第322話「『いろいろ』頼むぞ、ジェローム!」

頼もしいゴーレム10体が配備され、地の魔法で頑丈な岩壁が生成され、

防護壁も大幅に強化された。


「これでレサン村の村民達が、今夜は安心して眠れる」

と、エリーゼは喜んでいた。


明日の朝、リオネルは7時に出撃する。


その後はジェロームと力を合わせ、村の守りを固め、

リオネルの帰りを待つという話をした後……


エリーゼは、家令のバンジャマンとともに去って行った。

今夜は城館へ戻らず、村長の別宅に泊まるという。


さてさて!

リオネルとジェロームが、『宿舎』として案内された空き家には、

一定期間寝泊まりが出来るよう、調理用品、食料、水、薪等々、そして寝袋が用意されていた。

村長からは、焼きたてのパンも『差し入れ』として、届けられている。


長旅をして来た上、村へ到着後も働き詰めで、ふたりは疲れ、空腹である。


リオネルは回復魔法『全快』で、体力と気力をリフレッシュしてから、

ジェロームとともに、夕飯の支度にとりかかる。


かまどでお湯を沸かしながら、ジェロームが言う。


「なあ、リオネル」


「ん?」


「お前がいきなり俺を、レサン村へ残して出撃するって言ったろ?」


「ああ……」


「お前の意図が、さっきの会話で分かったよ」


「そうか」


「……詳しい事情は分からないが、あの子は……エリーゼ様は亡くなった兄上を深く敬愛していた。その大きな悲しみを乗り越え、心労で倒れたお父上の代わりに頑張ろうとしている」


「………………」


リオネルの沈黙は肯定の証である。


ジェロームは頷くと更に話を続ける。


「そもそもリオネル、お前にとってゴブリン1,000体など雑魚だ。全然楽勝出来る相手だ」


「………………」


「もしも俺の修行に付き合わなければ、今までの依頼も、全てひとりで楽に完遂していたはずさ」


「………………」


「リオネル。お前は今回、自分だけでゴブリンどもを討伐するという事は」


「………………」


「その間、エリーゼ様の兄上アンリ様に似ている俺を残し、村を守らせつつ……」


「………………」


「亡くなった兄上の代わりに、俺が彼女を優しく慰めてやれという事なんだろ?」


ジェロームの指摘かつ質問を聞き、リオネルは頷く。


「ああ、そうだ。エリーゼ様が放つ波動、そして様子を見ていて分かった……エリーゼ様は、だいぶ無理をして来ている」


「だな。……見ただけで俺にも分かる。15歳の身で相当苦労をしたんだろう」


「ああ、エリーゼ様は心身に疲労がたまっていて、今の状態は危うい……例えれば、彼女は張りつめ過ぎた楽器の弦だ」


「張りつめ過ぎた楽器の弦……か。女子に全く不慣れな俺がどこまで出来るか、分からないが……お前の出したミッション、頑張ってクリアするよ」


リオネルの深謀遠慮を知り、納得したジェロームは笑顔で頷いた。


夕食後、リオネルはジェロームとじっくり打合せし、自分が留守中の指示を与えた。

主に留守中の警備体制に関してだ。


そして物見やぐらに陣取る夜勤担当の門番へ夜食の差し入れ&労わり、

確認を行った後、就寝したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


翌朝5時……

リオネルとジェロームは、起床。


昨夜の夕食の残りを朝食として摂った後、身支度を整える。


6時過ぎには再び、物見やぐらに陣取る夜勤担当の門番へ朝食の差し入れをし、

慰労した。


リオネルとジェロームの度重なる気づかいに門番は感激し、


「配置して頂いたゴーレム10体が威嚇してくれたお陰で、ず~っと異常なしです!」


と嬉しそうに報告してくれた。


しかし!

実は「異常なし」なのは、ゴーレムの配置以外に理由があった。


レサン村への道中、先導した魔獣ケルベロス、魔獣アスプが、夜通し戦い……

村の周囲に跋扈していたゴブリンどもを駆逐。

半分以上、約600体を討伐していたのである。


そして残党は、村から約5km離れた巣穴の洞窟へ逃げ込んでいた。


それゆえ、ゴブリンどもが村を襲撃する余裕などなかったのだ。

当然、魔獣達から、詳しい報告をリオネルは念話により受け取っている。


これで今回の討伐もめどがついたと言えるだろう。

しかし、緊張が緩むのを避け、

リオネルはジェロームも含め、誰にも現状を伝えてはいない。


……やがて、エリーゼとバンジャマンもやって来た。


日勤担当と交代した夜勤の門番から、リオネル達の『ケア』の話を聞き、

エリーゼは、嬉しそうに笑う。


「リオネル殿! ジェローム殿! お陰様で昨夜は何事もありませんでした! 本当にありがとうございます! そして門番への心遣い、深く感謝致します!」


「リオネル殿、ジェローム殿、本当に助かります!」


バンジャマンも礼を言い、自警団を含む村民達のモチベーションも高まった。


そんなこんなで、午前7時少し前となった。


いよいよリオネルが出撃する。


エリーゼの指示で正門が開けられる。

ケルベロス、アスプ達とは、ゴブリンの巣穴の前で待ち合わせとなっている。


「ご武運を!」

「ご無事でお戻りください!」


というエリーゼ、バンジャマンの声に続き、


「おお~い! 頼むぞ! リオネル!」


というジェロームが送る大きな声も聞こえた。


リオネルが振り向いて手を振れば、

ジェロームのすぐ傍らに、エリーゼが寄り添うように立っていた。

彼女の亡兄アンリに酷似しているというジェロームに、親近感を覚えているのだろうか……


こっちこそ、『いろいろ』頼むぞ、ジェローム!


言葉にこそ出さなかったが……


リオネルはジェロームへ熱いエールを送ったのである。

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