第344話「リオネル君のおかげだよお!」
『めでたい!
高貴なる4界王のひとり、空気界王オリエンスはひどく上機嫌である。
リオネルを『風のみの使徒』とする事は叶わなかったが……
加護を与えた事で、風属性の魔法は発動が円滑となり、効能効果が著しく上がり、
使用頻度も増す。
実際、リオネルは元が風属性の事もあり、今までに風の魔法を最も使っている。
この物語を読み、リオネルの行動を見守って来た皆様には、思い当たる部分があるだろう。
リオネル自身が告げた適材適所の言葉通り、風の魔法は痕跡を残さず、使用しても、他の属性魔法に比べ、周囲への影響が最小限で済むからだ。
例えば火炎による街中や森林で延焼、大量の水による水害、散乱した岩石が邪魔になったりする物理的な被害が、大気を操る風にはない。
風の一族の長たるオリエンスは、当然そういうメリットを熟知している。
また眷属たる『鳥の王』ジズを忠実な従士として送り込む事で、
地属性の魔獣ケルベロスに対抗。
リオネルとの関係がより強固なものとなり、状況も常に把握出来る。
それゆえ、オリエンスは敢えて『名』を追う事をやめ、
『実』を取った。
一方のリオネルも、自身のスタンスは貫きながらも、
今後の事も考え、『落としどころ』を決めたのである。
『見よ! リオネル!』
オリエンスの声にハッとするリオネル。
いきなり!
周囲に、とんでもない数の魔力個体が現れたのだ。
『我が眷属シルフ達を呼んだ! 祝いの空中舞いを執り行う。習得した飛翔魔法で、お前も、ともに舞うが良い!』
オリエンスの言う通りであった。
幽玄な風の谷の空には、リーアと風貌がほぼ同じ、数多の可憐なシルフが満ちていたのだ。
習得したての飛翔魔法で、オリエンス以下、リーアも含めた数多のシルフ達と舞い遊ぶ。
魔法使いなら、夢に見るような光景であり、体験である。
リオネルの返事は当然『はい!』であった。
ここでリーアも、
『ほら、一緒に行くよ、リオネル君! オリエンス様に粗相のないよう、私がフォローしてあげるから』
と優しく促してくれ……
『さあ! リオネル! 私が導こう! リーアとともに、ついて来るが良い!』
というオリエンス、リーアの後につき、水平飛行! 空中停止!
急速発進! 急停止! 急上昇! 急降下!
垂直急上昇! 垂直急降下!
空中1回転! 複数回転! バック回転! バック複数回転! きりもみ回転!
じぐざぐ飛行!等々!!
長い間、舞い飛び、遊んだのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
風の谷で、舞い飛び、遊んだ後……
リオネルは、オリエンスから『解放』された。
別れ際、上機嫌のオリエンスは、
『飛翔魔法は、迷宮、洞窟、遺跡など閉ざされた空間でも行使可能だ。お前を包んだ聖なる風が、持ち上げ飛ばしてくれる! 水中でさえ、泳ぐ際の推進力となるぞ!』
と教えてくれ、更に!
風の上位攻撃魔法『竜巻』『大嵐』を授けてくれた。
また『聖なる風』を、自身のみでなく、他者への防御治癒の魔法として使うようにと勧めてくれた。
そして心で念じれば、
風の精霊の境地たる『風の谷』へ、いつでも出入り出来る権利を与えられたのだ。
最後にオリエンスは、以前ティエラが告げたのと同様に、
『私以外、他の高貴なる4界王も、いずれお前の前に現れるであろう』
と、いたずらっぽく笑った。
そして手を大きく打ち振り、
『さらばだ! リオネル! また会おう!』
と別れを惜しんだ。
対してリオネルも、
『いろいろありがとうございました! またお会い出来るのを楽しみにしております!』
大きな声ではきはきと礼を言い、深く頭を下げた。
その瞬間!
リオネルの周囲の空間が歪み、足元の感覚がおかしくなる。
これは……街道から、境地『風の谷』へ踏み込んだ時と同じ感覚である。
気が付けば、リオネルは街道に立っていたのだ。
思わず声が出る。
「夢……じゃないよな?」
するとすかさず、リオネルの心に声が響く。
心と心の会話……念話である。
『もお! リオネル君! 何! 言ってるの、夢のわけ、ないでしょ!』
リオネルの目の前、5mほど斜め上空に!
外見は人間の姿をした、ひとりの少女が浮かんでいた。
ぱっと見で、年齢は16歳前後くらい、
凛とした顔立ちをした、美しい少女。
背格好は、身長150cmで、透き通るという表現がぴったりなほど肌が白い。
手足が細く、華奢な身体。
その身体を、これまた透き通るような美しい純白の衣服で包んでいる。
そして頬をふくらませ、腕組みをする少女の背には、
透明な2枚の羽根が生えていた。
リオネルを
苦笑するリオネル。
『あはは、ですよね、リーア様』
『そうよ! たとえ冗談でも! 夢なんて言ったら、ぷんぷんなんだからあ!』
リーアは、そう言いながら、柔らかく微笑んでいる。
『ありがと! リオネル君! 私達、風の長オリエンス様があんなに笑って、上機嫌なのは見た事がなかったよお!』
『え? そうなんですか?』
尋ねながら、リオネルも同じ事を考えていた。
たった今、邂逅したオリエンスの性格は、
「奔放、勝手
という伝承とは、あまりにも違うからだ。
『うん! そう! リオネル君のおかげだよお!』
『ええっと……お陰だとか言われても』
『うふふ♡ まあ、良いじゃない! 風の事で何かあったら、心の中で、私リーアを呼んでよね! すぐ相談に乗ってあげる! じゃあね! また!』
リーアは、ぶんぶん!手を打ち振り、空中で一回転し、ぱっと消えてしまった。
それを見たリオネルは、少し苦笑しつつ、リーアが消えた辺りへ向かい、一礼した。
一礼後、愛用の魔導懐中時計を取り出して見る。
まだ時間は午前10時前……だいぶ時間が経った気がしたが、違っていた。
異界である『風の谷』は時間の進行速度が現世とは違うのだろう。
微笑んだリオネルは、改めて歩き出し、旅を再開したのである。
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