第286話「リオネルの気配り」

翌日、朝一番から……

冒険者ギルド総本部において、講座を受けるリオネルとジェロームは、

朝食を摂り、連れ立って出かけた。


ふたりとも革鎧姿である。


今日も天気は快晴。

雲ひとつない。

吹く風はさわやかだ。


リオネルとジェロームの気分は否が応でも高まる。


「いい朝だなあ、リオネル」


「本当にそうだ、ジェローム」


「冒険者ギルドの講座って……正式な学校の授業や訓練じゃないけれど……俺、騎士学校の……学生時代に戻ったみたいだ」


「ああ、俺もそうさ。魔法学校の学生時代に戻ったような気がするよ」


「リオネル」


「ん?」


「俺さ、憧れていたんだ、こういうの」


「憧れていた?」


「ああ、気心の知れた学友とこうやって仲良く学校へ通う……そんな事、俺にはなかった。ハブられていたからな」


「ハブられていた? ああ、俺だってそうさ……しかしさあ」


ジェロームは、ハブられていた?

リオネルは怪訝な表情となった。


そんなリオネルの顔を見て、ジェロームは問う。


「ん? どうした? リオネル」


対して、リオネルは言う。


「いや……平凡で地味な顔立ちの、さえない俺に比べれば、ジェロームはイケメンで、結構かっこいいと思う。性格だって素直だし、騎士としての強さもイケてる。どうして、ハブられていたのか、全然分からん」


「………………」


「どうした? 黙って」


「実はなあ、俺がハブられていたのは、理由がある。特別な理由がな」


「ふ~ん。そうか。でも今は違うし、どうでも良いだろ。ジェロームは、俺と友達になったし、今は全然ハブられていないぞ」


「あ、ああ……そうだな」


「それよりさ。今日午前の講座が終わったら、昼飯一緒に食わないか? ギルドの食堂でさ。所属の冒険者だと特別価格で安い。その上、結構美味いんだ」


「リオネル」


「ん?」


「俺がハブられていた特別な理由……気にならないのか?」


ジェロームの表情は真剣であった。


リオネルは柔らかく微笑む。

けしてスルーしたわけではないと。


「ああ、気になるよ。俺も思い切りハブられていたからさ」


「気になるのなら、何故聞かない?」


ジェロームは、リオネルの気持ちが読み切れず、気になった。


対して、リオネルは苦笑。

素直に心の内を明かす。


「いやあ、ジェローム、俺はさ。ハブられて凄く落ち込んで、散々嘆いたし、理由も分かって反省もした。それで一切を完結させたんだ」


「そ、そうか」


「そうだよ。そもそも、ジェロームも俺も、今は、ハブられてないから、もう良いだろ、そんな話……それとも、俺に話してすっきりしたいのか?」


「え、ええっと……そ、それは」


「話したいんだったら歩きながらではなく、場所を変え、時間を作ってちゃんと聞くぞ。もしもジェロームへアドバイス出来る事があれば、するからな」


リオネルはやはり優しい。

面倒とか、うざいとか、嫌がっているわけじゃない。


ちゃんと、ジェロームの気持ちを察してくれた。


リオネルの温かい心に触れ、ジェロームの心も温かくなる。


「……分かった。今じゃなく、いつか話すよ。その時は聞いてくれるかい?」


「ああ、ちゃんと聞くよ。友達だからな」


「あ、ありがとう。……リオネル、昼飯、一緒に食おう」


「おう!」


ふたりは頷き合い、冒険者ギルド総本部の本館へ入って行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


お昼休み……

冒険者ギルド総本部――食堂。


午前の講座が終了。


リオネルとジェロームは、約束通り、ランチを楽しんでいる。


「リオネル」


「おう!」


「お前が言った通りだった。剣技も格闘技も、悪逆な人間や捕食者の魔物相手に、生き残る為なら、急所攻撃、背後からの攻撃等、手段を選ぶな、非情になれと教官から言われたよ。これは騎士ではなく、従士の戦い方だ」


「だろう?」


「ああ、人間はともかく、俺はまず魔物相手にじょうまじえず戦えるようになる。つい騎士の癖で、正々堂々とって考えがよぎってしまうからな」


「ああ、ジェローム。本来は俺だって正々堂々と戦いたいよ。でも緊急事態や、やむを得ない場合は割り切っている。……以前、村の母娘をオークから助けた時は、背後からこん棒で殴り倒したからな」


「そうかあ……リオネル、俺、割り切るよ。今の俺は死を怖れぬ騎士ではなく、生き残る事が最優先の冒険者だからな!」


と、そこへ何と何と!


またも、リオネルとジェロームの前に現れたのは、

サブマスター、ブレーズ秘書のクローディーヌ・ボードレール。

そして、秘書室へ異動したばかりの元業務担当エステル・アゼマであった。


「あら! こんにちは。またお会いしましたね! リオネル様! それとジェローム様でしたわね!」

「こんにちは! うわあ! おふたりはお昼ですかあ?」


対してリオネルは、


「お疲れ様です。クローディーヌさん、エステルさん。……そうです。今日は講座を受講していて、合間のランチです」


と普通に答えたが、ジェロームは妙齢の美女ふたりに上がりっぱなし。


「は、は、はい~! そ、そうですう!」


大いに声を上ずらせてしまった。


ここでリオネルが気を利かせ、


「おふたりもお昼ですか? もし宜しかったら、ご一緒しませんか?」


誘ってみれば、何と何と何と!


「はい! 喜んで!」

「私も同じく!」


こうして……クローディーヌとエステルが加わり……

リオネルとジェロームは、美女ふたりと、

ハッピーなランチタイムを楽しんだのである。

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