第355話「主でも戦友でもどっちでもいいから、あんたの実力を見せてくれよ」

『あんた達兄弟が命令違反や粗相をしたら、他の界王や精霊達にお父様や私まで侮られるのよ!』


『ははは~~っっ!!』


ケルベロスの弟にして、冥界の魔獣も形無し。

ティエラの貫録は、半端なものではなかった。


「恐れ入った!」という感のある魔獣オルトロスを見届けると、

ティエラは、リオネルへ向き直る。


『という事で、リオ。地の眷属ふたりを宜しく、しっかり面倒を見てね』


『了解です、ティエラ様。任せてください』


『うん! 任せる! オルトロスの実力は私が保証するわ。ケルベロス同様、リオに貢献してくれると思う』


『ですね! 期待してます!』


『宜しい! ちなみに! 召喚、帰還は兄貴と同じ手順、詠唱なし! 心で念じるだけでいいからね!』


『重ね重ね、了解です! ティエラ様、ありがとうございます。強力な援軍を頂き、本当に嬉しいです』


『うふふ♡ どういたしまして! 几帳面な兄、少しがさつな弟だけど、血を分けた兄弟だし、バランスが取れていて、息が合うと思うよ』


几帳面な兄、少しがさつな弟……


こういう微妙なコメントにどういう反応をしたら良いのか。

リオネルは無言で、柔らかく微笑むしかない。


『………………』


『あとさ! オリエンス様が授けたのと同様、私も地の上位魔法を授けてあげる! 広域攻撃魔法の『剣山破砕』と広域支援魔法の『大地の束縛』よ』


『おお! 『剣山破砕』と『大地の束縛』ですか! ありがとうございます!』


魔法の知識が豊富なリオネルが全く知識のない魔法である。

もしかしたら、地属性の失われた古代精霊魔法かもしれない。


と思ったら、ティエラが説明してくれる。


『リオ! 『剣山破砕』はね、大地から数多の剣山がせり出し敵を貫く。そして、『大地の束縛』は同じく数多の敵を一度にしばらくの間、行動不能とするわ。リオの魔力量ならば、連続して行使可能だから、対集団戦に凄く有効よ!』


『うっわ! ふたつとも凄そうですね! 早く試してみたいです!』


『うふふ♡ 相変わらず前向きね! リオならば分かっていると思うけどさ、両方とも、効果効能がとても大きいから、使う状況とタイミングを良く考えてね』


『了解です!』


リオネルの返事を聞き、


『よし!』


と満足そうに大きく頷いたティエラ。

リオネルに対しての用事は、とりあえず済んだらしい。


更に、大きく声を張り上げる。


『さあて! そろそろ行くかあ! オルトロス! しっかりリオに仕えるのよ!』


『は、はいっ!』


またも「びしっ!」と念押し。

やはりオルトロスは、主筋のティエラには、全く頭が上がらない。


『ワーム! 撤収しなさい! 次の場所へ移動よ!』


ぐっは~っっ!! きっしゃ~っっ!! しぇあ~っっ!!


ティエラの指示に応え、巨大なワーム5体は土中へ消えた。

先ほどのティエラの話通り、他の場所に現れ、

『豊作』の代名詞となるべくパフォーマンスを行うのであろう。


『じゃあね、リオ! 水界王アリトン様! 火界王パイモン様も! 近いうちに現れるでしょう! おふたりとは上手くやりなさい!』


空中に浮かぶティエラは、笑顔でVサインを突き出した。


対して、リオネルが深く一礼すると、Vサインの軽く振り、

空中で一回転し、ぱっと消えてしまったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


さてさて!

後に残されたのはリオネルと、漆黒の灰色狼に擬態した魔獣オルトロスのみである。


リオネルは改めて、筋を通す事にした。


『さあて、オルトロス、俺達も行くか。さっきもあいさつしたが、今後とも宜しくな』


『ふん! 分かってるさ!』


しかし、オルトロスはつっけんどんであった。

ティエラに何度も、リオネルに従う事を命じられたのに加え、人間があまり好きではないのかもしれない。


ここは少しフォローが必要だろう。


『オルトロス』


『何だ?』


『俺はティエラ様と違って、主筋じゃないし、人間だし、お前を配下とかにはしない。ケルベロス同様、戦友として協力してくれ』


『それも分かってるよ』


『そして兄貴のケルベロスを始め、魔獣アスプ、鳥の王ジズ、ゴーレムも仲間だ。連携プレーも多くなるからな』 


『ああ、スタンドプレーなんかやらねえよ』


『助かる。あと、人間は勿論だが、魔物も指示がない限り、やたらに殺しまくるなよ』 


『分かってるって! 人間はいちいち細かいな! もしかして四角四面な堅物兄貴に似て来たんじゃないのか!』


確かにケルベロスは、考え方や態度などが、まじめできちっとしていると思う。

思わずリオネルは笑ってしまう。


『あはは、済まない。そうかもな』


リオネルが言葉を戻すと、オルトロスはとんでもない提案を告げて来る。


『おう、リオネル様、主でも戦友でもどっちでもいいから、あんたの実力を見せてくれよ』


『実力を見せる? どうするんだ?』


まさか、オルトロスと直接やり合うとか?

それは避けたい。


と冷静に考えるリオネル。


しかし……


『なあに、簡単な事よ。このトンネルから約10km離れた原野にオークどもの巣がある。近くに人間の村があって、奴らに襲われているらしい』


『そうか!』


『ああ! そのオークの巣へ行って、俺とどちらが多く倒すか、勝負だ!』


良かった!

人助けして、勝負か!

と安堵するリオネル。


『よし! 受けて立とう。じゃあ俺が転移魔法で運ぶ。場所を指示してくれ』


と、いう事で、リオネルとケルベロスの姿は、

トンネルの中から、煙のように消え失せたのである。

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