネル、なんじはすでに、マイムより水の加護を受けておる。即座に水になじめるようにな。それゆえ、この水宮城へ来る事も難儀しなかったはずだ』
アリトンの言う通りである。
マイムが授けた水の加護により、湖面を歩き、水宮城へ降下する事が出来たのだ。
『はい、アリトン様の、ご指摘の通りです』
リオネルが同意し、アリトンは満足そうに頷く。
『うむうむ! 妾が与える加護とはな、水を、己の分身に等しい、偉大なる戦友とする事だ』
『水を、己の分身に等しい偉大なる戦友に……ですか』
『うむ! リオネルよ! ひとたび、なんじが命じれば、水は千変万化あらゆる形をとり、敵を攻撃し、味方を守る。また水は味方を運び、敵を押し流すであろう。無論、詠唱などは不要、心で念じるだけで良い!』
『おお、凄いですね!』
『うむ、このアリトンが与える水の加護、心して使うが良い!』
アリトンはそう言うと、両手を大きく挙げた。
ひときわ、高い声で言い放つ。
『たぐいまれなる才能を持つ、
アリトンが、加護の授与を言い終わった瞬間。
巨大な魔力がリオネルを包んだ。
同時に、リオネルの心身には、地、風とはまた違う、
不可思議な力が満ちあふれたのである。
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