第357話「そこの君!!! ちょ~っと待った!!!」

リオネルの修行に新たな項目が加わった。

鳥の王ジズ、ケルベロスの弟魔獣オルトロスが加わった新フォーメーションにおける訓練、演習である。


またリオネル自身も、転移魔法、飛翔魔法、夢魔法は勿論、

空気界王オリエンスから、風の上位攻撃魔法『竜巻』『大嵐』を。

また『聖なる風』を、自身のみでなく、他者への防御治癒の魔法として使う事。


そして地の最上級精霊ティエラから授かった『剣山破砕』と『大地の束縛』など、

もろもろの魔法修行が忙しい。


国境を越えた、隣国アクィラ王国の迷宮都市フォルミーカまでは、

ゆうに200km以上を残している。


もしも気がはやれば、転移、飛翔の魔法を行使し、

一気にフォルミーカまで! ……という可能性もゼロではなかった。


しかしもう完全になくなった。


修行のメニューが山積みだからである。

リオネルは、じっくり、ゆっくり行こうと決めたのだ。


そんなある日の事……

リオネルは、街道から少しそれた原野で、戦友達と訓練、演習を行った。


そして、訓練と演習が終了後……『お疲れ様』といたわり、

異界と収納の腕輪へ戦友達を戻してから、転移魔法で、街道の近くに森へ跳んだ。


少し森を歩くと、大きな湖に出た。


本日も天気が良い。

リオネルの頭上には真っ青な大空が広がり、気分も同じく晴れる。


この湖は、広々として開放的、水の色が澄んだ青である。


水面を渡る風が、リオネルの鼻腔へ、芳しい香りを運んで来る。


見れば、湖の岸辺には、色とりどりの花が咲き乱れている。

その花から香って来るらしかった。


「ぶんぶん!」と音を立てて、花の周りを小さな蜂が忙しそうに飛び回っている。


穏やかな鳥の声もする。

岸辺から少し離れた場所に生えている木々には、小鳥が数羽止まっていた。

のんびりと、さえずっている。


しかし!

そんな美しい風景を台無しにする蛮行が、リオネルの目に飛び込んで来た。


何と何と!

湖畔の一画に、焚火の跡があり、ゴミが大量に捨てられていたのである。

多分キャンプをしたふらち者のしわざに違いなかった。


「なんてこった!!!」


リオネルは思わず大声を出した。

索敵……魔力感知による反応なし、肉眼による視認でも人影はなし。


唇をぎゅ!と噛み、収納の腕輪から大きな布製ズタ袋を取り出し、

リオネルはダッシュ。


キャンプ跡に取り付くと、積み上げられたゴミを、

ぽいぽいとズタ袋の中へ入れ始めた。


リオネルが掃除をする手際はとても良い。

あっという間にゴミが片付けられた。


辺りを見回したリオネルは散らばっているゴミも拾う。


更に焚火跡の燃えさしも、火が消えているのを確認した上で、

ズタ袋へ入れてしまったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ゴミを片付けたリオネルは、キャンプの跡を丁寧に消して行く。


自然を楽しむのなら、最低限のマナーは守って欲しい。

そう切に願う。


やがて、キャンプ跡は完全に消えた。


ズタ袋の口をひもでしめ、収納の腕輪に放り込み……

ふ~と軽く息を吐いたリオネル。


ちらと湖を見れば、やはり広々として開放的、水の色が澄んだ青である。


本当に美しい湖だ。


心が洗われるようだ。


リオネルはゆっくりと深く湖へ一礼した。


きびすを返し、街道へ向かうべく、歩き出そうとする。


と、その時!


『そこの君!!! ちょ~っと待った!!!』


と制止の声がかかった。


リオネルの心に大きく大きく響いたのは、聞き覚えのない女子の声である。


しかも、うら若い女子の声だ。


リオネルは言葉を戻す。

当然、この女子が使う、心と心の会話、念話である。


『あの、お待ちしても宜しいのですが……ええっと……どちらさまでしょうか?』


『うふふふふ♡ 湖まで来たら分かるわよ』


『湖までっすか……分かりました』


心に響く声には殺気は勿論、悪意がない。


しかし無防備でのこのこ行くほど、リオネルは抜けてはいない。


魔法使いの呼吸法で体内魔力を上げ、シーフスキル『隠形』『忍び足』を使う。


そしていつでも転移魔法が発動可能なようにスタンバイしておく。


すっ、すっ、すっ、すっ、すっ、すっ、すっ、すっ、と歩いて行くと、


『うふふふふ♡ 用心深い少年、君に質問がありま~す』


再び謎めいた女子の声が響き、リオネルがいる岸辺のすぐ近くの、

湖面上の空間がいびつにゆがんだ。


その瞬間、何と!


リオネルの目の前の湖面の上には、

水色のヴェールをまとった美しい少女が、ふわふわと浮かんでいたのである。

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