第302話「お互い、リスク回避を心がけような。生き抜く為にさ」

「オークキングと戦うにあたり、リオネルが能力と奥義を……使うのか!」


「ああ、ジェローム。友であり弟子でもあるお前には、しっかりと見て欲しいのさ」


リオネルはきっぱりそう言うと、柔らかく微笑んだ。


対してジェロームは、やっと気持ちが落ち着いたようだ。


「ああ、分かった、リオネル。友として弟子として、お前の能力と奥義をしっかり見届けるよ」


「ありがとう。じゃあ早速出撃準備だ。まずお前の剣を何とかしなきゃな」


「ああ、これじゃあ、威力が半減して満足に戦える代物じゃない。このままでは凄く不安だ」


ジェロームは、刃こぼれした剣を見て、顔をしかめた。


「よし! 少しくたびれたジェロームの剣は取り替えておこう。ワレバットへ戻ったら、汚れを落とし、切れ味を戻す為、武器屋へ研ぎに出すぞ」


「あ、ああ、そうしよう……俺の予備の剣は、リオネルが持ってるんだったな? そこにあるんだ?」


「うん、持ってるぞ。ほら! ここさ」


リオネルの「ほら! ここさ」 という声と同時に空間から、いきなり剣が現れた。


ジェロームの目の前で刀身が輝いている。


今までジェロームが使用していた剣と同タイプのものだ。


ちなみに、収納の腕輪にしまっておいたのだが、ジェロームには『空間魔法』だと伝えてある。


「うわ! 出たあ」


「おいおい、ジェローム。出たって、お化けかよ? 驚くよりも、剣を受け取ってくれ」


「ああ、サンキュ」


驚くジェロームに出現した剣を拾い、渡したリオネル。


「ああ、そうだ。今までジェロームが使っていた剣はとりあえず回収する。お前の目の前に置いてくれないか」


「お、おう、頼む……うわ、消えた!」


ジェロームから見たら、出現した剣と同様に、

置いた剣が、「目の前でぱぱっと消える」という不可思議な現象だ。


新たな剣と引き換えに、使い込んで刃こぼれしたジェロームの剣を受け取ったリオネルは、左腕に装着した収納の腕輪に仕舞った。


大きく息を吐いたジェロームは、安堵した様子で新たな剣を装備する。


「ふううう……これで良しと。丸腰は凄く不安だから、ひと安心だ……」


「おう。良かったな。お前の魔法杖にも、風弾を充填じゅうてんしておいてやるよ」


リオネルは、空となった魔法杖に魔力を込め、ジェロームに渡した。


「ああ! サンキュ! ところでさ、リオネル、お前、オークキングとは、どう戦うつもりなんだ? やけにのんびりしているけど、考えて、対策とか立てておかなくて良いのか?」


ジェロームの疑問はもっともだ。

そして、自分よりレベルが遥かに上の難敵オークキングとどう戦うのか。

大いに興味があった。


対して、リオネルは即答する。


「ああ、もう既に考えてあるよ」


「おお、そうか! で、どう戦う?」


「ああ、俺は魔法使いであり、剣士でもある。両方の技を使うよ」


「おお、魔法と剣を使う……魔法剣士……ってやつだな。剣聖のブレーズ様みたいでかっこいいな」


「ああ、でもさ。この世界で魔法剣士と言ったら、付呪魔法エンチャントで属性魔法を宿した剣……例えば風の剣とか炎の剣とか、それオンリーで戦う剣士を指す場合が多い。でもブレーズ様は違うし、俺も違うよ」


「え? じゃあ属性付呪の剣は使わないのか?」


「いや、属性付呪の剣は使う場合もある。でも戦う際は、もっと攻撃のバリエーションが多いんだ」


「もっと攻撃のバリエーションが多い? ああ、いろいろな技を使うって事だな? 今まで俺が見て来たリオネルの戦いぶりを見れば、納得だ……」


ジェロームはそう言うと大きく頷いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リオネルによれば、オークキングは、砦の本館に潜んでいるという。


「リオネル、本館に魔導発煙筒は仕掛けなかったのか?」


「ああ、ジェローム。当然、仕掛けた。いくつもな」


「おお、そうか! リオネルなら抜かりはないよな? でもまだ本館の中に居るって、効果がなかったのかな?」


「ああ、効果がいまいちだったか、なかったか。それとも本館内の構造が複雑で煙がオークキングへ届かなかった場合も考えられる」


「成る程! そうか!」


「ああ。俺が教えるよりも、ジェロームは騎士学校で教師……プロから習ったと思うが、ひとつの事象、物事の中にいろいろな要因が隠されている場合も多い」


「ああ、だな!」


「うむ。特にこういう戦場では、そういう事象物事を把握し、分析して、出来うる対策を立てておくのが賢明だ。リスクを軽減し、生き残る可能性を高めるんだ」


「おお、いちいちもっともだ。騎士学校で習ったかもしれんが、こうやって実戦でリオネルから教えて貰う方が、分かりやすいし、すぐ理解出来る」


「そうか。お互い、リスク回避を心がけような。生き抜く為にさ」


「おう!」


「という事で、ここで部隊編成と配置を行うぞ」


「頼む!」


「ああ、本館へ乗り込むのは俺、ジェローム、ケル、アスプ4体。小回りがきかないゴーレム全てと攻撃役の予備隊アスプ2体はこの場に残す。本館残存の敵が構内に出た場合の為、戦闘態勢をとらせながらな」


「おお、納得だ」


「並びはケル、アスプ、俺、ジェロームの順番だ」


「了解!」


「さあ! いよいよ決戦だ。……行くぞ」


こうして……

ケルベロス、アスプ4体に先導して貰いながら、リオネルとジェロームは、

オークキングの待つ、砦の本館内へ突入したのである。

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