第317話「義を見てせざるは勇無きなり」

オーク討伐を無事に完遂したリオネルとジェロームは、それから1か月余りの間、

3つの依頼を完遂した。


まずゴブリン1,000体、次にオーク500体、そのまた次はオーク300体と、

それぞれ数百体の魔物の討伐とともに……

難儀した町村からの要望に応え、様々な問題に対処、依頼先の復興に貢献したのである。


これで、リオネルとジェロームは4つの依頼を完遂した事となった。


リオネルの冒険者ランクは、Aのまま、さすがに変わらなかった。

頂点たるランクSへの道は、果てしなく遠いのだ。


しかし、ジェロームのランクはEからDへ昇格した。


そして魔物とのバトルにより、リオネルのレベルは24へ、

ジェロームのレベルは29を経て,30へ……


各パラメータも順調に上がり、ふたりは順調に成長し、強くなって行った。


また、依頼遂行の合間に受講したギルドの講座により、リオネルは付呪と鑑定の魔法をほぼ完璧に習得。

ジェロームも負けてはおらず、剣技、格闘技に加え、槍術に天賦の才を見せ、数多の魔物を討伐する事が出来た。


先の討伐でリオネルから贈られたオークキングの指輪の効果は絶大であり、

ジェロームの各種能力のビルドアップを後押ししたのだ。


『町村支援施策』実施の経験は、リオネルの各作業の熟練度アップは勿論、

ジェロームが請け負える仕事の幅を大きく広げたのである。


ちなみにジェロームは有言実行を証明した。

依頼先へ赴く際の御者をこなせるようになり、リオネルに習った料理の腕も上がり、多くのメニューを作れるようにもなったのである。


そして現在は、リオネルとジェロームが組んでから、5つめの依頼を受諾すべく選定に入っていた。


例によって、冒険者ギルドからは、5つほど候補が示された。

いつもならば、場所、内容、金額等で、大いに悩むところである。


しかし今回は簡単に決まった。


リオネルとジェロームの意見が一致。

受諾する事にしたのは、レサンという村におけるゴブリン1,000体の討伐である。


ゴブリン1,000体の討伐……

当初は、無謀だ、無茶だと、反対していたジェロームも、

リオネルの圧倒的な強さ、ケルベロス、アスプ、ゴーレムという人外の配下達の強力な布陣により……

常識的に考えたら、ムリゲーな依頼でも、二度目ということもあり、

余裕を持って検討出来る境地へと達していたのだ。


ふたりの意見が一致し、受諾した理由は、

場所でも、金額でも、依頼内容でもなかった。


依頼先の事情である。


その案件の依頼主は、レサン村の領主の『娘』であった。


度重なるゴブリンの襲撃により、父である領主が心労で倒れ、

娘が『領主代行』として、家臣達の助けを借り、懸命に指揮を執っているというのだ。


「リオネル、今回はすぐ意見が一致したな!」


「ああ、だな!」


「義を見てせざるは勇無きなり! だ! 俺は元騎士として、この娘にぜひ、助力してやりたい!」


補足しよう。


義を見てせざるは勇無きなりとは、

『人として行うべき事を、分かっていながらも、それをしないのは臆病者である』という意味だ。


正しい事をするよう、促す時に使われる言葉なのだ。


「ジェローム! 俺も全く同意見だ! 早速受諾手続きをし、用意を整えて、ワレバットを旅立とう!」


リオネルとジェロームは、もう、お約束となった、フィストバンプを行い、

義を見てせざるは勇無きなりと、決意をしっかりと固めたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


3日後の早朝……

依頼を正式に受諾したリオネルとジェロームは、馬車でワレバットを出発した。


ギルドと打合せをした結果、レサン村へ運搬する食料品、生活物資、資材や、ゴブリン討伐に必要と思われる武器防具、魔法薬、魔法ポーション、各種商品も購入した。


目的地のレサン村までは、馬車を使って、約半日はかかる。


道中、支障なきよう、リオネルは索敵を最大限に発揮させ、周囲の状況を把握するとともに……

ケルベロス、アスプ2体の魔獣軍団を先行させ、

山賊や魔物などの妨害者を排除させるよう、はかった。


一方、御者役はジェロームが務める。


冒険者ギルド総本部で、懸命に練習し、何度か、ワレバット外でも走らせている。

元騎士だけあって、馬と折り合うのは上手く、巧みに手綱を操った。


「なあ、リオネル」


「何だい、ジェローム」


「依頼主……レサン村の領主の娘さんって、エリーゼ様って言ったっけ」


「ああ、そうだよ、ジェローム。ゴブリン討伐の依頼主は、エリーゼ・カントルーブ様、アロイス・カントルーブ男爵閣下のひとり娘で領主代行……確か俺達より3歳下の15歳って、ギルドの職員は言ってたな」


15歳の女子……ミリアンと同じ年齢か。

彼女は今頃どうしているだろうか?

しかし、ミリアンならば、キャナール村で上手くやっているに違いない。


エリーゼ様も、妹みたいな子かな……力になってあげたい。

と、リオネルは思う。


一方、ジェロームは、少女の身で父に代わって奮闘する、

エリーゼが健気に思えて、たまらないようだ。


「若干15歳で、領主たる父親の代わりって、相当きついだろ! エリーゼ様を絶対に助けてやらなきゃな! 急ごうぜ!」


ぴししっ!


馬に当てず、派手な音だけ出し、ジェロームは馬車を牽く2頭の馬へ、

急ぐよう、促したのである。

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