第299話「わずか10分余りで、全てを倒していた」
「よ! よし!」
ジェロームは軽く息を吐き、剣を構え直した。
仲間を全て倒され、オークの顔は恐怖と怒りに歪んでいた。
その憎悪全てを、迎え撃つジェロームへぶつけようと襲いかかって来る。
この残り1体のオーク、実は上位種。
リオネルが敢えて残したオークオフィサーである。
体格こそ同じだが、ノーマルオークの5割増しくらいの強さがある。
上位種らしく、こん棒を装備しており、めちゃくちゃに振り回していた。
しかし、緊張したジェロームは全く気付かない。
ぐおおおおおおおおっっっっっ!!!
ここでリオネルが声を張り上げる。
「落ち着け! ジェローム! 相手の動きをよく見ろ!」
「……………………」
対してジェロームは無言。
応えなかった。
オークオフィサーのみに集中している。
こん棒を振り上げ、オークオフィサーが襲いかかって来た。
がいいいいいいいんんん!!
オークオフィサーの一撃を、
小型盾で受けたジェロームは少ししびれを感じたようだが、
ひるまず切り返しで剣の刃を叩きこむ。
たあおっ!
気合一閃!
ざしゅっ!
攻撃の後、身体が伸びきり、スキが生じたオークオフィサーの左わき腹へ、
ジェロームの剣はダメージを与えた。
ばばばっと、血が飛び散った。
オークが苦痛の唸りをあげる。
しかし!
打ち込みは浅い。
致命傷ではなかった。
なので、オークオフィサーも、ひるまずジェロームへ襲いかかって来る。
ただ一撃を加えた事で、硬さが取れ、
ジェロームの気持ちに落ち着きが戻りつつあった。
さびついたおもちゃのようにギクシャクしていたジェロームの動きが、
どんどん滑らかになって行く。
たあおっ!
やああっ!
はああっ!
ていやっ!
ジェロームの振るう剣は、騎士学校で習った事もあり、基本に忠実である。
冒険者ギルド総本部の講座で習得した実戦的な、悪く言えば急所を徹底して狙う剣はまだ封印されている。
というか、長年慣れ親しんだ剣技が自然に出てしまう。
しかし、リオネルが認めた通り、ジェロームの実力は中々だ。
俊敏さというよりもパワーで押すタイプらしい。
徐々にオークオフィサーは、押され始め……
ついに打ち負かされ、身体がよろけたスキを衝かれた。
ずばばあっっ!!
これまでに何か所も傷を負っていたオークオフィサーであったが、
袈裟懸けに斬られて、致命傷を負い、絶命したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一騎打ちでオークオフィサーを倒したジェローム。
リオネルが
「お疲れさん、ジェローム、良くやったな」
対してジェロームは、大きく息を吐き苦笑。
リオネル、アスプが倒した都合9体のオークを見たからだ。
「ふうう~。ようやく1体かよ」
「ははは、でもさ、ジェロームの倒した1体は上位種のオークオフィサーだぞ」
「え? 上位種? オークオフィサーだと? 俺、上位種と戦っていたのか……って、こら、リオネル! 何で教えてくれないんだ!」
「ははは、悪い。でも下手に教えるとジェロームの事だから変に力むだろ。だから教えなかったんだよ」
「そ、そうか……確かに途中で余分な力が抜け、集中出来たような気がする」
「だろ? ……と言ってる間に、第二弾、第三弾が来るぞ」
「え? ま、まじかっ!」
「まじっ! ほらゴーレム達を見てみろよ」
「へ?」
リオネルに促され、ジェロームは前衛、中団のゴーレム達を見た。
「おわっ!」
リオネルの言った通りである。
白煙たちのぼる
入り乱れての乱戦となっていた。
当然ゴーレムがさばききれず、オークどもは先ほどより更に多く押し寄せて来る。
その数は100体以上!!
「ジェローム!」
「ん?」
「『全快』……かけとくぞ」
100体以上との『激戦』に備え、
リオネルは回復魔法『全快』をジェロームへ行使した。
「お、おおお! ふっか~っつ!!」
もう何回も経験して、リオネルの『全快』の効用はしっかりと認識している。
まるで強壮剤を飲んだように気合が入るのだ。
ジェロームにあったわずかな疲れが取れ、体力が満タンに。
気力もみなぎり、ジェロームの双眼が「ぎらぎら」と光る。
「はは、リオネル。この魔法……結構やばいんじゃないか、やる気がびんびんだ! 怠け者をガンガン働かせるとかさ」
「はは、そうかもよ。怠け者ジェローム君」
「バカヤロ! 俺は怠け者じゃねえ!」
「ああ、怠け者は俺かもな……という事で今度は俺が前に立って戦うぜ」
「お、おう!」
言葉通り、リオネルが剣を持ち、ジェロームを護るように立ちふさがる。
押し寄せるオークの数は更に増えていた。
100体が倍近くになっている。
ここで指示が出たのであろう。
ケルベロスとアスプ4体が200体のオークへ向け、突っ込んで行く。
乱入したケルベロスとアスプは無双無双無双!
あっという間に数が減って行く。
「おお、やるなあ!」
感嘆するジェロームだが、更に凄い光景を目にする事となる。
ケルベロスとアスプを突破して来た100体のオークへ向かい、
リオネルが凄まじい速度で駆け、単身で突っ込んだのだ。
「はああああっ!!」
気合一閃!
ずば! がん! どがっ! びしゅっ!
オークの群れ100体へ突っ込んだリオネルは、剣、シールドバッシュ、格闘、
そして魔法を駆使。
何と何と! わずか10分余りで、100体全てを倒していたのである。
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