第319話「少なくとも明日から3日以内に、全滅させます」
「えええ? あ、あ、貴方はまさか!? お、お兄様!!??」
ジェロームの顔を見たエリーゼは大いに驚き、絶句してしまった。
「は!? お、お兄様って!?」
いきなり兄と呼ばれ、驚き戸惑うジェローム。
対して、エリーゼはまじまじと、ジェロームを見つめる。
「やっぱり! お兄様よ!」
と、ここでカントルーブ家の家令、バンジャマン・ベゴドーが、
エリーゼへ叫ぶ。
「違います! エリーゼ様! その方はアンリ様では、ございません!」
「で、でも!」
「……今、思い出しても残念でなりませんが、アンリ様は亡くなられました。この世にはもう、いらっしゃらないのです」
「じゃ、じゃあ! 生まれ変わりとか!」
「エリーゼ様、今は有事です。夢幻にすがってはいけませぬ! 気をお引き締めください!」
「…………………」
「エリーゼ様、その冒険者は確かに、アンリ様に良く似ています。ですが、他人の空似……でございますよ。世の中に、似た人間が3人は居るという話ですから」
無言となった領主代行エリーゼと、いさめる家令バンジャマン主従の会話で、
何となく、事情が理解出来た。
エリーゼには亡くなったアンリという兄が居る。
そのアンリは、ジェロームに面影が良く似ているのだと。
「ふう」と、エリーゼは大きく息を吐いた。
どうやら落ち着いたようである。
一方、戸惑っていたジェロームも、事情を理解したらしい。
無言で苦笑していた。
ここで、リオネルが言う。
常に最悪のケースを考え、迅速に対処し、先手を打つべきだというのが、
これまでの経験で学んだ基本スタンスである。
で、あれば。
まずは現状を把握し、やるべき事を迅速に行った方が賢明。
リオネルは、そう判断したのである。
「エリーゼ様、早速現状の確認と、お打ち合せをさせてください。その上で、ご指示を出して頂ければと思います」
「わ、分かりました」
更にリオネルが言う。
「物資の配給を先に実施した方が宜しいのであれば、すぐ作業しますが」
周囲を観察して分かった。
リオネル達が運搬して来た救援物資を、すがるような目で見る村民が数多居る。
対して、エリーゼは大きく頷き、指示を出す。
「はい! ではまず村民達へ食料品を配布し、残りの物資は倉庫へ運びましょう」
荷下ろしする事になり、リオネルは良案を思いつく。
収納の腕輪からゴーレムを出し、手伝わせようと考えたのだ。
モーリス達と依頼遂行をしていた時もそうであったが……
少数で依頼先へ赴くと、どうしても無事に遂行可能なのかと疑念を持たれる。
そこで圧倒的な強さを見せるか、戦力的に充分な様子を見せ、
安心させるのと同時に士気が下がらないようにする事が必要なのである。
ここでゴーレムを出し、作業手伝いをさせるとともに、
ゴブリンと戦わせるとエリーゼ以下に誇示すれば一挙両得である。
先ほどからエリーゼは、ジェロームをちらちらと見ている。
兄に似ているからなのか、相当気になるらしい。
リオネルは、エリーゼへ言う。
「エリーゼ様」
「は、はい!」
「作業……ゴーレムに手伝わせますね」
「はい?」
ゴーレムを手伝わせると言われ、
今度はエリーゼが戸惑うが、リオネルは構わずゴーレムを出した。
はたから見れば、何もない空間から、
身長2m、強靭な石の魔人が突如現れたように見え、示威効果は抜群だ。
「ま!」
「うわ!」
「エ、エリーゼ様!」
驚く、エリーゼとバンジャマン。
「荷下ろしと運搬作業を手伝わせますから」
対してリオネルは「しれっ」と言い放ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ゴーレムのパワーは圧倒的。
あっという間に荷下ろしと運搬の作業が終わった。
そしてエリーゼの指示の下、食料品の配布も整然と行われた。
困窮していたらしい村民達ではあったが、エリーゼの指示に従い、
横入りなどせず、ちゃんと並んで、食料品の配布を受けたのである。
作業が終了し、エリーゼから礼を言われたリオネルとジェロームは、
現状の確認と、打ち合せを求めた。
一行は村長宅で打合せをする事となった。
まずリオネルが依頼書に基づき、質疑応答を行う。
長々といちから現状説明をして貰うより効率的で、内容もしっかりと把握出来る。
依頼書とエリーゼの補足説明を総合すると……
約2年前……カントルーブ男爵家の領地にゴブリンの大群が発生した。
ゴブリンどもは、どんどん数を増やし、農作地を荒らし、レサン村を襲うようになった。
エリーゼの父、アロイス・カントルーブ男爵は配下の騎士、従士を率いて出撃した。だが、ゴブリンどもは数で反撃。
数百体の大群で襲って来た為、苦戦。
多くの死傷者を出してしまった。
その後、ゴブリンどもとの戦いは何回か、繰り返され、戦況は一進一退。
数を増して行くゴブリンどもに対し、カントルーブ家側は防戦一方となり、
終いには、城館さえも襲われるようになってしまった。
レサン村からは、日々苦境が告げられる中、アロイスは心労で倒れ、
元騎士で家令であるバンジャマンの助けを受け、娘のエリーゼが、領主代行に就任。
しかし、その後もゴブリンどもには押されっぱなし。
遂に、冒険者ギルド総本部へ助けを求めたという次第。
リオネルが言う。
「エリーゼ様」
「はい」
「ゴブリンどもの本拠地は判明していますか?」
「それが……この現状では、探索もままならず」
「成る程。分かりました、後は任せてください」
「後は任せる……のですか?」
「はい、エリーゼ様はレサン村で守りを固め、待機してください」
「待機するのですね?」
「ええ、明日の朝に、自分とジェロームが出撃し、ゴブリンどもの大半は倒します。そして、少なくとも明日から3日以内に、全滅させます」
「えええ!? み、み、明日から3日以内に全滅……させるのですか!? せ、せ、1,000体のゴブリンを!!??」
「はい!」
信じられない言葉を聞き、驚き戸惑うエリーゼに対し、
リオネルは、きっぱりと肯定したのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます