第356話「習うより慣れよ」
約3時間後……
リオネルは、ケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟を従え、街道を歩いていた。
オルトロスから申し入れのあったオーク討伐勝負は、既に終わっている。
余裕の笑みを浮かべるリオネル、ケルベロスに対し、
オルトロスはしかめっ面だ。
『おい、リオネル様よ。あんたはやっぱり細かくて面倒くさい奴だな』
対して答えたのは、リオネルではなくオルトロスの『兄』であるケルベロスだ。
『オルトロスよ! 何を言う! 細かくて面倒くさいのではない! 我々の
『ふ~ん。繊細で慎重ねえ……』
『それでいて思い切りが良い大胆な部分もある! ティエラ様が見込んだ、主の器の大きさを、お前も感じたはずだぞ』
『まあ、そりゃ確かにそうなんだがよ……』
……あれから、リオネルは、まずオークに脅かされるとオルトロスが言う人間の村、付近へ転移した。
そして、偶然通りかかった旅人を装い、詳しい事情を聞き及んだのだ。
間違いなくオークどもが、村へ害を為すのを確認した上で、
リオネルはオルトロスとともに、オークどもの巣付近へ転移。
ケルベロスを呼び出し、『立ち合い人』とした上で、オーク討伐勝負を敢行したのである。
リオネルとしては、いくらティエラが引き合わせてくれたとはいえ、
オルトロスとは初対面。
オーク討伐にあたり、オルトロスが告げる話の確認を行った上で、
『問題のない勝負』をしようと考えたのである。
オーク討伐勝負の結果は……当然、リオネルの圧勝であった。
ギフトスキル『オークハンター』の効果で無敵状態なのは勿論、
おびきだしたオークどもを、ティエラから授かったばかりの地の高位精霊魔法、
『大地の束縛』で行動不能……すなわち戦闘不能にした上、
『剣山破砕』で、全てのオークを刺し貫いたのだ。
その後、全滅させたオークを葬送魔法で塵にした手並みも鮮やか。
全く出る幕がなかったオルトロスは呆れ果て、
ただただ見守るしか、為す
勝負の経緯と結果を全て思い出した上で、オルトロスは言う。
『何だかよ、リオネル様と話していると、口うるさい堅物兄貴がもうひとり増えたみたいで嫌なんだ』
そんなオルトロスの愚痴というか嫌味を華麗にスルー。
ケルベロスは言う。
『我々の主は、人間にしては異常に強くて、弱き者に優しく思いやりもある! お前のように「不器用ながさつ者」もけして見捨てない』
はあ!?
俺が不器用ながさつ者?
誰がじゃ!
兄に猛反発しながらも、オルトロスは思い出す。
オークに両親を殺され、嘆き悲しむ村の幼い少年を、
リオネルが優しく慰め、力づけたのを見て聞いていたからだ。
「ティエラ様が見込んだ主の器の大きさを、お前も感じたはずだ」
先ほどケルベロスが告げた言葉もリフレインし、
『ああ! 確かにそうだな、ふふふ』
小さくつぶやいたオルトロスは、二っと笑い、納得すると、
歩を進めたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日。
一旦、ケルベロスとオルトロスの魔獣兄弟を異界へ帰還させたリオネル。
とある町の宿に泊まり、翌朝、出発した。
相変わらず、徒歩、駆け足、転移、飛翔……
修行しながら街道をゆく途中、格好の原野を見つけたリオネルは、
転移魔法を使い、移動。
改めてひと気がないのを確かめると、
リオネルはケルベロスとオルトロス、そしてジズを召喚。
収納の腕輪からは、魔獣アスプ6体、ゴーレム20体を『搬出』した。
戦友が一気に増えたから、今後の事もあると思い、
良い機会だと判断し、『顔合わせ』をしたのである。
この顔合わせは、単に互いの存在を認識させるだけではない。
リオネルはいくつか戦いのパターンと敵を想定し、
森、丘、沼などがある原野の地形を使い『演習』を行った。
自分を起点にし、戦友達を冒険者のクランに想定。
シーフ役、盾役、戦闘役、支援役に役割分担させ、訓練と模擬戦を行ったのである。
習うより慣れよ……
言葉を使う理屈で教えるより、実地に何度も何度も繰り返して、
心と身体で慣れて貰う方が大切。
そして、リオネルが特に重視したのが連携プレーである。
適材適所にて、戦いを円滑に行う為。
また戦友同士、互いのコミニケションをはかる為、
というリオネルの意図を理解し、戦友達は心と身体を動かした。
結構な場数を踏んでいる為、ケルベロスとアスプ6体、ゴーレム20体の連携は見事なものだ。
ジズ、オルトロスという新参組は、少しタイミングが遅れる。
しかし、リオネルは怒ったりはしない。
改善の為に指示を与え、同じミスを繰り返さないよう注意するのみだ。
ひと通り、訓練と模擬戦を終えると、
リオネルは戦友達に、市場で購入しておいた牛、豚、羊、鶏等々、
家畜の肉を大量にふるまった。
食事をともにする事で、仲良くなって欲しいという、
これまたリオネルの意図である。
さすがに、疑似生命体のゴーレムは食事会には参加出来なかったが……
そんな人間流のやり方を大いに戸惑いながらも……
リオネルと戦友達は、心の絆を深めていったのである。
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