第354話「リオを怒らせたら、あんた瞬殺されるから、マジで! 覚悟して!」

『はい、ワーム達が輪切りにされ、燃やされるイメージを見せました』


リオネルはそう言うと、呆然とするティエラへ対し、にっこりと笑った。


しばしの間、呆然としていたティエラであったが……やがて柔らかく微笑み、


『うふふふふ♡ あははははははははっっ!!』


更に含み笑いし、終いには大笑いしてしまった。


そして、いたずらっぽくも笑う。


『さすがね、リオ♡ 私のリクエストに最高の形で応えてくれたわ。そして改めて感じた。リオは学習能力が高いだけでなく、応用能力にも優れているって』


『いやいや、ティエラ様。ほめすぎですよ』


『ううん! リオは天性のセンスがあるって! 今、ワームに使った白昼夢だって、もっと強烈なイメージ……例えば、冥界の責め苦みたいにシビアに見せれば、相手にはとんでもないダメージを与えられるよお』


『ああ、そうですね。勉強になります、ありがとうございます』


可憐で愛くるしい上に、表情が豊かな方だ……母性も感じ、温かく柔らかい。

凛とした気高き美少女、クールビューティなオリエンス様とは対照的だなあ……


と思いながら、リオネルは言う。


『じゃあ、気絶したワーム達をそろそろ目覚めさせましょうか』


『うふふ♡ 宜しくう♡』


『了解です』


リオネルは、特異スキル『リブート』……再起動、レベル補正プラス40を行使する。


気絶していたワーム達は、ぴくぴくっと身体を震わせると、徐々に身体を動かし始める。


『うふふ♡ リオったら、アフターケアもばっちりね♡』


動き出したワーム達を満足そうな表情で見つめていたティエラ。

更に言う。


『直接気絶させられたワーム達は勿論だけど、この件はすぐ知れ渡るから、他の地の眷属達もリオに一目二目どころか、お父様や私に準ずるくらい、畏怖する事になるわ』


『畏怖するって……俺、そんなに怖いですかね?』


『うん! 怖いと思う』


『いや、怖いと思うって……』 


『リオはまだ本気で怒った事がないものね』


『そうですか』


『ええ、そう。本気で怒った時は相当怖いと思うよ』


『あはは、じゃあ怒り過ぎて暴走しないよう気を付けますよ』


『うふふ♡ 大丈夫よ、リオならね』


ティエラは満足そうに言い、頷くと、


『私の期待に、いえ、期待以上に見事応えたリオにご褒美をあげる♡』


『ご褒美……ですか?』


『ええ! オリエンス様に負けてはいられないからね!』


『ええっと……』


そんなに張り合わなくともと思ったリオネルであったが、

余計な事は言わぬ方が良いと感じた。


「オリエンス様に負けてはいられない」と言い放ったティエラは、

いかにも嬉しそうに笑っていたからだ。


『私からもリオへ、新たな従士を授けるわ。地の眷属の精鋭たる者をね!』


ティエラはきっぱり言い放つと、すっと右手を挙げた。


すると!

目の前の空間が不可思議に割れて行く……


『地の最上級精霊ティエラの名において命ずる! 出でよ! 双頭の魔獣オルトロスよ!』


ぐっはああああああああ!!!


ティエラにいざなわれ、重低音の咆哮とともに現れたのは……

体長10mをゆうに超えた漆黒の巨体にふたつの首を持ち、

たてがみの全てと尾が蛇という、たくましい魔獣オルトロスである。


オルトロスは実力、見た目とも怖ろしい魔獣であるが、

従士ケルベロスの本体を見た事のあるリオネルは、何とか臆さずに済んだ。


ティエラはリオネルを指し示し、声を張り上げる。


『地の眷属たるオルトロスよ! 彼がお前の新たな主人、リオネル・ロートレックよ。兄ともども忠実に! 心して仕えなさい!』


そう!

魔獣オルトロスは、リオネルの従士ケルこと魔獣ケルベロスの弟なのである。


ぐっはああああああああ!!!


あるじティエラの命令を聞き、『御意!』とばかりに、オルトロスは咆哮したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 


リオネルに仕える事を受け入れたオルトロスを見て、

ティエラは満足そうに微笑む。


そしてピン!

と、鋭く指を鳴らせば、

オルトロスはケルベロス同様、みるみるうちに灰色狼へ擬態した姿となった。

ちなみに大きさはケルベロス同様、体長2m体高1mほど。


但し、ケルベロスがグレーと黒が混在した毛並みなのに対し、

本体同様、漆黒の毛並みである。


オルトロスは、早速、念話で話しかけて来る。

リオネルを値踏みするような目つきである。


『おう! あんたが、リオネル・ロートレック様かい。ティエラ様のご命令だから、仕方なく従うぜ。今後とも宜しくな』


『ああ、こちらこそ、宜しく』


教師然とし、礼儀正しいケルベロスと比べ、

言葉遣い、態度など、こちらは少し『やんちゃ系』らしい。


そんなリオネルの気持ちを見抜いてか、オルトロスは、言い放つ。


『おい、リオネル様よ! 兄貴には絶対に負けないからな! えこひいきはしないでくれ!』


『分かった』


ここで口をはさんだのがティエラである。

腕組みをし、キッと鋭い視線でオルトロスをにらむ。


『こら、オルトロス! あんた生意気! 態度最悪! 私がさっき、忠実に! 心して仕えなさい! と言ったのを忘れたの?』


びしびしと叱責するティエラ。

オルトロスは、鼻を鳴らし、平身低頭状態となる。


『は、ははっ!』


『ワーム達は手加減して貰ったけど、リオを怒らせたら、あんた瞬殺されるから、マジで! 覚悟して!』


『はいいっ!!』


『あんた達兄弟が命令違反や粗相をしたら、他の界王や精霊達にお父様や私まで侮られるのよ!』


『ははは~~っっ!!』


ケルベロスの弟にして、冥界の魔獣も形無し。

ティエラの貫録は、半端なものではなかったのである。

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