第298話「リオネル!? お、お、俺がやるのか!? あいつを!?」

催涙の白煙に包まれたらしい、苦しむオークどもの悲鳴が、

大きく大きく響き渡った。


4か所に配置されたゴーレムは既に起動しており、戦闘態勢へ入り、

砦外へ出て来るオークどもを今か今かと待ち受けている。


「さあ、ジェローム、いよいよだ。魔導発煙筒の煙でオークどもがいぶし出されて来るぜ」


「お、おう!」


「ジェローム。俺達は正面の正門から出て来るオークどもを掃討する。但し、今回は俺達と組んだ初戦だ。盾とした前衛5体、中団5体のゴーレムが討ち漏らしたもののみを倒すんだ」


「そ、そうか」


「ソヴァール王国騎士の戦法は、馬上槍装備で敵へ集団で突撃し、一気に粉砕するのがセオリーだろう?」


「ま、まあ、そうだな。戦況によって変えたりもするが、基本的には、重騎兵隊の槍突撃ランス・チャージだ。突撃後に敵から離脱しないのなら、そのまま馬上で槍か、または剣を振るったりする。馬が倒されたら、地上で白兵戦も行うぞ」


「そうだよな。対して、冒険者の戦いは最初から千変万化だ。今回に関してはあんこうのような戦法で行く」


「あんこう? 魚のか? リオネル」


「うん、魚のあんこうだ。じっくりと待ちながら、餌となる魚が自分の前を通ると、大きな口で丸飲みにして捕食する。俺達も今回は同じ戦法だ」


「成る程。前衛、中団のゴーレムと戦い、傷ついたり、かわして来たオークどもを討ち取るのだな」


「ああ、それが相手が大群、こちらは少数、多勢に無勢の戦い方のひとつだ」


「う~ん。じゃあゴーレムが倒しちまうから、俺の方までオークは回って来ないぞ。俺に我慢出来るかな? そんな戦い方が」


「ダメだ! 我慢しろ、ジェローム。無謀な事をしようとしたらお前を止める。それにジェロームが考えているよりも、ゴーレムはオークに突破されるぞ」


「そ、そうか! じゃあ、あんこう戦法でも、俺はガンガン戦えるな」


「ああ、オークは結構俊敏なんだ。対してゴーレムは鈍重とは言わないが素早さではオークに見劣る。万が一ゴーレムがさばききれず、大群が俺達の方へ来た場合、ケルとアスプ達に加勢して貰い、オークどもを倒す。その場合、まず自分の身を護る事を考えろ」


「分かった! 飛び道具の魔法杖もいざとなったら使うぜ!」


ジェロームへそうは言ったが……

リオネルは今回ジェロームにつきっきりで戦う事にしていた。


剣、シールドバッシュ、格闘、風の魔法、スキルも総動員。


万が一の場合、破邪霊鎧はじゃれいがいも発動。

自分の身を盾にしてジェロームを護るのだ。


その際、戦闘はケルベロスとアスプ達に任せるつもりである。


「ほら! ジェローム! そろそろ来るぞ!」


「お、おお!」


リオネルが指し示した方向には前衛のゴーレムが居て、

彼らは既にオークどもとの戦闘状態へ突入していたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リオネルの言った通りである。


3方の出入り口のうち、正門からは最大数のオークが砦を脱出。

ゴーレム目掛け、押し寄せて来た。


そして前衛と交戦。

激戦となった。


砦のオークどもは、こん棒を中心にさびた剣、斧など粗末な武器を使っている。


しかし鋼鉄製、岩石製のゴーレムにはダメージを与える事はほとんどなく無力だ。


オークからの攻撃を全てをはじき返したゴーレムは、

逆に硬い拳で次々と殴殺して行く。


ただリオネルの予想通り、俊敏さではオークの方が数段勝っていた。


激戦の末……

一の陣の前衛ゴーレム5体を突破したオークども数十体が第二の陣5体へ。


ここでまた激戦へ突入。


見守るリオネルとジェローム。


ふたりとも剣を抜く。


リオネルが鋭い視線で戦いを見守る。


「やはりな。オークの奴ら、半分くらいは、こちらへ来るかもだぞ。ジェローム、気合を入れろ」


「は、半分!? 20体くらい来るのか!」


「任せろ。俺は魔法使いだ。風の魔法で半分くらい、奴らを打ち倒してやる」


「お、おお! 頼む!」


リオネルはジェロームをかばうように前へ出た。


そして戦闘中のゴーレム達を引き続き見守る。

『大鷲の目』が敵味方の動きをしっかりとらえていた。


やがて、1体、3体、5体、10体とオークがゴーレム5体を突破してやって来た。


リオネル達の手前10mまで接近!


すかさずリオネルの風弾が撃ち出される。


どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん!


5体のオークが身体を撃ち抜かれ即死する。


残りは5体!


4体のアスプが飛ぶように走る!


ばばばっとそれぞれ跳び、オークにかみついた!


崩れ落ちる4体のオーク!

アスプの猛毒が瞬時に回り、倒れ伏したのである。

数分以内にオークどもの命は確実に奪われるであろう。


さあ! 

残るは1体!


まっすぐにこちらへ向かって来る!


ジェロームの傍らでは、ケルベロスがすぐ動ける態勢をとっていた。

何かあれば、すぐ反応するつもりだ。


リオネルが声を張り上げる。


「ジェローム! お前の分、残しといてやったぞ!」


「え!? リオネル!? お、お、俺がやるのか!? あいつを!?」


「ああ、お前がやるんだ。大丈夫! 自信を持て! デビュー戦を華々しく飾ってみろよ!」


「よ! よし! や、やるぞ!」


ジェロームは軽く息を吐き、剣を構え直したのである。

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