第340話「リオネルは噂通り、好奇心旺盛なのだな」

『はい! その為には元の属性である風、加護を受けた地にこだわらず、属性を問わず、適材適所で行使しよう! そう決めました!』


リオネルはきっぱり言い切ると、空気界王オリエンスへ向かい、

再びうやうやしく一礼した。


対して、気になるオリエンスの反応はといえば……


『あははははははっ!』


とまたも大笑いをした。


『………………』


オリエンスの眷属、シルフのリーアはといえば、今度は無言を貫いていた。

触らぬ神……否、精霊に祟りなしである。


幸いオリエンスは機嫌がとても良いらしい。

激怒し、天地を揺るがす大嵐を呼ぶなどという事はなかった。


『うむっ! リオネル・ロートレックよ! お前の元の属性である風、加護を受けた地にこだわらず、属性を問わず、適材適所で行使する! そう決めたか!』


『はいっ!』


『ふむ、加護を受けても……あの小娘の言いなりではないようだ』


小娘とは、地界王アマイモンの愛娘、地の最上級精霊ティエラの事に違いない。


オリエンスの機嫌が良い原因が判明した……気がする。

地の加護を与えたティエラだけへ肩入れしないと、リオネルが言明したからだろう。


しかし、余計なコメントはしない方が無難。

沈黙は……『金』である。


『…………………』


心の内なる声に従い、リオネルが無言でいると、オリエンスが頷き、

大きく声を張り上げる。


『相分かった! リオネル・ロートレックよ! 全ての自然を敬愛する、お前の考え方を認めてやろう!』


『ありがとうございます! オリエンス様!』


リオネルが礼を言えば、オリエンスはふっと、いたずらっぽく笑う。


『但し! 私は競う事をやめぬ。風、地、水、火、4大属性の中において、我が風の一族が最も優れていると世界へ知らしめる』


『…………………』


『うむ! 私も負けておれぬぞ! あの小娘同様、まずは、お前へ風の加護を授けよう』


『ありがとうございます!』


リオネルが一礼すると、ティエラが加護をくれた時同様、心身に力がみなぎった。

どうやら……風の加護を得たようだ。


『リオネルよ。今後、お前が風の各魔法を行使する際、円滑にかつ、効能効果も著しく上がるぞ』


オリエンスの言う通り、この加護があれば、習得した風の攻防魔法は更に使えるようになる。


新たな風の魔法の習得もずっと上手く行く。

そんな確信がある。


『ありがとうございます! とても嬉しいです!』


リオネルが、礼を言えば、オリエンスは更に言う。


『まだ終わりではないぞ! お前が行使する転移魔法を遥かに超える、風の魔法を授けよう』 


『え? 転移魔法を遥かに超える……風の魔法ですか?』


『ふむ、地の一族が支配する地脈をこそこそ移動する転移魔法のように、みみっちいものではない!』


やはりオリエンスは、ティエラを意識している。

だが、余計な事を言うべきではない。

再び、沈黙は……金である。


『…………………』

 

『我が風の一族が支配する大空を、大気の中を! 自由自在に飛ぶ飛翔魔法だ!』


さすがにリオネルは驚いた!


転移魔法同様に、飛翔魔法は現世では失われし、魔法だ。


神代の頃、原初の人間達が天の使徒や精霊から、学び、習得し、

行使していたが……長い時間を経て、消え、完全に失われてしまったのだ。


『リオネル・ロートレックよ! お前は既に滑空の技を学び、我が風に身を任せ、大空を飛んでいる!』


『はい! 飛びました!』


オリエンスの指摘通り、リオネルはチートスキル『見よう見まね』により、

ムササビの技を習得し、滑空の技を使う事が出来る。


『我が風の加護により、お前の身体を縛るものは何もない。滑空とは違い、地を駆ける助走や高所からの落下はなしで、この大空を自在に飛び、舞う事が出来るだろう』


オリエンスはそう言うと、にっこりと笑ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


飛翔魔法の発動は、風の加護を授けられたリオネルにとって、

そう困難なものではないようだ。


オリエンスが、魔法発動の手ほどきをしてくれる。


『リオネルよ』


『はい』


『発動の言霊ことだまは、飛翔フライトのみだ! 詠唱せず、ただ心で念じるだけで、お前はこの地から解き放たれる』


『はい』


『飛翔中は、滑空の際とほぼ同じだ。我が風に身を任せて一体化し、行き先を心で念じるだけで良い!』


滑空の技を行使した経験も飛翔する際に役立つようだ。


そして敢えて言わないが、転移魔法の経験も役立ちそうである。

行き先を心で念じるのは、まさに転移魔法の極意であるからだ。


リオネルの好奇心が大きく大きく湧きあがる。


『……了解です。早速試してみて構いませんか?』


『ふふふ、リオネルは噂通り、好奇心旺盛なのだな。心がうずうずしておるのか? すぐにでも飛びたいのであろう』


『はい!』


『うむ、良い返事だ。見事に飛ぶ事が出来たのなら、更にほうびをやろう。さあ! リオネルよ! 飛翔魔法を発動するが良い!』


見事に飛ぶ事が出来たのなら、更にほうび?

オリエンスがくれるほうびとは、一体何だろう?


つらつらと考えながら……


いつもの通り、リオネルは体内魔力を上げて行く。

精神を統一しながら、バランスの良い状態を心がける。


そろそろ頃合いだ。


飛翔フライト!』


敢えて詠唱せず、飛翔の言霊を心で念じるだけ。


瞬間!!


ぶわわわわわわわわっ!!


リオネルの身体は巻き上がる一陣の風とともに勢いよく浮かび、

真っ青な大空へ向かって放たれていたのである。

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