第287話「遥か高みに居るお前を目標とする! その為に戦うんだ!」

冒険者ギルド講座受講の初日は……

ジェローム・アルナルディにとって、記念すべきターニングポイントとなった。


周囲からハブられていた同じ境遇の友、友リオネルの温かい心に触れただけでなく、

ハッピーランチをともにした妙齢の美女、


サブマスター、ブレーズ秘書のクローディーヌ・ボードレール、

そして、秘書室へ異動したばかりの元業務担当エステル・アゼマから、


「ジェローム様、頑張ってくださいね♡」


「頑張って! ジェローム様!」


と、大いに励まされ、一気にモチベーションが、爆上がりしたのだ。


麗しい女子達とこんなに親しく話し、優しくされたのは人生で生まれて初めて……


美女ふたりに励まされ、思い切り気合を入れるジェロームを、

リオネルは微笑ましく見つめ、懐かしく思った。


以前の自分も、王都支部の職員ナタリー・モニエに優しく励まされ、

一生懸命に頑張った記憶が、はっきりと呼び覚まされたからだ。


また、ジェロームが選択した講座の内容、教官とも相性が良かったのも幸いした。


『剣技』『格闘術』の上級応用クラス、『サバイバル術』の基礎クラスを、

それぞれ3日で課題に合格、クリアしたのだ。


やる気になったジェロームはもっともっと、

自身のビルドアップをしたいと意気込んだ。


更に『槍』の上級応用講座を申し込み、学び、クリア。


リオネルの自宅で、魔物の特性、魔法ポーション、薬草について教えを受け、

知識を得て、冒険者として、更に成長したのである。


一方のリオネルも、ジェロームの頑張りを刺激として励みとして、

またも新たな力を得た。


地道に学んでいた『召喚術』『付呪』に成果が出たのだ。


召喚術は、対象の二体同時召喚が可能となった。

これで、魔獣ケルベロスに次ぐ召喚対象を同時に呼ぶ事が可能となる。


そして、いずれワレバットの街を旅立ち、フォルミーカ迷宮で探索する際……

万が一ぼっちの状態でも、従士のアスプ、ゴーレムを出動させれば、

一流クラン以上の布陣となり、充分戦える。

万全の状態だといえよう。


ちなみに英雄の迷宮において、アスプを収納の腕輪から呼び出した際、

召喚魔法に見せかけていた。

だが、モーリス達3人、ブレーズ、ゴーチェ主従からは、

『突っ込み』がなかったので曖昧にしておいた。


もしかしたら誰かに「矛盾を気づかれていた」のかもしれない。

しかし、指摘がなければ、今後とも素知らぬふりをするつもりだ。


そして『付呪』の方も、任意の物体に属性の力を宿す『付呪魔法エンチャント』が行使可能となった。

分かりやすく言えば、剣に火の属性を宿し、炎の剣にするような魔法だ。


付呪魔法エンチャント』を習得したリオネルは、

魔法を使う事の出来ないジェロームの為、

かつてのカミーユと同様、風の攻撃魔法が撃ち出せる、

ミスリル製の魔法杖をプレゼントした。


但し、魔力が切れたら使用不可能となる既存品とは違い、

半永久的に使える超高級品であった。

当然、リオネルは自身の分もいくつも作ったのは言うまでもない。


魔法杖をプレゼントされたジェロームは、


「以前の自分ならば騎士の戦い方や武器にこだわり、『飛び道具』や『魔法』を使う事を軽蔑し、断固、拒否していた」


と、苦笑。


そして「リオネル、本当にありがとう! 凄く嬉しいよ!」と大感激したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


冒険者としての考え方、戦い方、立ち居振る舞いも身について来たジェローム。


リオネルと組んで、依頼を遂行するにあたり、

タイマンの模擬戦をしたいと希望した。


対して、リオネルは少し危惧した。


自分と戦う事で、せっかく芽生えたジェロームの自信が、

木っ端みじんに、打ち砕かれるのではと思ったのだ。


しかしリオネルの心配は杞憂きゆうに終わる。


「心配するな、リオネル! 負けても構わない! 俺は修行の区切りを付けたい!」


「ジェローム……」


「今の俺の腕でどこまで、リオネルに通用するのか、師匠としたお前の強さを身をもって体感したい。そして改めて決意するぞ! 遥か高みに居るお前を目標とする! その為に戦うんだ!」


リオネルをまっすぐに見て、

ジェロームは目をきらきら輝かせ、戦う理由を言った。


安堵したリオネルは、勝負を受ける事にした。


冒険者ギルド総本部の闘技場を個人名で借用し、ジェロームと戦ったのである。


模擬戦は、革鎧革兜に、小型盾を装備した実戦形式。

但し武器は、刃を潰し、雷撃の魔法を付呪エンチャントした練習用の剣である。


10分の制限時間内に先に5回ヒット。

5ポイントを先取するか、5ポイントに満たない場合、

10分内で多くポイントを取った方が勝者となる。


そして、とある日の午前。

試合は、行われた。


ギャラリーは入れない、無観客試合である。


10回行われた試合は、すぐに終わってしまった。


……果たして結果はといえば、10試合全て、やはりリオネルの圧勝であった。


リオネルの凄まじい身体能力と攻防の技法に対し、

ジェロームは全く対応出来ず、各試合1分もたず、「瞬殺された」のである。

また全試合終了後、リオネルから、ジェロームへアドバイスも為された。


10戦して全敗。

全く歯が立たずとも、負けたジェロームの表情はさわやかであった。


真剣勝負として手を抜かず、アドバイスもしてくれたリオネルの友情を、

大いに感謝したのである。

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