第313話「血がつながっている事がおぞましい!」
冒険者ギルド総本部における手続きが全て完了。
依頼の完遂と魔物の討伐に対する報奨金も問題なく支払われ、
解放感に満ちあふれたリオネルとジェローム。
ふたりは、夕食を兼ねた慰労会を自宅で行う為、途中、市場へ寄り、
『出来合いの料理』と、いくつかの食材を購入した。
購入費は、リオネルが預かった依頼完遂の報奨金の金貨800枚が充てられる。
話し合いの結果、リオネルが500枚、ジェロームは300枚を受け取る事となった。
さてさて!
『全てを出来合いの料理』としなかったのは、
数種類の料理をリオネルが作ると宣言したのである。
旅から戻り、その足で様々な手続きを終えた、
リオネルの疲労を気にしたジェロームであったが……
必殺ともいえる回復魔法『全快』のお陰で心配は全く無用。
冒険者ギルド総本部を出る際に、リオネルが魔法を行使。
ジェロームとともに体力は回復、気分もリフレッシュした。
最高の状態で自宅へ戻り、万全となったリオネルは迅速に手際良く、
ミートパイ、パテ、ラグーなど、いくつかの料理を作った。
殆どの料理が、王都においてアンセルムの宿屋を手伝った時、
習い覚えたものだ。
下ごしらえを手伝ったジェロームは何度見ても、リオネルの料理の腕に感嘆する。
明日にでも、料理を習いたいとリオネルへ頼み、即、了解を貰う。
市場で購入した出来合いの料理は温められ、
リオネル特製、作り立ての料理とともに、テーブルに並べられた。
飲み物も、水属性の魔法杖でキンキンに冷やしたエールが用意される。
そんなこんなで準備は完了。
時間は……午後6時を少し過ぎた。
ふたりは、まず乾杯する事にした。
乾杯の音頭を取るのはリオネル、応えるのがジェロームである。
「オーク討伐、そして農地復興の依頼が無事完遂出来ました。お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした!」
「乾杯!」
「乾杯!」
カチン!
カチン!
冷えたエールが満たされた陶器製のマグカップが合わされる。
「くいっ!」とエールを飲み干すと、ほろ苦い美味さとのど越しの心地よさに、
リオネルとジェロームは、幸せな気分となる。
ふたりは同じ18歳。
青春真っただ中。
若く、育ち盛り。
ぐいぐい飲み、がつがつと食べ、気分が良かったのでたくさん喋る。
話の内容は多岐に亘り、大いに盛り上がった。
しかし……
急にジェロームは、ひどく真剣な顔つきとなる。
「リオネル」
「ん?」
「こういう楽しい
そう言われて、リオネルはピンと来た。
以前、ジェロームは度々寂しそうな表情を見せ、
ハブられていた、不用品だと言われたと、漏らしている。
その際、「もしも話したければ、立ち話ではなく、場を変えてじっくり聞こう」
と、リオネルは約束の言葉を戻した。
ジェロームの生い立ちには、いろいろ深い事情がありそうだと感じたからだ。
「ああ、ジェローム。じっくり聞くよ」
リオネルは微笑み、約束に応えたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……俺はアルナルディ騎士爵家の3男に生まれた。兄がふたり居るが、幼い頃からいつも疎外されていた」
ジェロームは勢いをつけるように、エールをぐいっと飲み干し、話し始めた。
幼い頃から、ジェロームが疎外されていた?
……どうしてなのか? と思ったが、リオネルは口をはさまず、
ひと通り、ジェロームの話を聞く事にした。
「何故なら、俺は兄達とは血がつながらない婚外子だった。母はアルナルディ家の正妻ではなく、使用人だった」
「………………………」
「俺は婚外子の上、両親に望まれて、生まれて来た子ではない」
ショッキングな告白だが、ジェロームは淡々と告げた。
「………………………」
「父はある時、……まだ18歳に満たない母を無理やりてごめにし、もてあそんだ末、妊娠させ、俺を生ませた」
「!!!………………………」
何と! 何という! 非道な!!
リオネルは声を出すのを何とかこらえ、引き続き、話を聞く事にした。
「しかし、父はその事実を隠し、母の妊娠が発覚して、慌ててごまかした」
「………………………」
「激怒した正妻には、母から誘惑され、仕方なく不義の関係を結んでしまったと、根も葉もない大嘘を吐いた……父は……奴は弱者を護る騎士の資格などない! 最低の男だ! クソオヤジだ!!」
「………………………」
「リオネル、俺は父が大嫌いだ。殺してやりたいほど憎い! 俺自身と血がつながっている事がおぞましい!」
ジェロームが持つ、父に対する容赦ない憎悪。
良くあるセリフ、「どんな親でも実の親じゃないか」等、
下手に否定したら許さない!
という、激しい波動が伝わって来る。
「………………………」
「被害者の母は誘惑などしていないと、懸命に抗議したが、所詮は使用人。言い分は黙殺された」
「………………………」
「大ウソつき! 泥棒猫! みだらな
「………………………」
「正妻から散々口汚く罵られ、手切れ金だと僅かな金を持たされ、アルナルディ家を解雇され、母は赤ん坊の俺を連れ、実家に戻された」
「………………………」
「実家でも母は針のむしろだった。母の両親、俺の祖父母は権威主義者で、貴族家の言葉を鵜吞みにし、実の娘たる母が告げる真実の言葉を信じなかったのだ」
続々と語られる、ジェロームの凄絶な生い立ち……
リオネルは拳を「ぎゅっ」と握り締めていた。
「………………………」
「5年後、母は5歳になって、もの心がついた俺に事件の経緯を全て話した。自分には、父が何故いないのだ? と思っていた俺にとって、凄くショックだったよ」
「………………………」
「父から、てごめにされ、もてあそばれた上、真っ赤な嘘をつかれ、正妻からは嘘つき呼ばわれされ、挙句の果てに血を分けた実の両親にも信じて貰えず、とても悔しい! と何度も言い、泣いていた」
「………………………」
「嘆き苦しんだ母は元々、身体が丈夫ではなかった。心労もあって、俺が8歳になった時、病で亡くなった」
「………………………」
「母が亡くなって2年後、10歳となった俺へ、アルナルディ家から連絡が来た。……殺してやりたいくらい憎むべき父からの手紙だった」
「………………………」
「手紙には……俺を引き取ると記されていた」
「………………………」
「母の実家から、忌み子のように扱われていた10歳の俺は、無理やりアルナルディ家へ送られたんだ。二度と戻るなと祖父母から言われてな。しかし、そこからがまた新たな地獄の日々の始まりだった……」
ジェロームはそこまで話すと、大きなため息をついたのである。
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