第318話「あ、あ、貴方はまさか!? お、お兄様!!??」

ワレバットを朝早く、出発。

約半日かけて、リオネルとジェロームは、今回の案件の依頼先の、

アロイス・カントルーブ男爵が治めるレサン村へ到着した。


村の少し手前で、リオネルはケルベロスとアスプに周辺の探索と調査を命じていた。


レサン村は、リオネルが、これまで訪れた村とほぼ同じように、

ソヴァール王国内に良く見られる小さな村のひとつであり、

高さ5mぐらいの武骨な丸太の防護柵に囲まれている。


村道が突き当たる正面には、同じようなぶ厚い板で造られた正門があり、固く閉ざされていた。


そして正門の内側、やや後方に高さ7mぐらいだろうか、物見台を備えた木製のやぐらがある。


このレサン村にほぼ毎日ゴブリンどもが押し寄せ、猛威をふるっているという。

良く見れば、正門や防護柵の表面は傷だらけである。


到着時間は予定通り。

事前にリオネルとジェロームは、伝えていた。

物見台には、村民らしき門番以外に、ひとりの少女と老齢の男が立っていた。

門番も含め、全員が武装しており、物々しい革鎧姿である。


もしかして、この少女が領主代行、

アロイス・カントルーブ男爵の愛娘エリーゼなのだろうか?


ここで、リオネルが大きく声を張り上げる。


「ゴブリン討伐の依頼を受け、冒険者リオネル・ロートレック、ジェローム・アルナルディが赴いた! 依頼された物資もお持ちしたので、急ぎ開門をお願いしたい!」


対して、少女は慎重であった。

すぐに開門せず、こう、のたまったのである。


「冒険者の方々! 当レサン村は、日夜ゴブリンの襲撃を受けているう! これ以上の被害は避けたあい! 賊ではないと確認する為、申し訳ないが、合言葉を言って貰おうぉぉ!!」


少女は用心深い性格のようだ。

当然、リオネルは合言葉を知っていた。

依頼時に、冒険者ギルド総本部へ送られている。


リオネルは迷わず、即座に応える。


「ペッシェだ」


ペッシェとは、桃の事だ。

名前のレサン……ぶどうと、ともに、レサン村は、桃が名産品なのだ。


「OK! 正解よ!」


少女は叫び、門番へ命じる。


「遂に! 待ちに待った救援が来たわ! 門を開けて頂戴!」


「はっ! エリーゼ様!」


少女はやはり、アロイス・カントルーブ男爵の愛娘、

心労で倒れた父に替わって、領主代行を務めるエリーゼらしい。


ぎぎぎぎぎぎぎぎぎ……


やがて、正門がゆっくり開き……

リオネルとジェロームは、レサン村の村内へ入ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リオネルとジェロームの馬車が乗り入れると、エリーゼとのやりとりを聞きつけ、

集まって来たらしい村民達が大勢居た。


村民達の注目は、リオネルとジェロームへ向き、馬車の荷台に積まれた救援物資へ集中する。


村民が発する気配から、だいぶ窮乏していたのが分かる。


しかし、このまま救援物資を配るわけにはいかなかった。


領主代行たるエリーゼの許可を得なければならない。


……やがて、物見やぐらから、エリーゼと老齢の男が降りて来た。


門番は物見台に残ったようである。

引き続き、村外を見張るのであろう。


エリーゼの身長は160㎝を少し超えるくらい、小柄だが、金髪碧眼、容姿端麗。

細面の美しい顔立ちで、きりっとしていた。


まず、リオネルが挨拶する。


「初めまして! 冒険者のリオネル・ロートレックと申します!」


ジェロームも続く。


「同じく、ジェローム・アルナルディです!」


「多分、この少女がエリーゼだろう」と思いながら、念の為、リオネルは尋ねる。


「あの、失礼ですが、貴女様が依頼主のエリーゼ・カントルーブ様でしょうか?」


「ええ、私がレサン村領主代行のエリーゼ・カントルーブですわ」


金髪碧眼の美少女は自分がエリーゼである事を認めた。


……やはりこの少女がエリーゼだった。


リオネルは納得し、小さく頷いた。


続いて老齢の男が挨拶する。


「カントルーブ家の家令、バンジャマン・ベゴドーでございます」


しかし、老齢のバンジャマン以外に、騎士や兵士は見当たらない。


粗末な武器、ぼろぼろの革鎧で武装した、

村の自警団らしき、年齢のばらばらな村民が10人と少し居るだけである。


これで、1,000体ものゴブリンと戦っているのだろうか?


もしかしたら、本隊はゴブリンの襲撃に備え、城館に残して来たのかもしれない。


いつも単独、また少数の仲間とともに戦うリオネルも、

あまり他人の事を言えないが、あまりにも戦力不足である。


しかしエリーゼも、リオネルと同じ事を考えたらしい。


「あの、リオネル殿……失礼ですが、いらしたのは、たった、おふたりだけでしょうか? それも、おふたりともだいぶお若いようですが」


エリーゼの言葉を聞き、ずいっと出張り、声を張り上げたのが、

笑顔のジェロームである。


「大丈夫ですよ! エリーゼ様! リオネルと自分は、ふたりでオークは500体! ゴブリンならば1,000体以上! 楽勝で倒していますから!」


自信たっぷりに言い切るジェローム。


「えええ? あ、あ、貴方はまさか!? お、お兄様!!??」


ジェロームの顔を見たエリーゼは大いに驚き、絶句してしまったのである。

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