第303話「世界は未知にあふれてる、か……成る程な」

魔獣ケルベロス、同アスプに先導されながら、リオネル、ジェロームは砦本館内へ入った。


リオネルによれば、砦本館内の最奥、司令官室にオークキングが居るという。


石を積み上げて造った旧き砦は朽ち果て、入り口付近はまだしも、

奥へ行くと内部は真っ暗である。


しかし魔物は闇でも見通せる。

ケルベロス、アスプは躊躇なく進んだ。


でも人間はそうはいかない。

猫の目を持つ夜目が利くリオネルもわずかでも光源が無ければ先は見通せない。


砦の本館は3階建て。

奥へ行けば明り取りの窓もあり、ずっと闇ではないだろうが、光源が必要である。


リオネルは収納の腕輪から、革兜に装着可能な携帯魔導灯をふたつ取り出した。

両方を点灯させ、ジェロームにひとつ渡す。


砦内に淡い光がふたつ灯った。


当然、リオネルは照明魔法も使う。


『ルークス!』


ぽわ!


リオネルが照明魔法の言霊ことだまを念じると、

極力魔力を抑えた『魔導光球』がそっと闇に浮かび上がった。


砦の本館は迷宮や洞窟ほど、複雑で難解な構造ではないだろう。


だがリオネルは、本館の入り口に『帰還マーキング』を施しておく。

先述したが補足しよう。


『帰還マーキング』とは、

冒険者ギルドの迷宮探索講座で習った方法のひとつである。


簡単に行える割には、中々の優れモノなのだ。


洞窟、迷宮の出入り口、そして途中の任意の場所へ、

魔力を込めた『マーキング印』を施しておく。


帰還する際、照明魔法『魔導光球』を放ち、マーキング印へ向かうよう命じれば、双方が反応し合い、道に迷った術者を導いてくれる。


砦内は、人間が活動するには適度な明るさとなった。


一連の作業をさくさく進めるリオネルを、

ジェロームは感嘆の眼差しで見つめていた。


リオネルの引き出しは底知れない。

共に事を運ぶ度に、新たな能力が明らかとなる。


同じ年齢の親しき友として、尊敬する師として、大きな存在たるリオネルに、

ジェロームの胸は大いに躍るのだ。


「さあ、行こう。……ケル、アスプ、索敵をしながら、俺とジェロームを先導してくれ」


「…………………」


敵が近いから、ケルベロス、アスプは無言で応え、進軍を開始した。

ジェロームはあずかり知らないが、当然、念話でリオネルと意思疎通は行っている。


リオネルは、ジェロームへ微笑む。


「ジェローム。お宝が気になるだろうが、砦の探索は、敵の首魁しゅかい……リーダーのオークキングを倒してからだ。倒したら、その後、じっくりと行おう」


「ああ、そうだな、リオネル。その方が落ち着くし、リスクも少ない」


「ああ、今まで、数多の者が、この砦を散々探索しただろうから、万が一、お宝があったら、ラッキーのレベルだけどな」


「まあ、なあ……今回討伐するオークどもが、どこかで見つけ、この砦に隠していたら、お宝があるって事だろ、リオネル」


「その通りだ。さあ、進もう」


「おう!」


話をしながら、ふたりは周囲への警戒を欠かさない。

加えてケルベロス、アスプからの状況報告にも、リオネルは充分注意。


リオネル達一行は最奥に居る、首魁……オークキングを目指し、進んで行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


しばし歩いて本館内を進んだが……敵は現れない。


ジェロームは、気になっていた事をリオネルに尋ねてみる。


「なあ、リオネル」


「おう」


「あのケルって、でかい狼犬……とんでもない奴なんだろ? ……さっき凄い炎、吐きまくってたぜ」


対して、リオネルはいつもの通り、しれっと答える。

そろそろ……ジェロームへ、『狼犬の正体』を明かしてもOKだと考えていたようだ。


「ああ、あいつは魔獣ケルベロスだよ」


「え!? えええ!!?? ケ、ケルベロス!? って!!! あ、あの!!!」


尋ねたジェロームは、驚き絶句。


「ああ、冥界に棲む魔獣さ。灰色狼風に擬態しているんだ」


更にしれっというリオネルに、ジェロームは食い下がる。


魔法にうといジェロームでさえも、冥界の門番たる魔獣ケルベロスの存在と、

召喚のことわりは、しっかりとした認識があった。


「で、でも! リオネル! ケルベロスって!! と、とんでもないレベルだぜ!!」


「ああ、多分レベル65オーバーだと思う」


「レベル65オーバーって!!?? そ、そんな奴、召喚出来るわけがないよ!!」


「ああ、ジェローム。俺はレベル22だから、常識で言うと召喚は絶対に不可能。21以下の奴しか召喚対象にはならない、呼べないって、魔法学校では習ったよ」


「じゃ! じゃあ! どうして!!」


「いや、俺にも分からない。召喚可能レベルに補正が、かかっているみたいだけどな」


補足しよう。


補正とは、足りないところを補って、誤りを正す事。

または、誤差を除いて適正な値を求める事だ。


この世界で魔法やスキルにおける補正は、

能力に付加されるという認識で間違いない。


「で、でも! おかしいよ! 常識外だ!」


興奮するジェロームに、リオネルは言う。


「論より証拠。実際に俺はケルベロスを召喚している」


「ぐ! そう言われると、何も返せない」


「……ジェローム、それに常識を基準にする事は確かに大事だが、とらわれ過ぎると、混乱して、自分を見失うぞ」


「………………」


「俺は家を追い出され、冒険者となり、旅に出て実感した」


「………………」


「この世界における常識とは、確かに基準とはなる。だが……簡単に変わりもする。世界は未知にあふれてる……ってな」


ジェロームは途中から言葉を返せず、リオネルの話を黙って聞いていた。


そして、


「世界は未知にあふれてる、か……成る程な」


最後はリオネルに同意。

大きく頷いたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る