第341話「主も配下も、やはり他の属性に対するライバル心は相当らしい」

飛翔フライト!』


敢えて詠唱せず、飛翔の言霊を心で念じるだけ。


瞬間!!


ぶわわわわわわわわっ!!


リオネルの身体は巻き上がる一陣の風とともに勢いよく浮かび、

真っ青な大空へ向かって放たれていた。


「おおおおお!!!」


思わず肉声で感嘆の声を発したが、空中に飛ばされても、

リオネルは全く慌てなかった。


空気界王オリエンスの事前説明があったのに加え、

チートスキル『見よう見まね』による、

ムササビの能力習得を活かした『滑空』のスキルで空中を飛び慣れていた為だ。


しかし、飛翔魔法の効果は桁違い。

普段リオネルが滑空で飛ぶよりも遥かに高い空へ、リオネルを一瞬で運んでいた。


今、リオネルの身体は異界『風の谷』800m以上の高度にあった。


見下ろせば、先ほど眺めた風の谷の、

幽玄な山々、流れる急流が一望のもとに見渡せる。


ここまでではなくとも、普段滑空で飛んでいたせいか、

高所に対する恐怖は全く感じない。


それどころか、景色を楽しむ余裕がある。


「おお! 素晴らしいなあ……」


風の谷の景色を楽しんでいたリオネルだったが、

いきなりオリエンスの声が心へ響く。


『どうだ? リオネル、素晴らしき絶景であろう!』


『オリエンス様』


気配を感じ、視線を向ければ、

満面の笑みを浮かべたオリエンスと、

彼女に従う眷属シルフのリーアが同じく宙に浮かんでいた。


ふたりへ、礼儀正しく深く一礼し、リオネルは、素直に答える。


『大いなる風の加護、そして飛翔魔法を授けて頂きありがとうございます!』


確かに……

オリエンスの言う通り、眼下に広がる景色は素敵だ。


……このままずっと、景色を楽しむ者も居るに違いない。

満足してしまうものも居るかもしれない。


しかし! 

リオネルは風景を愛でるだけでは飽き足らない。


彼の心の中では、もう景色は二の次。

「習得した飛翔魔法を上手くなりたい! 効能効果をいろいろ試してみたい!」

という気持ちがどんどん強くなっていたのだ。


魔法使いとしての、好奇心かつ探求心という『さが』かもしれない。


それゆえ、リオネルは心の声を張り上げる。


『オリエンス様! 申し上げたい事があります!』


上機嫌のオリエンスは、にっこりと笑う。


『うむ、何だ? 申してみせい、リオネルよ』


『はいっ! 俺、この飛翔魔法をもっと上手く使いたい。使いこなしたいのです! いろいろ試しても、構いませんか?』


『うむ! リオネルよ。思うがまま、自由に飛んでみよ。その為にお前をこの風の谷へ連れて来たのだ』


『ありがとうございます!』


『ふむ、リーアよ。リオネルへ飛翔の手ほどきをしてやるが良い』


『はいっ! かしこまりました! オリエンス様!』


オリエンスに命じられたリーアが、すいすいっとリオネルのすぐ傍へ飛んで来た。


『じゃあ、リオネル君。オリエンス様のご命令だから、私が飛翔の手ほどきをしてあげるよっ! ありがたく思いなさいっ!』


『はい、ありがとうございます、リーア様。何卒宜しくお願い致します』


『宜しい! では! まずはっきりと認識して! 君の周囲にはオリエンス様がお授けになった聖なる風があるでしょ?』


聖なる風?


リーアの言う通り、リオネルは周囲に、

さわやかな風が取り巻いているのを感じ、大きく頷く。


それもただの風ではなく、結構な魔力を含んだ風のようだ。


『聖なる風って……ああ、リーア様、分かります。俺の周りを渦巻いている、これですか?』


『そうよ! リオネル君の周囲を取り巻く聖なる風は、防御壁として敵の物理的な攻撃を大幅に和らげるのは勿論、心身の不調さえも是正する力を持っているわ』


オリエンスが授けた聖なる風とは……

防御力と回復の効果効能を持つ、大いなる魔法風のようだ。


『成る程、聖なる風って、凄いですね』


『そりゃそうよ! 我々風の一族の長たるオリエンス様が、畏れ多くも直々にご加護をお授けになったのよ。地の小娘の、ちゃっちい加護とは全然違うわ!』


主も配下も、やはり他の属性に対するライバル心は相当らしい。


『ええっと……』


立場上、返答に困るリオネルを見て、苦笑したリーア。

更に教授を続ける。


『まあ、良いわ。それで飛翔のコツだけど、基本的には、君が習得している滑空と同じよ』


『成る程。滑空と同じコツで良いのですね? リーア様』


『ええ、無駄な力を抜いて聖なる風に身を任せ、水中を自然に泳ぐような気持ちで、大空を進んでみてね!』


『了解です!』


リオネルは大きな声で返事をすると、

リーアの言う通り、大空をすいすいっと進んだ。


『こんな感じですかね?』


そんなリオネルの様子を見て、


『うむ!』

『良い線、言ってるよぉ!』


オリエンスとリーアは顔を見合わせ、

何故なのか、意味ありげに、満面の笑みを浮かべたのである。

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