第314話「結構……波乱万丈だろ?」
「母の実家から、忌み子のように扱われていた10歳の俺は、無理やりアルナルディ家へ送られたんだ。二度と戻るなと祖父母から言われてな。しかし、そこからがまた新たな地獄の日々の始まりだった……」
ジェロームはそこまで話すと、大きなため息をついた。
リオネルは先ほどから、ひと言も口を挟まない。
否、はさむべきではない。
やはりひと通り話を聞いた方が良いと思うのだ。
「母の実家から王都のアルナルディ家へ送られた俺は、父から正式に認知され、3男として屋敷で暮らし始めた」
「………………………」
「何故、いきなり、母とともに見捨てた息子の俺を、父が引き取ったのか? とても不思議だった。だが、しばらくすると事情が分かった」
「………………………」
「いつの間にか、父の大嘘がバレ、母が一方的な被害者であった事が、世間に知れ渡っていたんだ」
「………………………」
「多分、父を快く思わない、敵対視する者が、屋敷内の誰かに金を握らせて事情を聴き、矛盾点や証拠を揃え、方々へ広めたに違いない」
「………………………」
「各所へ工作し、もみ消そうとした父だったが……世間の風当たりが強くなった」
「………………………」
「このままでは、騎士爵として、立場が悪くなる一方だと焦っていた父が、俺を引き取る事で風当たりを
「………………………」
「しかし、父の偽りが発覚した1年後、正妻が病気で亡くなった」
「………………………」
「俺を引き取る事に唯一、猛反対していた人物が消えたんだ」
「………………………」
「それで俺がいきなり、アルナルディ家へ引き取られたというわけだった」
「………………………」
「外面が良く、大嘘つきの父は、死人に口なしとばかりに、死んだ正妻に全ての罪をおっかぶせた」
「………………………」
「鬼のようだった亡き正妻に脅され、やむなく母と俺を追い出したが、大いに後悔した。心の底から悔い改め、俺を引き取った……というメーキングストーリー……大嘘をでっち上げたんだ」
「………………………」
「結局、婚外子の俺を引き取った作戦は成功した。父は世間から同情され、何とか、騎士爵としての体面を保つ事が出来た」
「………………………」
「俺はその話を、ひとりだけじゃなく、母と仲の良かったという使用人の何人から聞いたのさ」
ジェロームは、ここまで話すと、ふん! と鼻を鳴らしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「俺がアルナルディ家の屋敷へ来た日から、父からは完全に無視され、兄ふたりからはガンガン罵倒され、何かにつけ、執拗な嫌がらせを受けた」
ジェロームの話はまだまだ続く。
リオネルも無言で応える。
時たま、小さく頷くのは、「聞いているぞ」というアピールだ。
「………………………」
「屋敷内の小さな倉庫が自分の部屋として与えられ、まるで牢屋のように押し込められた形で過ごす、辛い生活が始まった」
「………………………」
「食事は1日1食だけで、とんでもなく粗末。また屋敷内で物が無くなれば、俺が窃盗の犯人だと兄達には言い切られた
「………………………」
「兄達は、しつこいし、やり方は悪質だし、腹が立った。思い切りぶっ飛ばしてやろうかと思った」
「………………………」
「しかし、俺は必死に耐えた。もしも騒ぎを起こし、アルナルディ家を放り出されたら、王都の片隅、どこかの路上で野垂れ死にする! という恐怖が、子供心にあったからだ」
「………………………」
「5年間、酷い仕打ちを耐え抜き、俺が15歳になった時、大きな転機があった」
「………………………」
「何と! 父から騎士学校へ入学させると言われたんだ」
「………………………」
「いきなり騎士になれ、騎士学校へ行け! なんて、一体どういう風の吹き回しかと思ったが、考えてみたら、理由はすぐに分かった」
「………………………」
「騎士学校は寄宿舎生活だ。屋敷から出る事となる。つまり、目障りな俺を遠ざけるとともに、婚外子に対しても、面倒見がここまで良いという、世間への点数稼ぎにもなる父の姑息な計算だった」
「………………………」
「そういう思惑を知っても、俺は、やれやれ助かった、と考えた。アルナルディ家から離れ、寄宿舎生活ならば、兄達から虐げられる事もなく、まともに暮らせると、安堵したんだ」
「………………………」
「しかし、俺は甘かった……大甘だったよ。騎士学校の卒業生にあたる兄達が金を使い、同級生へ裏工作し、俺は徹底的にハブられた」
「………………………」
「終いには、同級生達から、『不用品』とあだ名をつけられ、卒業するまで馬鹿にされ、
「………………………」
「しかし、アルナルディ家で5年間耐えた俺はくじけなかった。なにくそ!と思い、3年間、学科と実技を頑張った。結果、上位の成績で騎士学校を卒業する事が出来た」
「………………………」
「18歳になった俺は、騎士学校の成績で、どこかの貴族家から養子入りの口がないかと期待したが、全く駄目だった
「………………………」
「どうしてなのか、理由は少し経ってから判明した。くだらない話だった! 父や兄達が、根も葉もない、俺のひどい噂話を流していたんだ」
「………………………」
「俺は自立したい! この状況から脱出したい! そして、もっともっと修行をし、己を鍛え、強くなって、俺を蔑さげすんだ父や兄達を見返してりたかった!」
「………………………」
「だから、自分の力で稼いで生きて行く為に、これしかないと王都で冒険者登録をした」
「………………………」
「すると父、兄達は怒った。『冒険者など、アルナルディ家の恥さらしだから王都を出て行け』と言われ、実家を追い出されたんだ」
「………………………」
「まあ、くそみたいなアルナルディ家を出たい俺にとって、渡りに船……だったがな!」
「………………………」
「そして、いくつかのクランの助っ人として、依頼をこなし、金を稼いだ」
「………………………」
「いろいろ考えた末に、いっそ冒険者の本場、ワレバットの街で武者修行しようと乗合馬車に乗り、王都を旅立った」
「………………………」
「で、ワレバットに向かう途中、ゴブリンどもに襲撃され、ヤバイ状況に陥り、リオネル、お前に助けて貰ったという、次第なんだ」
「………………………」
「これが俺の生い立ち、ここまでの人生さ。結構……波乱万丈だろ?」
ジェロームは「ふう」と息を吐き、リオネルへ向かい、苦笑したのである。
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