第288話「リオネルも失敗するんだ。やっぱり人間なんだなあ」
模擬試合では全てリオネルに敗北したが……
ジェロームはけして弱くはない。
一般の騎士、戦士に比べれば全然強い。
単に、リオネルのレベルが人間を遥かに超越しているだけだ。
物差しとして、ジェロームの強さは、
ブレーズの副官ゴーチェと同じくらいだと、リオネルには思われた。
で、あればリオネル配下の従士達と組み、クランの一員として、充分に戦える。
リオネルは愛用の懐中魔導時計を見た。
時間はまだ午前10時過ぎ。
『ラッシュタイム』は既に終わっている。
本館へ赴き、業務カウンターで受諾可能な依頼を調べ、その場では請け負わず、
いくつかを候補として、一旦自宅へ持ち帰ろうとリオネルは考えた。
そして自宅において、明かしていなかったリオネルの従士達をジェロームへ紹介し、
相談した上で、作戦を立て、どの依頼を受諾するのか決めるのだ。
リオネルは、肩で息をしているジェロームへ声をかける。
「ジェローム」
「ん?」
「疲れただろう?」
「ああ、結構な。しかしお前は息も上がってない。化け物だな? 本当に人間なのか、お前」
笑顔で軽口を叩くジェローム。
この様子ならば、大丈夫そうだ。
「あはは、人間だよ。じゃあ回復魔法をかけてやるよ。今後実戦でもひんぱんに使う魔法だ」
「回復魔法?」
「ああ、回復魔法さ。ほいっと」
リオネルの回復魔法『全快』が無詠唱の神速発動。
放たれた魔力が、ジェロームを包み込む。
著しく疲労が溜まっていたジェロームの心身が、あっという間に回復した。
否!
回復前どころではなく、試合前以上のベストコンディションとなる。
「おお、す、凄い!! リオネル!! あ、あ、相変わらず!! す、す、凄すぎるぞぉぉ!! お、お前の魔法はっ!!」
前回、ジェロームへ全快を行使した時は、ゴブリンの襲撃直後で、
彼の気持ちは相当高ぶって、反応は鈍かった。
今回は、試合の直後とはいえ、平時なので、
リオネルが行使した『全快』の効能効果を改めて認識したらしい。
ジェロームは、とても大きな反応を見せたのである。
「どうだい? ジェローム。回復魔法、結構役に立つだろ」
「いやいや! リオネル! 役にたつどころじゃないぞ! 全身に力が満ち満ちて、この前のゴブリンどころか、オーク100体でも相手に出来そうだ」
前向きなジェロームの言葉を聞き、嬉しくなったリオネルは微笑んで提案する。
「よし、じゃあ、ジェロームの気合が満ちたところで、本館へ行き、俺達が受諾する依頼の候補を出して貰おう。但し、その場で返事はしない」
「え? その場で受けないのか?」
「ああ、依頼候補を家に持ち帰って、ジェロームにも入って貰い、じっくりと作戦会議だ」
「おお! じっくりと作戦会議か! 燃えるぜぇ!」
「うん! 前向きで結構。それと、ともに戦う仲間を、ジェロームへ紹介するよ」
「え? リオネル、仲間を紹介って? あのでっかい
「ああ、あの犬だけじゃない。まだまだ居るよ」
「ま、まだまだ居る? そ、そうか! ま、まあ! 宜しく頼む!」
何も知らないジェロームを驚かそうと……
リオネルは久々に「にやり」と『悪い顔』をしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
シャワーを浴び、汗を流してさっぱりしたリオネルとジェロームは、
本館1階の業務カウンターへ。
業務カウンターの担当職員へ名乗り、要件を告げる。
リオネルが『ランクA』の所属登録証を提示すると、職員の顔色が変わった。
職員曰はく、ランクB以上のランカーは、本館1階の業務カウンターではなく、
応接室で依頼の応対をするという。
しまった! そういえばそうだ!
という表情で、リオネルは苦笑。
頭をかく。
「エステルさんがあまりにも有能で、任せっきりにして、俺も失念していたよ」
そんなリオネルを見て、ジェロームはにやにや。
「おお! リオネルも失敗するんだ。やっぱり人間なんだなあ」
そう言われ、リオネルも苦笑。
「ああ、スマン。ジェロームに突っ込めないな。この体たらくじゃ」
「いやいや、安心したって。でもやっぱりランカー以上は特別扱いなんだなあ……」
などと会話を交わしつつ、
魔導水晶タブレットを持つ職員に先導され、リオネルとジェロームは、応接室へ。
応接室へ入り……
リオネルが職員とやりとりをする。
ジェロームはといえば、じっくりとリオネルと職員のやり取りを観察する。
新しいものをすぐ導入するサブマスターのブレーズ・シャリエ。
職員の持つ魔導水晶タブレットは、簡単な指先の操作で、冒険者ギルドに寄せられた依頼の確認、受諾等々を始め、ほとんどの事務作業が簡単に行えるのだ。
依頼遂行者は、リオネルとジェローム。
討伐系の依頼が希望等……
リオネルが条件を告げ、職員は該当する依頼候補をピックアップ。
魔導プリンターで印字し、受諾は早い者勝ちという条件で、
プリントアウトした紙を渡してくれたのである。
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