第343話「私も同じ思いだ!」

「感謝はしています」と前置きした上で、


『オリエンス様のご厚意と引き換えに、己の信念を簡単に曲げたり、尽くしてくれた仲間を見捨てるなど、自分には絶対に出来ません!』


高貴なる空気界王オリエンスをまっすぐに見据え、リオネルはきっぱりと言い放っていた。


対して、オリエンスも美しい眉間にしわを寄せ、厳しい視線を投げかけ、

リオネルを、きっとにらむ。


バチバチバチバチバチバチ! バチバチバチバチバチバチ!


リオネルとオリエンスの視線が真っ向からぶつかる。

両者、互いに一歩も退かない。


そんなにらみ合いが、数分間も続いたであろうか、

意外にも、先にほこを収めたのは、オリエンスであった。


彼女は先ほど同様、いきなり大きな声で笑いだしたのである。


『あははははははっ!!』


どうなる事かと思い、戦々恐々として見守っていたシルフのリーアは、

またも戸惑い怖ろしくなる。


主の真意が、まるでつかめないのだ。


『オ、オリエンス様っ!!』


しかしオリエンスは、思い悩むリーアを華麗にスルー。


「にやっ」と笑い言う。


『何だ、リオネル! お前はやはり、この高貴なる空気界王オリエンスに対し、退かぬ、媚びぬ、省みぬ、ではないのか!』


対してリオネルも微笑み、


『全く違います。オリエンス様に対し、退かぬ、媚びぬ、省みぬではありません』


と言葉を戻した。


するとオリエンスはいたずらっぽく笑う。


『ははは! 分かっておる! あの小娘からしかと聞いておるわ!』


『……ティエラ様から? でしょうか?』


オリエンスの物言いを聞き、リオネルはピンと来た。


もしも!

ティエラと話が通じているならば、「自分は試されていた」のかもしれないと。


つらつらと考えるリオネルへ、オリエンスは更に言う。


『うむ! あの小娘ティエラの言う通り、お前はけしてぶれない奴だとな、改めて思ったぞ』


『……俺が、ぶれないのですか?』


『うむ! 全くぶれん! お前はティエラへこう言ったはずだ』


『…………………』


全属性魔法使用者オールラウンダーとして、あらゆる魔法の全てを極めたいと思っています! 目指す夢は、大きく持ちたい……とな』


『……はい、確かにそう申し上げました。良くご存知ですね』


『ふむ! そしてお前は地の加護を進んで授かったわけではない。一旦は断っておる』


『……はい、ティエラ様から、いろいろお聞きした上で、加護はご遠慮したいと申し上げました』


『あはははは! リオネル! お前は術者の傾向、精霊の本質は重々理解、承知した上で、全ての魔法を極めたい、青臭い理想かもしれないが、あくまでも夢を追い求めたいと申した』


『はい、それも確かに申し上げました』


『うむ! 目先の欲に惑わされず、とらわれず、そんなお前の心意気にあの小娘は惚れたのだ』


『いや、惚れたって……』


戸惑うリオネルを華麗にスルー。


オリエンスはきっぱりと言い放つ。


『私も同じ思いだ! お前が気に入った! 犬よりも遥かに格上たる、鳥の王ジズが従士になるという目先の欲に惑わされず、とらわれず……』


『…………………』


『……リオネル、お前はあの犬をけして見捨てなかったからな!』


『…………………』


『お前に大事にされ、仲間と言われ、犬は大層な幸せ者だ!』


『…………………』


『リオネル、お前ならば、犬同様、我が眷属ジズも仲間として、とても大事にしてくれるだろう、安心して託せる!』


オリエンスはそう言うと、柔らかく微笑み、

どぎまぎしていたリーアは、ようやく安堵したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


いろいろなやりとりの末、

空気界王オリエンスの眷属、鳥の王ジズは、リオネルの従士となる事が決定した。


しかし、ジズはとんでもなく大きい。

風の谷、上空を覆い隠すくらいの巨体だ。


誰もが腰を抜かすくらい驚いてしまうだろう。


そんなリオネルの懸念を見抜いたらしく、

オリエンスはまたも笑う。


『あははははははは♡ リオネルよ、安心せい!』


『安心ですか?』


『うむ! あの犬ケルベロス同様、ジズは身体の大きさを自在に変えられる。命じれば、様々な擬態も可能だ』


『え? そうなんですか?』


『うむ! ジズ、お前の新たなあるじ、リオネル・ロートレックへ、千変万化たる姿を見せてやれい!』


きええええええええええええええ!!!!!


オリエンスの命令に応え、ジズは鋭い声で鳴くと、身体をぶるぶると震わせた。


すると、何と!


大空を覆うジズの身体があっという間に小さくなって行く。


そして!

体長20mほどの大きさになってしまった。


これでも大きいなあ……というリオネルの思いを知ってか知らずか。

オリエンスは更に命じる。


『ふむ、ジズよ。もっと小さくなり、姿も変えてみせい! お前が使える奴だと証明してみせよ!』


オリエンスは更に命じた。


きええええええええええええええ!!!!!


再び咆哮したジズは、またも身体をぶるぶると震わせた。


すると、何と何と!!


ジズは、体長1mくらいの鷹となり、リオネルの傍へ降りて来た。

そのまま肩に止まった。


『ふむ! どうやら! ジズも、リオネルを気に入ったようだ! 命令に対し、従士として忠実に従うだろう!』


オリエンスは満足そうに言うと、ピン!と指を鳴らした。


瞬間!


リオネルの肩へ止まっていたジズが煙のように消え去った。


『これでよし! 犬同様、ジズも普段は異界で待機させる。リオネルよ! 必要となったら、召喚サモンの言霊で呼び出すが良いぞ!』


オリエンスはそう言うと、雲ひとつない快晴の如く、晴れやかに笑ったのである。

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