第360話「不可思議な感覚がリオネルの心身に満ちた」
マイムは、いたずらっぽく笑い、
『さあ! リオネル君には、ここからが本題の話よ!』
と、はっきり言い放った。
『本題の話……ですか?』
『ええ、単刀直入に言うわ。リオネル・ロートレック君、
やはり!
地の最上級精霊ティエラの告げた通り、リオネルの思った通り、
水界王アリトンが、眷属のウンディーネ、マイムを使い接触して来た。
『成る程。俺を水界王アリトン様にですか?』
『ええ、リオネル君を水の精霊の都、水宮城へ連れて行くわ。そこで、アリトン様に謁見して貰うから』
『水宮城……ですか?』
『ええ、水宮城! アリトン様が治める街! 私達精霊だけでなく、眷属たる水の一族が住まう街よ!』
水の精霊の都、水宮城とは、この現世には存在しない異界の街……
風の精霊、シルフのリーアが誘った『風の谷』と同じ聖域であろう。
しかし……
リオネルには、気になる事がある。
『マイム様』
『なあに?』
『水宮城へ伺い、水界王アリトン様にお会いするのは、こちらからお願いしたいくらいですが、ちょっち懸念がありまして』
『ちょっち懸念? なあにそれ?』
『はい、俺、古文書で読んだ事があります。東方の話らしいですが、水宮城とこの人間の世界、現世とは時間の流れが著しく異なると』
リオネルが言えば、マイムは大きく頷く。
『うん! それな!』
精霊らしくないノリ。
困惑するリオネル。
『ええっと……』
リオネルからジト目で見られ、マイムは慌てる。
『い、いえ! 確かにそうよ! そ、それで! リ、リオネル君は! な、何を心配してるわけ?』
『はい、水宮城へ行った冒険者が戻って来て、おみやげの宝箱を開けると、一気に老化してしまうって話です』
『へえ! かわいそ! 悲惨!』
『はい、可哀そうで悲惨です。精霊の皆さんとは違い、人間は、与えられた寿命がせいぜい約100年と限られてまして……』
『成る程』
『なので、俺は、水宮城でアリトン様とお会いした後、この現世に戻って旅を続け、立てた目標を達成し、人生を全うしたいです。だから……おじいちゃんになるのは困るんですよ』
『うふふ♡ だいじょうぶい!』
『ですか』
『うん! 君が行った風の谷同様、過ぎる時間をゆっくりするようにして、戻ったら、この世界の時間があまり経ってないようにするから!』
『はあ……そうして頂くと、本当に助かります』
『うふふふふ♡ ドント・ウォーリー! ノープロブレム!」
リオネルが『風の谷』へ招かれた事を知っているウンディーネのマイム。
やはり……精霊達は裏で通じている?
苦笑したリオネルは、水界王アリトンの待つ『水宮城』へ赴く事を決めたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リオネルが水宮城へ行く事を了解したので、ウンディーネのマイムは上機嫌。
にこにこしている。
『リオネル君! さあて! 行こうかあ!』
『はい』
『じゃあ、このまま私のところへ来て』
湖畔から約5m、湖面から約1mの高さに浮かぶ、
笑顔のマイムはちょいちょいと手招きした。
『来てって……どうすれば』
……そうか、習得したばかり、低速の『飛翔魔法』を行使すればいいんだ。
リオネルは、思いつき、飛翔魔法を発動しようとした。
だが……マイムは、人差し指を左右に振り、NGの意思を示す。
『ちっちっち。ストッ~プ! ちょ~っと待ったあ! 他属性の、飛翔魔法なんか使っちゃだめだめ!』
『ですが……このままでは』
リオネルが見たところ、湖はいきなり深くなっている。
マイムが浮かんでいる辺りは、水深は5m以上ありそうだ。
泳げなくはないだろうが……
するとマイムは、
『今、リオネル君へ、私から、小さな水の加護をあげる。ほんちゃんの加護はアリトン様から受ける事になるけど』
小さな水の加護?
ほんちゃんの加護?
どういう意味だろう?
全く分からなかった。
しかし、マイムから悪意は感じない。
リオネルは素直に受け入れる事にした。
『分かりました。宜しくお願い致します』
『じゃあ、ウンディーネのマイムが、リオネル君へ水の加護を与えるよぉ!』
マイムはリオネルに向かい、手を振り、魔力を放って来た。
魔力は……あっという間に、リオネルを包み込む。
不可思議な感覚がリオネルの心身に満ちた。
『さあ! リオネル君! そのまま私の方へ歩いて来て!』
そのまま?
もしや……リオネルにはどうなるのか、予感がした。
大きく頷いたリオネルは、マイムへ向かい歩み出す。
ここで、予感は確信に変わった!
何と何と!
湖面に踏み入れたリオネルの足は沈まないのだ……
そのまま、ひたひたひたと、マイムの下へ向かい、
リオネルは蒼き湖面を歩いていたのである。
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