第323話「素朴だが、素敵で、のんびりした村なのだ」

リオネルはジェロームへ熱いエールを送った後、しばし歩いた。

村民の自警団か、誰かが、自分の後をつけて来ないか、

また農作業の為に危険を冒し村の外へ出なのか、用心したのだ。


広範囲にわたり有効な索敵……魔力感知を最大にしているから、大丈夫なのだが、

念には念を入れよというモットーからである。


当然ながら、誰もリオネルの後をついて来ないし、誰の気配もない。


よし!


転移トランジション!」


大きく頷いたリオネルは転移魔法を発動。


ここ最近、単独時に行う修行の成果もあり、転移魔法の移動距離は約30㎞まで伸びていた。

転移先の精度も著しく上昇している。


それゆえ、待ち合わせ場所である、ゴブリンの巣穴付近へ、

瞬時にかつピンポイントで到達。

ケルベロス、アスプ達魔獣と合流した。


まずリオネルは、居並ぶ魔獣軍団をねぎらう。

昨夜、彼らは夜通し戦い、約600体ものゴブリンを討伐したからだ。

当然、会話は心と心の会話――念話である。


『お疲れさん。昨夜はありがとう。まずは回復魔法をかけておこう』


リオネルは、ケルベロス、アスプ6体に『全快』を行使した。

魔獣軍団全員の体力、気力があっという間に回復した。


ひと息ついたところで、リオネルはケルベロスから現状報告をして貰う事にする。


『ケル、現状報告を、そして何かアドバイスがあればぜひ頼む』


『了解だ、あるじ。今回の討伐対象ゴブリンの総数は1,155体。うち680体を掃討。我が冥界の蒼き炎で、死骸は全て不死化せぬよう処理済みだ。残りは475体、残党は全てあの巣穴に居る』


相変わらず教師然としてケルベロス。

仕事ぶりもきっちり、完璧である。


ちなみに、冥界の蒼き炎というのは以前墓地で不死者を塵にした蒼き炎であり、

通常吐く灼熱の猛炎ではない。


またゴブリンの総数は依頼数よりも多かった。

魔獣軍団が倒した討伐数も、当初の報告よりやや多い。

報告後に更に倒したに違いない。


ケルベロスの報告は続いている。


『巣穴の最奥にリーダーのゴブリンシャーマンが居る。もはやゴブリンなど、アドバイスもないが、経験値の足しにするのならば、アスプどもとともに、我が勢子を務めてやろう』


『……分かった。一気にケリをつけよう』


『ふむ……では早速、巣穴へ飛び込み、奴らを全て追い立てよう。容赦なくな』


『頼むよ』


という事で、ケルベロスはアスプ6体を率いて、ゴブリンの巣穴へ突入!!


究極の破邪防御魔法『破邪霊鎧はじゃれいがい』を発動したリオネルが、

身構える前に、次々とゴブリン達を追い立てた。


ひゅお! ひゅお! ひゅお! ひゅお! ひゅお! ひゅお! ひゅお! 


風矢連射! 


そして、ただいま練習中!


高圧の水流を飛ばす 水弾も乱射。


どしゅ! どしゅ! どしゅ! どしゅ! どしゅ! どしゅ! どしゅ! 


あっという間に!

ゴブリンシャーマン以下の残党475体を倒したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リオネルがゴブリンシャーマン以下の残党相手に無双していた頃……


戦闘態勢中のジェロームは、エリーゼとともに、ふたりでレサン村の各所をじっくりと点検していた。


エリーゼ自身が望み、家令のバンジャマンを強引に説得。

『ふたりきり』となったのである。


亡兄アンリに酷似しているジェロームと、じっくりと話したかったに違いない。


一方、ジェロームはリオネルの指示もあり、

これまでの経験上、レサン村の防衛上の問題点を指摘。

改良提案などをアドバイスしたのだ。


ジェロームの説明及びアドバイスを、エリーゼは熱心に聞き入った後、

質疑応答があり……

ふたりは、門番と交代で、物見やぐらに上った。


これまでと違い、村の周囲に敵は……ゴブリンどもは全く居ない。


眼下には、リオネルが生成した頑丈な岩壁がそそりたっており、

その岩壁の少し先には、岩石製ゴーレム達が、威圧するように巡回していた。


ふとジェロームが上を見れば、雲ひとつない真っ青な大空が広がっている。


エリーゼが話しかけて来る。


「ジェローム殿、アドバイス……本当にありがとうございます。とても助かります」


「いやいや、お教えしたのは基本的な事だけですから」


エリーゼから礼を言われたジェロームが、謙遜すると……

話題が変わった。


「あの……差し入れの桃は……いかがでした?」


リオネルが出撃後、ある村民がエリーゼへ感謝の気持ちを込め、桃を献上したのである。


その桃をエリーゼは、固辞するジェロームへ、これまた強引にお裾分けしたのである。


ここは素直に礼を言うしかない。


「ありがとうございます! 美味しかったです!」


「本当ですか! 嬉しいです! この村の自慢は、ぶどうと桃ですから!」


ジェロームは自分だけ桃を食べ、リオネルに悪いと思ったのか、ついぽつり。


「リオネルが出撃してからの差し入れなので、あいつにも食べて貰いたかったですが」


ゴブリンの襲撃さえなければ……

レサンはぶどうに桃など、美味しい農産物がたくさん収穫される、

素朴だが、素敵で、のんびりした村なのだ。


「も、桃は……まだ、あ、ありますから……リオネル殿がお戻りになってから……うう、ぐすっ……」


エリーゼの言葉が途切れ途切れとなり、泣き声になり、鼻をすする音が聞こえた。


驚いたジェロームが、エリーゼの顔を見やれば……

彼女の目には、涙がいっぱい溜まっていたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る