第350話「上手く行かなければ、いつものやり方に戻すさ」

不慮の事故で亡くなり、とある村の片隅にあった、

小さな墓地に眠っていた上級魔法使いロラン。


リオネルは……死霊と化したロランと夢の中で邂逅。


亡きロランから、禁断の夢魔法、時間と距離を超越したいという遺志、

家宝のペンタグラム……その3つを託された後も、

遥かなる迷宮都市フォルミーカ目指し、リオネルは旅を続ける。


道中のペースは全く変わらない。


単なる移動とはならずに常に『修行』だ。

身体能力アップの為、徒歩、高速での駆け足を基本にし、

熟練度、能力値、制御度アップの為、転移、飛翔の魔法を織り交ぜ、進んでゆく。


そして急がず、じっくり、修行とともに、旅自体を楽しむ。

美しい自然、町や村などの風景、初めて出会う人々、未知の食べ物等々、

全く新しいモノに出会うと、凄く新鮮である。


そんな中、とある日。

街道を進んで行くと、何か様子がおかしい。


この先は、山を貫くトンネルが通っている。


そのトンネルの前に人だかりが出来ているのだ。

騎士、兵士の姿も認められる。


何だろう?


と思い、リオネルが近づくと、騎士と兵士が『通せんぼ』をする形で、行く手をふさいでいる。


リーダーらしき騎士が声を張り上げる。


「ここは、しばらく通行止めだ! 非常に危険だから中も立ち入り禁止! 脇道を行ってくれ!」


通行止め? 中も立ち入り禁止? 脇道を行ってくれ?

一体、何があったのだろうか?


首を傾げるリオネル。


対して、人だかり――旅人達は、ぶうぶう不満を言い立てる。


「脇道? 冗談じゃない!」

「えらく遠回りになっちまう!」

「納期が遅れる!」

「約束の時間に間に合わない!」


リオネルは足止めを喰らっているひとり、商人らしき男へ、

気持ちをいらつかせないよう注意し、尋ねる。


「あの、申し訳ありません。俺、事情を知らないのですが、一体何があったのですか?」


丁寧な物言いのリオネルではあるが、商人はひどく苛立っている。


「はあ! どうもこうもない! 魔物が出たんだ!」


「魔物ですか? どのような魔物が?」


「ワームだよ! 巨大なワームが何体も出たんだ! 幸い犠牲者は出ていないが、な!」


「おお! ワームですか!」


「ああ、討伐命令が出て、大急ぎで騎士隊と王国軍の増援が向かっているそうだ」


補足しよう。

ワームとは、元々は大蛇を表す言葉である。

10m~20mにもなる巨大な体躯を誇る、細長い蛇の様なドラゴンの一種だ。

全身が粘液に包まれており、足も翼もなく、毒の息を吐く。


「ちっきしょ~! 早く討伐して、トンネルを通行出来るようにして欲しいぜ!」


舌打ちをし、商人は去って行った……

どうやら脇道を行くらしい。


一方のリオネル。

さて、どうしたものかと……しばし考えた。

しかし、すぐに結論は出た。


ワームを討伐する。

そう決めた。


ひと目を避け、雑木林へ入ったリオネルは、まず索敵……魔力感知を最大限にした。

そして、転移魔法を発動。


トンネル内へ「突入した」のである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リオネルが転移したのは入り口から、20mほど入った場所。


事前に索敵で確認していたが、転移した先のトンネル内に、敵……

ワームどもの気配はない。


出会い頭、いきなり襲われるのを防ぐ為だ。

ただ、襲われても今のリオネルに魔法、スキル、武技等々、

防ぎ、反撃する手立てはいくつもある。


リオネルは改めて周囲を見回す。


騎士、兵士の姿もない。

こちらも索敵で確認済み。


巨大なワームは強敵である。

騎士、兵士はおそらく応援を待ってから、討伐を行うらしい。


その方がリオネルには好都合だ。

秘密裏に、さっさと倒してしまえば良い。


さてさて!

照明用の魔導灯が消えずに、淡く照らしていた。

これくらいの光源があれば、肉眼で視認可能だし、

この先多少暗くとも、習得した猫の夜目が使える。


同じく習得した探索用の照明魔法『魔導光球』を行使しなくても大丈夫。

一旦そう決めたが、リオネルは思い直した。


以前から考え、訓練していた『ある事』を遂に実行しようと思いついたからだ。


リオネルは、魔導光球を呼び出す。


『ルークス!』


ぽわ!


リオネルが照明魔法の言霊ことだまを念じると、

『魔導光球』が、浮かび上がった。


よし、行け! 『魔導光球』


俺の目となり耳となり『斥候役』としてトンネル内の様子を探って来い。


そして『囮』『餌』としての役目も果たせ。


魔導光球は魔力の塊。

餌となる生命体同様に、ワームが何らかの反応をすると、リオネルは考えたのである。


いつもならケルベロスを召喚し、アスプを呼び、斥候役を命じるが、

後々を考え、今日は違う方法を使う事に決めたのだ。


上手く行かなければ、いつものやり方に戻すさ。


トライアルアンドエラーで行けば良い!


さあ! 行こう!


気合を入れ直しながらも……

リオネルは、気配を消し、静かに歩き出したのである。

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