第359話「馬鹿馬鹿しい事をする精霊だなって、呆れたでしょ?」

水の精霊、ウンディーネのマイムが、ピン! と指を鳴らせば、

不可思議な事に、いきなり剣が3つ、彼女の脇に現れた。


燦然と輝く金、聖なる輝きを放つ銀、そして渋く光る鉄である。

古めかしいデザインだが、どれも立派な剣だ。


マイムは、にっこりと笑う。


『さあて! リオネル君が落とした剣はどっれかなあ?』


『ええっと……』


マイムから3つの剣を見せられ……

リオネルは、『ある話』を思い出した。

亡き母から聞いた寓話が心の記憶に刻まれていたのだ。


懐かしい声が、家族の中で唯一優しかった母の面影が、

リオネルの心に、はっきりと浮かんで来る……


……リオ、ある所にね、とてもまじめなきこりがいたの。


きこりはね、毎日毎日、木を切っていました。

でも、ある日、いつも自分がいつも使っている鉄の斧を、

近くの泉に落としてしまったの。


斧がなければ仕事が出来ない。

生活出来なくなってしまう……


きこりは困り果て、泉の岸辺でがっくりしていたところ、泉から神様が現れて、

『先ほど、貴方が落としたのは金の斧ですか? それとも銀の斧ですか?』

とお尋ねになったのよ。


真面目なきこりは、

「いいえ、どちらでもありません。私が落としたのは鉄の斧です」

と正直に答えたの。

神様は、

『貴方は、本当に正直者ですね。ごほうびに、全ての斧を贈りましょう』

と、きこりに落とした鉄だけでなく、金、銀の斧も全てあげたの。


真面目なきこりと知り合いだった不真面目で欲張りなきこりは、その話を聞き、

自分も「金、銀の斧を手に入れたい」とたくらみ、

捨てようと思っていた錆びついたおんぼろの鉄の斧を持って来て、

わざと泉へ、ぽっちゃんと落としたのよ。


すると泉から神様が現れ、

『先ほど、貴方が落としたのは金の斧ですか?それとも銀の斧ですか?』

とお尋ねになったの。


すると、不真面目で欲張りなきこりは、

「わたしが落としたのは金の斧です」

と、大嘘をつきました。


だけどね、そう甘くはなかったの。


全てを見通した神様は、たいそうお怒りになり、

『貴方は本当に嘘つきですね。泉にゴミを捨ててはいけません!』

と、不真面目で欲張りなきこりに、冷たく言い、何も与えずに泉へ戻って行きました。


不真面目で、欲張りなきこりは、嘘がばれ、神様に厳しく叱られ、

罰が当たったと、がっくりしましたとさ……


……母から聞いたこの話は、正直であることが最善の策である、

欲張って嘘をつくと、失う代償が大きいことを教えてくれる話だと、

リオネルはおぼえていた。


それ以前に、既にリオネルはアピールしていた。


『だからマイム様、既に申し上げましたが、自分は剣を落としていませんって』


リオネルはそう言うと、先ほどより目立つように剣の鞘を持ち上げたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


剣の鞘を持ち上げたリオネルを見て、


『あははははははははっっっ!!!』


とマイムは大笑いした。


そして再び、ピン!と指を鳴らすと、3つの剣は消え失せた。


『リオネル君! これで君との会話のとっかかりはOKよね? 話しやすくなったわ』


『はあ……まあ、確かに話しやすくなりましたが』


『うふふふ♡ 馬鹿馬鹿しい事をする精霊だなって、呆れたでしょ?』


『呆れませんが、最初にスルーされたので、マイム様には何か意図があると思いました』


『うん! 意図はあるよ。まず君が自然を敬愛する少年なのか、醜い欲にかられない少年なのか、見極めたかったの』


『成る程』


『うん! リオネル君は私が思った通りの子だったよ♡ だから合格!』


『合格ですか』


『じゃあ、改めてお礼を言うね! ……丁寧に、気持ちを込めて、湖畔を掃除してくれてありがとう! 最近自然を敬わない、ありがたみを感じない、愚かな人間どもが増えて困っていたんだ』


『いえ、俺も人間族ですから、重ね重ね、申し訳ありません』


『うふふふふ♡ リオネル君みたいな子が居るのは嬉しいよ。それとわざとらしい仕掛けとはいえ、醜い欲にもかられない。やっぱり礼儀正しく、正直、誠実な男子が、女子には好まれるわ』


『ですか』


『ええ、リオネル君が可愛がった水の魔法使いミリアンのようにね……彼女、リオネル君を好きになったでしょ?』


ウンディーネのマイムは、キャナール村で別れたミリアンを知っていた。

水の属性つながりらしい。


リオネルはひどく懐かしくなり、思わずミリアンの名をつぶやく。


『ミリアン……』


英雄の迷宮で、リオネルへ愛を告げた15歳の少女ミリアン……

姉妹が居ないリオネルにとって、まさに可愛い妹であった。


キャナール村で暮らしているはずだが……元気でやっているだろうか。


そんなリオネルの心を見抜いたようにマイムは言う。


『大丈夫よ、リオネル君。ミリアンはキャナール村で元気に暮らしているわ』


『ミリアンが? 元気に暮らしている? それは良かった』


『うん! 大丈夫! ミリアンには我が主、水界王アリトン様が水の加護を与えられたから』


『え? アリトン様が水の加護を? そうなんですか?』


『ええ! ミリアンには、リオネル君が全属性魔法使用者オールラウンダーとなるべく導いたご褒美をあげたの』


『成る程……ありがとうございます』


『うん! ミリアン、すっごく強くなったわよ』


『へえ、すっごく強くですか』


『うん! 君と別れた時よりも、魔力量が大幅に増大し、身体能力もアップで、きれっきれ。危機回避能力も抜群に増した。本人は水の加護を受けたって、気付いていないみたいだけど、うふふふ♡』


マイムは、いたずらっぽく笑い、


『さあ! リオネル君には、ここからが本題の話よ!』


と、はっきり言い放ったのである。

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