第307話「さあ、ジェローム。大きな声で報告してくれ」

砦本館内の最奥、司令室の宝箱の中から……

オークキングが秘蔵していたらしい銅製魔法指輪を発見したリオネルとジェローム。


その銅製魔法指輪は、見かけの地味さとは、うらはらに、とんでもないお宝だった。

装着すると、付呪エンチャントされた魔法の効果で、力、俊敏さが大幅に上がり、物理的な防御力も同様に上がる優れモノで、価値は何と! 金貨800枚800万円


そのお宝魔法指輪を、リオネルはジェロームに惜しげもなく贈った。

日々、切磋琢磨し、修行に励み……

砦においてもオークの上位種を20体も倒したジェロームに対する功績の印である。


ちなみにサイズの心配は無用であった。

このような魔法指輪は、

所有者の指のサイズに合わせ、自在に大きさを変えるからだ。


結局何度か、押し問答をした末に、ジェロームは魔法指輪を受け取った。


そして装着すると、その結構な効果に驚きを隠さず、素直に喜んだ。

力がみなぎり、身体がとんでもなく軽くなったのである。

おそらく物理防御力も、著しく上がっているに違いない。


結局、砦内をくまなく探索したが……

お宝はその魔法指輪のみ。


あとは、役にも立たないガラクタと、

錆びて使えない武器、こん棒のみなので回収はしなかった。


最後に、地属性魔法を込めた杖を使うふりをして、

岩壁で左右ふたつの出入り口をきっちりと完全にふさぐ。

新たな魔物、獣が砦内へ入り込めないようにする為だ。


以前よりも、地属性魔法の発動がスムーズである。

地の最上級精霊ティエラの大いなる加護の影響に違いない。


そして、地属性魔法を込めた杖を使うふりをしたのは仕方がなかった。


さすがに最初から、ジェロームへ、

「俺は全ての属性魔法を使えるオールラウンダーなのだ」とは言えないからだ。


とんでもない大騒ぎになってしまう…… 


正門だけは明日以降再度、入れるよう土と岩で簡単にふさいだリオネル。


ゴーレムを収納の腕輪へ搬入。

ケルベロスとアスプに先導、索敵を命じ、撤収、砦を後にした。


これから依頼先の村へ戻り、村長へ依頼完遂の報告をしなければならない。


全てが上手く行き、お宝もゲット。

当然、ジェロームは超が付くくらい上機嫌である。


「リオネル! 本当に本当にありがとう! 俺、魔法指輪を装着するなんて、生まれて初めてだよ!」


「おお、そうか! 良かったな!」


「ああ、力はめちゃくちゃみなぎるし、身体がとんでもなく軽い! 凄い指輪だぞ、これ!」


「そうか!」


ジェロームは、リオネルを見て、目を輝かせ言う。


「ああ、俺、こんなに素晴らしいお宝を親友のリオネルに貰ったと、大いに自慢してやるんだ!」


しかし、リオネルは首を横へ振る。


「いや、ジェローム。気持ちは嬉しいが、それはちょっとやめといた方が良いと俺は思うぞ」


「ど、どうしてだよ?」


「その指輪は俺の見立てで金貨800枚、欲しがる者が居れば金貨1,000枚は行くかもしれない」


「え? 金貨1,000枚!? そこまで高騰するのか?」


「ああ、欲しい奴は金を上乗せしても欲しがるよ」


「む~」


「だが指輪の見た目は本当に地味だから、ぱっと見ではそんなに価値があると思われない」


「ま、まあ、そうだな」


「だが、ジェロームが自慢して、魔法指輪の存在が知れ渡ったら、盗んでも手に入れたいという奴が必ず出て来る」


「え? そ、それは……困る!」


「だろう? だから、あくまでも第三者には、ノーマルで地味な指輪をしていると思わせておいた方が良いんだ」


「な、成る程! 確かにそうだ」


「ああ、だからその指輪の存在は絶対に言わない方が賢明だよ」


「わ、分かった! 悪いな! リオネル! 俺、気を付けるよ」


と、まあ、このような他愛ない会話はあったが……

リオネルとジェロームは無事、依頼先の村へ戻ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リオネルの指示を村長は守り……

村の正門は堅く堅く閉められていた。


既にケルベロスを異界へ、アスプを収納の腕輪へ戻している。

なので、現在はリオネルとジェロームのみが正門前に居た。


また、リオネルは回復魔法『全快』を行使。

ふたりの体力、体調は万全であった。


時間は既に夕方の4時。


オーク討伐はさして時間はかからなかった。

しかし、その後の砦内の探索、

葬送魔法を使った死骸の始末に、結構な時間がかかったのである。


当然、後で村長が依頼完遂の確認用に、オークの死骸を10数体残してあった。


リオネルが声を大きく張り上げる。


「冒険者リオネル・ロートレックに! ジェローム・アルナルディ! 砦のオーク討伐より、ただいま、戻りましたあ!」


それまで到着したリオネル達を凝視していた門番が、

慌てて合図を出し、正門が開けられた。


「さあ、ジェローム、行こう。すぐ村長さん達へ報告だ」


「おお!」


魔物を倒した時もそうだが、

勝利報告をする際の喜びも武人にとっては格別の味わいがある。


リオネルとジェロームが村内へ入ると、村長、助役は勿論……

村民達が大勢、集まっていた。


「さあ、ジェローム。大きな声で報告してくれ」


リオネルに促されたジェロームが、


「皆さあん!! ご報告致しまあす!! 砦のオークどもはあ!! 全て討伐致しましたああ!!」


大きな声を張り上げて大勝利を報告すると、


「わああああああああああああああああああっっっっ!!!!!」


と、村長以下村民達は、大歓声をあげたのである。

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