第320話「そんなのありえないだろ!!」

明日から3日以内に全滅させる! 1,000体のゴブリンを!


信じられない言葉を聞き、驚き戸惑うエリーゼに対し、

リオネルは、きっぱりと肯定した。


しかし!

強引に呼吸を整え、自身を無理やり落ち着かせ、エリーゼは言う。


「明日から3日以内に全滅させる!? 1,000体のゴブリンを!?…… 失礼ですが、そんなの!! 常識的に信じられませんわ!! 絶対に!!」


見ず知らずの冒険者が来て、

長きに渡るゴブリンども1,000体との戦いをたった3日終わらせる!?

これまでに数多の死傷者を出し、父まで心労で倒れてしまったのに!?


15歳の若輩の身で倒れた父の代役を担い、追い詰められ、焦燥していたのかもしれない。


激高したエリーゼは、リオネルが大言壮語を発したと思ったのだろう。

「きっ!」とにらんだ。


しかし、リオネルは全く動じない。


「そうおっしゃるのは理解出来ます。実際、自分達は、これまでに何度もそう言われました」


「リオネル殿! 3日以内にゴブリンどもを全滅させるという、明確な証拠を示してくださいませ」


「では明確な証拠といいますか、自分達の戦力を申し上げます」


「リオネル殿の戦力ですか?」


「はい、エリーゼ様は、自分達の戦力不足を、ご懸念されておりました。ですから申し上げます」


「では! おっしゃってください!」


「はい、先ほど作業を手伝わせた岩石製ゴーレムが10体、そして鋼鉄製ゴーレムが10体の都合20体、ゴーレム以外に使い魔を7体召喚します。そして自分とジェロームで、配下達とともに、オーク500体、ゴブリン1,000体、次にオーク500体、そのまた次はオーク300体を問題なく倒しました」


「……………………」


「証拠ですが、ワレバットの冒険者ギルド総本部に討伐記録は残っています……まあ、これ以上は説明のしようがありませんし、論より証拠ですね」


リオネルの説明は全く問題がない。


しかし、エリーゼはまだ不満そうである。


「……論より証拠? どういう事ですか?」


「先ほど申し上げましたが、明日になれば、分かる……という事ですよ」


「むうう……」


ここで、ジェロームが割って入る。


「まあまあ、エリーゼ様! リオネルの言う通り、自分達に任せて!」


ジェロームがにっこり笑うと、エリーゼはひどくうろたえる。


「え!!??」


エリーゼは、亡くなった兄アンリにジェロームが似ている事で動揺しているのだろうか。


頬が紅潮していた……


それを見通しているのか、分からないが、ジェロームは柔らかく微笑む。


「明日以降、エリーゼ様は、このレサン村で守りを固め、待機していてくださいよ」


しかし!

念を押したジェロームの言葉で、却ってエリーゼはむきになったようだ。


「いいえ! 絶対! 貴方達に同行し、ゴブリンどもの討伐完遂をしっかりと見届けますわっ!」


きっ! とリオネル、ジェロームを見据え、きっぱりと言い放ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


いきなり出た、エリーゼの討伐同行宣言!


驚いたのは、カントルーブ家の家令、元騎士のバンジャマン・ベゴドーである。


「エリーゼお嬢様! 冒険者に同行するなどもってのほかです! 危険極まりない! 申し出通り、このレサン村で守りを固め、吉報を待ちましょう!」


だが、エリーゼは聞き分けない。


「ゴブリンの討伐完遂を見届けるのが私の役目です!」


しかしリオネルもきっぱりと拒絶する。


「申し訳ありませんが、エリーゼ様の同行はお断りさせて頂きます」


「何故!!」


「失礼な物言いで申し訳ありません。しかし、はっきり言って、エリーゼ様は足手まといです。命を失うのは勿論、下手に怪我でもさせたら、自分達が重い責任を問われますから」


「な!?」


「冒険者ギルドの規約にもあります。生命、負傷にかかわる依頼主の理不尽な申し入れは拒む事が出来ると」


「う、ううう……」


「いずれにせよ、明日から3日以内にゴブリンどもとの戦いは終わります。終わってから討伐完遂現場に出張って頂き、ご確認をして頂きます。これまですべての依頼主に了解して貰いました」


「…………………」


「レサン村の守備要員にゴーレム10体を残して行きます。防護柵も地の魔法で修復しておきますから、守りは問題ないと思います。物資も搬入しましたし」


「…………………」


きっぱりと言うリオネルをにらみつけながら……

エリーゼは、ジェロームへすがるような視線を投げかけていた。


その様子を見て、リオネルはぱぱぱぱぱ!と考えをまとめた。


そして、ひとつの決断をした。


リオネルは微笑み、エリーゼへ言う。


「分かりました」


「リオネル殿……では、私が同行しても宜しいと?」


「いえ、それはOK出来ません。その代わり、ジェロームを置いて行きます。彼とともに、レサン村で守りを固め、ゴブリン討伐をお待ちください。それでいかがでしょう?」


何と!

リオネルは単独行を申し出た。


当然、納得がいかないのはジェロームである。


「お、おい!! リオネル!! バ、バカな事を言うな! そんなのありえないだろ!!」


しかし!


エリーゼは、ジェロームを熱く見つめ、


「……分かりました。同行は諦めます。ジェローム殿、バンジャマンとともに吉報をお待ち致します」


と、あっさり折れ、リオネルの単独行を許可したのである。

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