第363話「アリトン様の命により、人間族の魔法使い、リオネル・ロートレックを連れて来ました」

『他の界王も精霊達も気付いていない、究極の隠しスキル『生きる励み』を持つ君にぜひ会いたい!とおっしゃったんだよ!』


マイムはそう言うと、にっこりと笑い、

つないだ手にぎゅ!と力を入れた。


『究極の隠しスキル『生きる励み』……ですか?』


リオネルにとって、凄く興味深い話である。

しかし、マイムは詳細を語らない。


『うん! 詳しい事は、アリトン様にお会いして、直接伺った方が良いわ』


マイムはそう言うと、再び、つないだ手にぎゅ!と力を入れた。


『分かりました。あの、マイム様』


『なあに?』


『俺は全然構いませんが、聖なる存在であるマイム様と、手をつないだままで宜しいのでしょうか?』


『え? あ、あ、ああっ! ごっ、ごっ、ごめんねっ! 申し訳ない!』


マイムはそう言うと、慌てて、パッと手を離した。


『いいええ、そこまでお謝りにならなくとも。本当に俺は全然構いませんけど』


『いえ、まずいわ! ティエラ様やオリエンス様から、アリトン様へ余計な事を言われちゃうもの!』


『え? ティエラ様やオリエンス様から、アリトン様へ余計な事を言われるのですか? どういう事でしょう?』


『うん! そう! い、いえ! 何でもない! 何でもないのよ!』


取り繕うマイム。


そんなマイムの言動を見て聞いて、リオネルは推測する。


リオネルとマイムが手をつないだ事が分かったら、ティエラか、オリエンスより、

主筋のアリトンへ、何らかの『抗議』が行くのかもしれない。

まあ、単なる『嫌味』レベルかもしれないが。


そういう場合、アリトンが、ティエラとオリエンスに「借りを作る」事となる。


自分のせいで、「借りを作る」……つまり主が恥をかく……

マイムとしては、そうなる事を懸念しているのであろう。


「ふう」と軽く息を吐いたリオネル。

改めて周囲を見た。


それにしても、この水の精霊の街『水宮城』は不可思議かつ美しい街だ。


独特なデザインの白壁の建物が並んでいる。


青々と茂る街路樹は地上にはない種類だ。


美しい清流が流れる大きな水路が走っている。


そして、あちこちに噴水があり、勢いよく水を噴き出していた。


見上げれば、くもひとつない、真っ青な空が広がっていた。


湖へ潜ったはずなのに……


水宮城は現世ではなく、異界に違いないが

喧騒がなく、水の音しか聞こえない、素敵な街だ……


冒険者を引退したら、大好きな想い人と、静かにのんびり暮らしたい。

そう思うような街だ。


つい、ぽ~っと水宮城の風景を見ていたリオネル。


『どうしたの? リオネル君』


『い、いえ、何でもないです』


『アリトン様がお住いの王宮はこちらよ、ついて来て』


『はい』


笑顔のマイムにいざなわれ、

リオネルは、水宮城の通りを歩いて行ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


それから少し歩き、リオネルとマイムは目的地へ到着した。


『リオネル君』


『はい』


『念の為、……警備上、この王宮へ、外部からは直接降下出来ないようになってるの。ふらち者が侵入しないようにね』


『成る程』


『仕組みは秘密よ。重大極秘事項だから』


『はい、納得です』


水宮城内……

高貴なる水界王アリトンの王宮。


王宮の正門には、これまた独特のデザインの『鎧』を装着したウンディーネが、

こぶりの槍を持ち、警備にあたっていた。


但し、ウンディーネが装着しているのは、

鎧というよりは、『ヴェール』に近いものだが。


きりっとした顔立ちのウンディーネは、リオネルとマイムへ鋭い視線を投げかける。


だが……

警備にあたるウンディーネは、マイムを見知っていた。


少し表情が和らぐ……


『これは、これは、マイム様!』


『お疲れ様! アリトン様の命により、人間族の魔法使い、リオネル・ロートレックを連れて来ました。謁見を行います』


『は! かしこまりました! このまま、お通りください!』


『通ります!』


『ええっと……失礼します』


マイムの後についたリオネルは、一礼し、警備担当のウンディーネの前を通った。


王宮へ入ると……

内部も、同じ装備をしたウンディーネ達でいっぱいである。

警備は厳重そうだ。


自由な雰囲気の街と違い、対照的に王宮はものものしい。


そんな中……


引き続き、リオネルを引き連れ、マイムは迷うことなく歩いて行く。


置かれている調度品は、現世では見た事のない、

流線的で素敵なデザインのものが多い。


ついリオネルはきょろきょろしてしまう。


やがて、ふたりは王宮の大広間に到着した。


この大広間にも、やはり武装したウンディーネが多い。


マイムが、声を大きく張り上げる。


『我が主、アリトン様! ご命令通り! 人間族の魔法使い、リオネル・ロートレックを連れて参りました!』


対して、


『マイム! ご苦労様! よくぞわらわが命じた勤めを果たした!』


と、凛とした声が戻り……


声がした方向から、銀色の地に青い模様を配した、

独特のドレスを着込んだ色白で細身の女性が現れたのである。

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