第346話「不思議な夢①」
高貴なる4界王のひとり、空気界王オリエンスと邂逅後もリオネルは旅を続ける。
フォルミーカまでの道中も、単なる移動とはならずに『修行』となる。
今やリオネルの移動手段は数多あり、徒歩、駆け足だけでなく、
転移、飛翔の魔法など様々からだ。
まだまだおおっぴらに出来ないもの、秘する転移、飛翔の魔法は、
肉眼による視認、索敵……魔力感知で、
周囲に、ギャラリーが居ないのを確かめた上で慎重に発動、行使するのは言うまでもない。
徒歩、高速での駆け足、転移、飛翔……
そんな感じで気ままに旅していたら、日が暮れる少し前……
リオネルは、とある村に立ち寄った。
幸い村には、小さな宿屋があり、宿泊する事が出来た。
これで……野宿しないで済みそうだ。
観光名所などない、ひなびた村であったが、
安堵したリオネルは就寝まで、ほんの好奇心から探索してみる事にする。
この村は、ソヴァール王国建時から存在する歴史のある村らしい。
建物には渋い趣きがある。
何でも扱うよろず屋を始め、個人商店がいくつかあり……
リオネルが、各店を冷やかしながら歩いていると、
通りを抜け、相当
これで行き止まりか……
リオネルが墓地内へ入り、改めて様子を見やれば、
どの墓標にも名が刻まれていなかった。
……どうやら無縁か無名墓地のようだ。
周囲を見回したが、墓守りも居ないようで、墓標は汚れ切っていた。
供えられている花も無し。
それどころか、雑草が伸び放題で荒れ果てている。
この様子では、死者を弔う為、お参りに来る者は皆無なのだろう……
墓地を眺めていて、葬られた者達が見捨てられたように感じて、
リオネルは哀れになり悲しくなった。
死せば人間の魂は天へ還ると、この世界の宗教・創世神教会の教えにはある。
墓場に眠っている
しかし、リオネルは死して打ち捨てられた者達の無念さを感じ、
少しでも供養してやりたくなった。
急ぎ商店のある通りへ戻ると、よろず屋で新品の綺麗なタオルを数枚、
大きなバケツを買い、更に大きな花束をいくつか買った。
まとまると結構な荷物量であったが、
途中にある井戸で、バケツにも水を満たし頑張って墓地内へ運び込む。
リオネルは早速、掃除に取りかかった。
「ぼうぼう」に伸びた雑草がとても厄介であったが……
愛用のスクラマサクスが鎌代わりとなり、何とか上手く刈る事が出来た。
2時間後……ようやく掃除は終了した。
雑草は完全に刈られ、墓標はタオルでピカピカに磨きあげられた。
仕上げに、リオネルは各墓標に一輪ずつ、購入した花を供えて行く。
そしてそれぞれに頭を下げ、黙とうした。
満足したリオネルは墓地を出た。
振り返ると、最初に見た時とは見違えるくらい、墓地は綺麗になっていた。
供えられた色とりどりの花が、寂しさをだいぶ
どうか……
安らかに……眠ってください。
そう念じて後にした。
リオネルは宿へ戻り、身体を拭いてさっぱりすると、
そのままベッドに潜り込んで眠ってしまったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……ここは、どこだろうか?
宿屋で寝ていたはずなのに……気が付けば、いつの間にか、
リオネルは見た事もない場所に居た。
周囲を見渡せば、緑深い広大な森の中であった。
ぐるりと見渡したが、人の気配はなかった。
美しい森である。
空気が清々しい。
身体が軽く、気持ちが良い。
これは夢に違いないと、リオネルは思った。
しかし何故か、不思議な世界であり、リアルなのだが、曖昧な感覚も伴う。
はっきりと言い切れる。
ここはソヴァール王国ではない。
住んでいた王都オルドルでもない。
しばらく暮らしたワレバットでもなく、今まで行った町村、
本日、たどりついた村でもなかった。
一体どこで、何故自分はここに居るのか、皆目見当もつかなかった。
ただ何となく……ここは現世ではなく『異界』ではないのかと感じた。
風景こそ全く違うが……
シルフのリーアに
『風の谷』に近しい雰囲気があったからだ。
その瞬間。
『リオネル・ロートレック君』
耳が拾う肉声ではない。
リオネルの心の中で不思議な声が響いた。
これは内なる声ではない……他者からの念話である。
ただ聞こえたのは……全く聞き覚えの無い声である。
だが声の主は、何故かリオネルの名を知っていた。
一体、どこの誰であろうか?
『こっちだよ、こっち、君の後ろに居る』
リオネルが振り向けば……誰も居なかったはずの場所に、
古風なデザインの濃いグリーンの
長身痩躯の男がひとり立っていた。
男の顔は……法衣に付いた
「あ、貴方は?」
リオネルが尋ねると、男は名乗る。
相変わらず心に響く念話で。
声の調子からすれば少年とはいえないが、
けして年寄りではなく、比較的まだ若い男らしい。
『初めまして。僕はロランという者だ。かつての仕事は君と同じ、元は冒険者だった』
『初めまして。ロランさん、確かに俺はリオネル・ロートレックですが……俺と同じ……元は冒険者ですか』
念話に切り替え、まず名乗り、
そしてロランの告げた内容を繰り返したリオネルであったが、
浮かんだ疑問は全く解けていない。
まず、今居る場所がどこなのか?
目の前のロランは何者なのか?
そして見ず知らず、初対面のロランが、何故自分の名前を知っているのか?
リオネルが不思議に感じた瞬間。
ロランは意外な行動に出た。
何と!
ロランはリオネルへに向かって、深々と頭を下げたのである。
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