第345話「ついにざまあ! パートⅢ!実家は没落への道を歩み出した……」

冒険者の街ワレバットを旅立ったリオネルが、高貴なる4界王のひとり、

空気界王オリエンスの加護を授かり、魔法使いとして大いに成長。


国境を越え、約300km離れた遥かなる隣国、

アクィラ王国の迷宮都市フォルミーカを目指す旅を再開した頃………


所変わって……ここは、ソヴァール王国王都オルドルのディドロ家。


長男ケヴィン25歳と次男セルジュ22歳は、激しい言い争いをしていた。


「セルジュ! お前は本当に愚かで馬鹿な奴だ!」


「愚かで馬鹿な奴!? 冗談じゃありません! ケヴィン兄上にそんな事を言われたくないですよ!」


「そんな事だと? セルジュ! お前が酒場の変な女にこなをかけ、深い仲になったせいで! その女の兄だと称するやくざ者が、職場にまで押しかけ、大騒ぎして脅迫したのだぞ!」


「そ、そんなの! け、警備員が1階ロビーで取り押さえたから! も、問題ないじゃないですか!」


「問題ある! やくざ者は衛兵隊に連行される際、セルジュ、お前の名を連呼し、『可愛い妹を暴行され傷物にされた! セルジュ・ディドロの野郎は人でなしだ!』と叫んでいたそうだ!」


「そんなの事実じゃないです! あの女に兄など居ないんです!」


「事実かどうかは問題じゃない! 魔法省中で大変な噂になってるんだ! 同じ魔法省に勤める私は、後ろ指をさされ、本当に大迷惑だ!」


「し、仕方がないじゃないですか! くそオレリアが! この俺を振りやがった! あのバカ女のせいです! そしてあの超が付く屑野郎! リオネルが絡んでいやがったんですよ!」


セルジュは吐き捨てるように言い放った。※第74話参照

そして更に言う。


「ケヴィン兄上! 俺は! 心に受けた失恋の傷を治す為! 癒しを求めただけだ! 超エリートの俺は酒場の下衆女をポイ捨てするくらい許されるだろ! それに兄上だって! 見合いした伯爵令嬢と婚約中なのに! いろいろな女と遊んでいるじゃないか!」


口調を変え、叫ぶセルジュだが、ケヴィンはふっと鼻で笑う。


「セルジュ、本当に愚か者だよ、お前は……要領が悪すぎる。私の弟ならば、もっと上手く世の中を渡って行け」


「くうう……」


「セルジュ、お前には今回の騒ぎで、省から懲戒処分がくだったな! 戒告、減給、3か月の停職だ。……馬鹿が!」


しかし!

ケヴィン、セルジュはどちらも外道。

目糞鼻糞を笑うという。


がんがんがん!

とふたりが居る部屋が激しくノックされたのである。


何の騒ぎか!?

と訝しがるケヴィンとセルジュが扉を開ければ、青くなったディドロ家の家令が、

衛兵隊数人とともに立っていた。


その衛兵のひとりが、


「ケヴィン・ディドロだな! 収賄罪の容疑で令状が出ている! お前を逮捕する!」


逮捕令状を突きつけ、厳しい声で言い放ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ば、馬鹿なあ! 何かの間違いだああ!!」


「こら! シャキッと歩け!」


ケヴィンは収賄罪の容疑により、衛兵隊に逮捕され、そのまま連行されてしまった。


言い争っていた兄が、いきなり逮捕されるという、

残された弟にとっては、大いにショッキングな出来事である。


呆然とするセルジュ……


不安な時間が過ぎて行くが……父ジスランは、中々帰宅しなかった。


やがて夜になり、ようやくジスランが帰宅した。


「本当に待ちかねた!」とばかりに、あいさつもそぞろに、

セルジュは父へ問いただす。


「お疲れ様です、父上! どうして!? 今まで何をしていらっしゃったのですか?」


対して、ジスランは苦々しい顔をするばかりである。


「ケヴィンは、悪徳商人と結託した収賄罪で逮捕された。魔法省内に共犯者も居て、証拠も揃っているらしい。裁判になるだろうが、有罪は免れないだろう」


「兄上が、……有罪は免れない……」


「婚約先の伯爵家からも、すぐに破棄が申し入れられた」


「え? 婚約破棄!?」


「当然だろう! 相手にはこちらから慰謝料も払わねばならん!」


「慰謝料……」


「ケヴィンはさすがに死罪にはならず、あいつの人生は続く。だが、役人としてはもう終わりだ! 確実に懲戒免職処分となる。その上で懲役刑で入牢となるだろう!」


「役人としては……もう終わり……懲戒免職処分……懲役刑で入牢……」


「うむ! 私は今までず~っと、宰相フェリクス閣下と今後の事について話していたのだ」


「陛下の弟君である宰相フェリクス閣下と……」


「うむ! 閣下はな、ケヴィンの父である俺が、自分には全く関係ないという顔で、宮廷魔法使いを務めるのは宜しくない、連座制というわけではないが、しばし謹慎してくれとおっしゃられた」


「き、謹慎!?」


「うむ! 謹慎したまま、宮廷魔法使いを解任される可能性も十分ある!」 


「そ、そんな! ケヴィン兄上は確かに家族です! ですが、家族が犯した罪を父上までがかぶるのはおかしくないですか!」


「セルジュ、それは正論かもしれぬ。しかし世の中とは理屈だけではない」


「で、ですが!」


ここでジスランは、セルジュを一喝。


「ばっかも~ん!!!」


「え!? えええ!!?? ち、父上!!??」


怒鳴られ、驚き戸惑うセルジュ。


「人の事を心配する余裕など、セルジュ!! お前にあるのかあ!!」


「う、うぐ!」


「お前がやらかした不始末について、兄ケヴィンの収賄罪とともに、フェリクス閣下からは厳しい叱責がされたのだぞ! お前達ふたりは、王国と父たる俺の顔に泥を塗りおったのだ! しかと反省せい!!!」


「ひいいいい!! ごめんなさ~い!!」


こうして……長兄ケヴィンは収賄により懲戒免職され投獄、

次兄セルジュは公序良俗に反する行為の疑いで、戒告、減給、3か月の停職、

そして父ジスランは解任の可能性もある謹慎……


末弟リオネルを追放したディドロ家は、天罰てきめん!!

「ざまああああ!!!」とばかりに『没落への道』を歩み出した。


しかし、愚かな3人の肉親達は、

追放した大器リオネルを呼び戻し、「ディドロ家を支えて貰おう」という考えには、

到底及ばなかったのである。

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